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馬車強盗

 翌朝、〈アコ〉が帰るのを皆で見送った。


 〈アコ〉は笑ってはいたけど、とても寂しそうだった。

 前より、もっと許嫁達の仲が、良くなっているのが分かった。もう完全に友達だな。


 〈アコ〉が、何だか非難しているような、訴えているような意味深な目で、僕を見てたのは何故なんだろう。

 気になるな。


 〈アコ〉が帰って、部屋でまったりしていると、また突然中年猫が現われた。

 今度も、一mほど離れた空中に浮いていやがる。


 「また人の部屋に、無断侵入か。でも、今回は許そう。この間は助かった。ありがとう。《紅王鳥》の攻撃を跳ね返せて、命拾いしたよ」


 「役に立って良かったョ。言ったとおり、素晴らしい特典だったろう。特典は一回切りだから、もう無茶したらいけないョ。今日はその話じゃなくて、忠告に来たんだョ」


 「忠告? 本当に懲りたよ。もう命が危ないことは絶対しないさ」


 「それは守って貰わないと困るけど、その話じゃ無いョ。良くない波動を帯びた五人組の動きが、怪しいんだョ。今、街道を必死に走っているんだョ。町の外をウロウロしてたんだけど、何かを狙っている気がするョ」


 聞き捨てならない話だ。

 〈アコ〉が帰っていったタイミングと合うじゃないか。悪い予感がする。


 「ありがとう。中年猫」


 中年猫に礼を言って、僕は直ぐに行動を起こした。

 買ったナイフを腰に差し、ホールの剣を乱暴に引き抜いて、厩舎へ向う。


 途中で見かけた訓練帰りの〈ハズ〉に、直ぐに僕を追って街道を進むように指示を出した。

 〈ハズ〉は大声で何か言ってたけど、今は構ってられない。

 〈アコ〉が乗っている馬車が、狙われている可能性があるんだ。


 〈星雲〉に跳び乗り、街道を目指した。門番は吃驚してたが仕方が無い。


 街道を暫く進んでも、〈アコ〉の馬車は中々見つからない。相当前に町を出たからな。

 今はもうお昼時だ。 


 そう思っていたら、街道から少し外れたところに、白い煙が立ち昇っているのが、目に入った。

 あそこか。


 急いで〈星雲〉をやると。馬車が見えくる。馬車一台と、人が数人いるようだ。

 さらに進むと、女の子の悲鳴が聞こえてきた。


 「キャー、イヤー。手を離して。止めて。お願い」


 これは〈アコ〉の声じゃないか、悪い予想が当たってしまった。

 拙いことに〈アコ〉が、捕まっているのが見える。


 〈星雲〉から降りると、〈アコ〉を捕まえている強盗に近づていく。

 五人の強盗のうち、三人は倒れて動かない。

 一人いた護衛の兵士も、剣を固く握りしめたまま倒れ伏して動けないようだ。


 お付のメイドは、強盗の一人に縄で縛られている最中で、口に猿轡を嚙まされて、ウーウーと、くぐもった悲鳴を上げ続けている。


 〈アコ〉は、強盗に強く腕を掴まれて、逃げられない。


 昼食のための鍋がひっくり反り、黄色いシチュ―が辺り一面に撒き散らされて、白い湯気を盛んに立てているのが見える。

 シチュ―の具の赤いニンジンと、緑の葉野菜が土に塗れて、黒い瘴気に侵されたように転がっているのが、この惨劇の象徴に見えた。


 馬車を止めて、昼食を取ろうとした時に襲われたようだ。

 走って馬車に追いつけるタイミングはもう訪れないから、真昼間でも構わず襲ったんだな。


 「そこの強盗。その子から手を離せ」


 「ケッ、何だ、お前は。一人だけか。まだ、子供のクセに、二人を相手にする気か」


 汚いなりをした強盗だ。体格は貧弱で、がりがりに痩せている。

 大方、逃亡した奴隷か、食い詰めた他所の領民のなれの果てだな。

 持っている武器も、錆びたナイフしか無い。


 「あぁ、〈タロ〉様。私のことはお気になされずに、どうぞこの場から逃げて下さい。〈タロ〉様は大切な方です。危険なまねはお止め下さい」


 「クッ、貴族の糞ガキが。イチャイチャしやがって、虫唾が走るわ。このメスガキは俺様がたっぷり可愛がってから、奴隷に売り飛ばしてやるぞ。ガキのクセに良い体してるんで、楽しみだよ。ハッハッハ。バカ坊ちゃんも奴隷になって、俺様の財布を膨らませてくれよ」


