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百折不撓のアルゴリズム-semicolon-  作者: 一ノ瀬隆
序章 輪廻融合のイグニッション

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1話 新時代

「今日は快晴。まさにバイクの調整日和って感じね」


雲一つない、真っ青な空の下。

アタシ、ローズ=アーゼリアは、手に持ったレンチを軽く回しながら、日課となっている愛車のバイクの整備に汗を流していた。


オイルの匂いと、心地よい風。この退屈なほど平和な世界に感謝しながら生きるのが、アタシのささやかな日常だ。


アタシの生家である『アーゼリア家』は、この世界でもちょっとばかり名の知れた、いわゆる名家というやつだ。


そのせいで、小さい頃からこれまでずっと、手の皮が何度も剥けるほどの厳しい剣術の修行を強制されていた。それがちょうど1年前、ようやく親を納得させられるレベルの強さに到達して終わって。今ではその反動とストレスを、こうして『バイク』という最高にロックな趣味で発散しているってワケ。


「......それにしても、この世界は平和すぎて退屈よね」


カチャカチャとボルトを締め直しながら、アタシは思わず独り言をこぼす。


大体500年前。かつての剣聖レイ=ヴァルセリアが、世界を支配しようとした『円卓』という厄介な組織からこの世界を救って以来。

世界はずっと、歴史の教科書に載るような大きな戦争もなく、ぬるま湯のような平和を享受している。

ちなみに、その時の剣聖の仲間であり、天才魔法使いだったソフィア=アーゼリアと、アクシアっていう二人の英雄が結ばれて出来た直系の子孫が、何を隠そうこのアタシだ。


偉大な血筋。何不自由ない生活。

でも、アタシの心の奥底にある何かが、この平坦な日常に物足りなさを感じてウズウズしているのだ。


「......少しくらい、面白いこと起きてもいいのにね」


綺麗に磨き上げられたバイクのタンクに映る自分の顔を見つめながら、アタシが何気なくそう呟いた。


──────その時だった。


「あ、あぁ......」


ふと、背後から掠れたような声が聞こえた。

弾かれたように振り返ると、少し離れた場所に、深くフードを被った見知らぬ男が立っていた。


全身を覆い隠すような外套に、顔が見えないほど深く被ったフード。こんな平和な白昼堂々、どう見ても不審者極まりない佇まいだ。アタシは無意識に、右手に持っていた重いレンチを武器のように握り直した。


けれど。


「......?」


なぜだろう。その男から漂う雰囲気には、警戒心を抱かせるようなピリついた敵意や悪意が全くなかった。それどころか、酷く穏やかで、優しげな空気を纏っている。


さらに不思議なのは、絶対に初対面であるはずの相手なのに、彼の姿を見た瞬間に胸の奥がキュッと締め付けられるような、言い知れぬ『懐かしさ』を感じたことだ。

まるで、遠い昔に同じような光景を見たことがあるかのような。魂の奥底に刻み込まれた記憶が疼くような、奇妙なデジャヴがアタシの心をざわつかせる。


アタシがレンチを握りしめたまま彼をじっと見つめ、その存在を明確に認識したことに気づいたらしい。


フードの男は「あ」というように小さく肩を揺らすと、どこか自信なさげだった居住まいをしゃんと正し、こちらに向かってゆっくりと足音を立てて近づいてきた。


「......君は、ローズ=アーゼリアに間違いない、ね?」


アタシを知っている?


確かに、アタシはあの英雄ソフィアの血を引くアーゼリア家の末裔だ。だけど、この平和が当たり前になった世界じゃ、アーゼリア家なんてのはただの過去の栄光が目立つだけのお飾りみたいなもの。アタシ自身の知名度なんて、その辺にいる一般人とほぼ一緒のハズだ。


警戒と困惑で眉をひそめていると、その男はフードの奥からアタシを真っ直ぐに見据え、静かに、けれど確かな熱を帯びた声で続けて口を開いた。


「この循環する世界の果てを壊す為、俺たちはいろいろ準備してきた。......その、最後のピースが君なんだ」


アタシが、最後のピース?

突然現れた不審者の、全く先の見えない突拍子もない話のハズなのに。なぜか体の奥底の血が、ひどく熱くウズウズと脈打っているのが分かった。

この退屈で退屈で仕方なかった平和な日常を、根本からひっくり返してぶち壊してくれるような。そんな抗いがたい強烈な『期待』が、アタシの頭の中を急激に埋め尽くしていく。


男は、ゆっくりと右手を差し出し、アタシに告げた。


「君は、銃剣ゲヴェニアに選ばれたんだ」


──────ドクンッ、と。


その一言が。

あまりにも現実離れした、アタシの血を沸き立たせるロマンしかないその一言が。

恵まれた環境の中で、どこか現実を冷たく退屈なものだと見限っていたアタシの心を、文字通り真っ直ぐに撃ち抜いたのだった。


「......銃剣、ゲヴェニア」


その言葉を反芻した瞬間。

アタシの中で、退屈という名の氷に閉ざされていた世界が、今、確かな熱を帯びて激しく解け始めるのが分かった。


────────────────────────────────────



──────輪廻を続ける世界。


──────分かたれ、対立する世界。


ウロボロスシステムという絶対的な理のもと、神代の昔から狂わせ続けた運命の巨大な歯車は。悠久の時を超え、五百年の平和を打ち破り、遂にこの地に英雄たちを呼び集める。


これは、人が人であるための聖戦の始まり。

そして、終わらない絶望に抗い続けた、龍と人の最終悲願(エンドクリーク)


銃剣、龍剣、華剣、聖剣。


そして、魔剣。


五つの剣を持ちし英雄は、運命に導かれるように、今ここに集う。


──────第Ⅺ次観測、開始。

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