 メイドを縛っている強盗も。


 「俺はこっちのメイドをいただくぜ。若くてピチピチしてて、もう涎が止まらないよ。オッパイも、おケツも、パンパンに張ってて、手を跳ね返しやがる。ヒヒヒ」


 「あぁ、どうか助けて下さい。お願いします。〈タロ〉様だけでも見逃して下さい」


 「ケッ、五月蠅いメスガキだな。大人しくしてろよ。しないと酷い目に遭わすぞ」


 「あっ、痛い。強く握らないで。乱暴にしないで、離して下さい」


 「止めろ。〈アコ〉の手を離せ。離さないと只じゃおかないぞ」


 「フン、勇ましいこったな。子供のごっこ遊びか、笑わせるな。メスガキを酷い目に遭わせたくなかったら、持ってる剣をこっちに放れ。早くしないと、もっと酷い目に遭わせるぞ」


  強盗はそう言うと、〈アコ〉の喉に錆びたナイフを当てて、ニチャッと笑っている。


 〈アコ〉が堪らず「キャッ」って小さな悲鳴を上げた。

 涙がポロポロ頬を伝って、〈アコ〉の胸の辺りを濡らし続けている。


 「分かった言うとおりにするよ。だから、〈アコ〉に酷いことはするなよ」


 「あぁ、〈タロ〉様、いけません」


 「五月蠅いな。いい加減にしろよ。このメスガキが」


  強盗はそう言うと、錆びたナイフに力を込めた。

 〈アコ〉の喉に、少しナイフが食い込んで、白い肌が汚れていく。

 〈アコ〉は「ヒッ」と息を呑むと、目が虚になり、気力を失ったようだ。

  下を向いてしまって、涙が直接、地面に落ちている。


 「直ぐに剣を投げるから、待てよ。今、放るよ」


 強盗の足元に、剣を高く放り投げると


― ガチャン ―


と大きな音を立てて、剣は地面に落下して、横倒しになった。


 「おぅ、オスガキの方は聞き分けが良いな。それにしても、バカなガキだ。丸腰じゃもう終わりだ。こっちは、錆びたナイフしか無いんで、本当はビビってたのにな。ハッハッハ」


 強盗は、ホットしたような、嬉しくて堪らないような笑い顔で、落ちた剣を拾おうと身体を屈ませた。


 不用意に屈んだため、僕から眼が離れ、おまけに背中を晒すことになっている。


 これを待っていたんだ。戦闘中に屈んだらダメだろう。


 強盗が拾おうと握った剣を、素早く移動して足で踏んでやった。

 スキルを使うまでも無かった。


 呆気に取られて、僕の方を向いた強盗の首筋に、ナイフを「スッ」と滑り込ませると。

 気管が「グヒィ」と鳴って、勢い良く血を吹き出しながら、スローモーションのようにゆっくりと前屈みに崩れた。


 本で読んだ剣術の奥義を試してみたら、相手がド素人のためか、面白いくらいに嵌まったな。


 人間は、圧倒的に有利となる状況が生まれる時に、大きなスキを作ると言うものだ。

 それを印象付けるため、出来るだけ大きな音を立てて思考を誘導するのも、ポイントって書いてあった。


 剣を拾って、何が起きたか分からず悄然としている〈アコ〉を、僕の背中に庇って、一安心だ。

 残った強盗は、メイドから手を離して、呆けた顔をして茫然と立っている。


 そこに、蹄の音が近づいてきた。


 「〈タロ〉様、お怪我はないですか」


 「おぉ、〈ハズ〉、良く来てくれた。掠り傷も無いよ。そこに一人強盗が残っているので、排除してくれ」


 「分かりました。お任せ下さい」


 強盗は、ハッと我に返って、慌ててメイドを人質に取ろうと、手を伸ばしかけた。

 しかし、時すでに遅し、〈ハズ〉の投げた槍が胸を貫いて、地面に縫い付けられて絶命したようだ。


 「〈ハズ〉、大した腕だ。訓練の賜物だな」


 「〈タロ〉様、有難うございます。ただ、賊は木偶の坊だったので、褒められるようなものでは無いですよ」


 メイドは〈ハズ〉に任して、〈アコ〉の様子を見ると


 「〈タロ〉様、〈タロ〉様、あぁ、〈タロ〉様。もう私は…… 」


 と大泣きしながら、〈アコ〉が僕の胸に縋り付いてきた。言葉にならないようだ。


 僕は〈アコ〉の頭を柔らかく、そっと撫でながら、背中にも手を添えた。

 こんな時は人肌を感じる方が、心が安定すると聞いたことがあったんだ。

 しばらくすると、〈アコ〉がお礼を言ってきた。ただ、声はまだ震えている。


 「〈タロ〉様、少し落ち着きました。本当に有難うございました。メイドの〈リド〉も助かりました」

 

 「そんなに気にしなくて良いよ。〈アコ〉が無事で本当に良かったよ。「天智猫」が嫌な予感がすると言うので、様子を見に来たんだ。来てみて良かったよ」


 「〈タロ〉様、私を助けに来て頂いて、感謝しかございません。お礼を幾千、幾万回言っても、言い足りませんわ」


 「〈アコ〉を助けるのは当然さ。僕の許嫁だからな。それより、腕と喉は大丈夫なの」


 〈アコ〉は自分の喉を触って、腕を見て「喉は掠り傷程度で、腕は赤くなっているだけです」と返事を返したきた。


 〈アコ〉は、随分と落ち着いて、普通に話せるようになってきたようだ。

 ただ、僕の胸に身体を預けるのは止めない。僕から離れたくないのかな。

 それは僕も大歓迎だ。〈アコ〉の身体は、柔らかくて良い匂いがするんだ。


 〈ハズ〉の方を見ると、まだ泣きじゃくっているメイドの子を胸に抱いて、必死に宥めている。


 「〈ハズ〉、大変そうだな。頑張れよ」


 「〈タロ〉様こそ。また、危険なことをしたと皆に怒られますよ。言い訳を頑張ってください」


 「うーん、怒られるかな」


 「立て続けにやらかしてますからね。そりゃもう」


 「困ったな。そうだ、賊の討伐は〈ハズ〉がしたことにしてくれよ。僕は〈ハズ〉の後ろで安全だった。これでいこう」


 「嘘を吐くんですか、気が進みませんね。〈タロ〉様の手柄を横取りするのも、気が引けますよ」


 「怒られるのに、手柄もないだろう。それに〈ハズ〉も、僕を危険な目に遭わせた、監督不行き届きの罰を食らうよ。何故止めなかったって、そりゃもう袋叩きだ」


 「酷いな。脅すんですか。分かりました。〈タロ〉様の言うとおりにしますよ。ただ、もう危険には飛び込まないって、誓って下さいよ」


 「分かっているよ、〈ハズ〉。もう決してしないと誓うよ」


 「〈タロ〉様は、前回もそう言ってましたね。ほんとに頼みますよ」


 「今度は本当だよ、信じてくれよ。話を上手く合わせてくれよ。分かったか」


 「分かりましたよ。何とかしますよ。しょうがないな」


 「〈タロ〉様、私のせいで〈タロ〉様にご迷惑をお掛けしてすいません」


 「〈アコ〉が、悪いわけないじゃないか。〈アコ〉のせいじゃ無いよ。〈アコ〉が無事なら、後は些細なことさ。でも、話は合わせてくれよ」


 「〈タロ〉様が、そう仰のなら従います。けれど、私は〈タロ〉様に助けて頂いたことを、一時も忘れたりしませんわ。心に刻み込みました」


 程なくして、僕を捜していた兵士も到着して、現場の後片付けを行った。

 護衛の遺骸は真新しい布に包んで丁重に扱ったが、賊の死体は証拠の為にズタ袋に詰め込んで終わりだ。


 《ラング》の町の方が近いため、一旦、引き返して、休養して貰うことになった。

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