お触りタイム
時系列的にはミアの両親へのご挨拶直後です。
R15。
羽を触ってるだけです。
もう一度言います、
羽を触ってるだけです。
「黙ってるなんて酷い!!」
『羽は性感帯の端くれだからな』という衝撃発言を聞いて、私はいじけまくっていた。
実家にグレンさんと二人で帰って、優しくて温かい時間を過ごして、グレンさんと二人で温かい家庭を築きたいなってほっこりしたけど、『それはそれ、これはこれ』である。
今まで同族の人たちの前で私はグレンさんの羽を触りまくっていたのだ! 知らない間に破廉恥な女に仕立て上げられていたのだ。怒ったっていいと思う!
「悪かったって」
グレンさんが眉尻を下げて謝ってくる。
「グレンさんとはしばらく口ききたくありません」
私がつーん、と顔を背けるとぺしょん、とグレンさんの灰色の大きな羽が垂れてしまった。
「……そんなにか?」
大人の顔で困ったな、という表情と浮かべているグレンさんだけど、羽はまるで雨に打たれる仔犬のようにシュンと項垂れていて、ギャップの尊さに私の中の母性が暴れ狂う。
「……俺が悪かった。許してくれ」
私を抱き寄せて、苦しげに目を伏せて謝る超絶美形の破壊力に心臓がきゅぅぅんと悲鳴をあげる。でも、この程度で許すわけにはいかない。私を破廉恥な女に仕立て上げた恨みは深いのだ。
「どうしたらいい? 何でもする。お前にそっぽを向かれると正直、……かなり堪える」
私の髪をくすぐる低く艶やかな声。私を見つめるエメラルドの強い眼差し。そして、甘い殺し文句。
「……っ」
もうダメだった。トキメキすぎて拗ねた気持ちも吹っ飛んでしまった。
「……なんでもですか?」
「ああ」
「じゃあ――」
私のお願いを「そんなことでいいのか?」と、二つ返事で受け入れてくれた彼に私は心の中で黒い笑みを浮かべた。
5分後、私は思う存分にグレンさんの羽を撫でまわして、その心地よさにだらしない笑みを浮かべていた。
「ふへへ〜。グレンさんの羽きもちいいです」
前世の私はモフモフ大好きのモフリストであり、野良猫をも屈従させるゴッドハンドの持ち主だった。
今までは遠慮してお触りしていたけど、今日は本気を出してのお触りタイムだ。
「外は艶々だけど、中は子猫みたいにふあっふあな羽ですよね」
「……っは、ぁ……っく」
少し眉根を寄せて、目を閉じているグレンさんの凄まじい色気に私は変なスイッチが入っていた(通常運転)。もっと悦ばせてみたい、顔面偏差値が天元突破しているグレンさんのえっちぃ表情をもっと見てみたい! いや、女として生まれたからには何がなんでも見なければならない! そんな謎の使命感を爆発させてゴッドハンドを遺憾なく発揮させていた。
「っく、そ……おい、ミア誰に習った? ……ッぅ」
潤んだ瞳、上気した頬、乱れた前髪、刻まれた眉間の筋。神の寵愛を受けた人外レベルの美形が口端から熱い吐息を吹きこぼしながら私を睨んでいる。
た、たまらない……!
だって……あのクールなグレンさんが! いつも余裕のある態度を崩さないグレンさんが! 私を翻弄しまくるグレンさんが! 私の手でこんな風に乱れていると思うと、なんだか満たされるものがある!
「やきもちですか? 可愛いですね」
「ふざけ……うあッッ……!」
痛くない程度に少しだけ爪を立てて擦ってあげると、グレンさんがガクッと私の膝の上に倒れ込んで来た。
「ん、これが好きでした? たくさんシてあげますね」
「……や、めろッ……それ、っ……」
眉間に皺を寄せ、私を睨みあげるグレンさん。
突き刺すような鮮やかなエメラルドと視線が絡む。上気した顔ではぁっ、はぁっ、と乱れた息を溢す彼は、すさまじくエッチだ。
「くそ、もう、いいだろ……っ」
彼の瞳を覗きこみながら「んー」と迷うふりをした後、うっそりと笑った。
「まだだめですよ?」
「なっ、ぁ……ぅ、〜〜ッ」
膝枕の体勢なのをいいことに彼の髪をすくように撫でながら、くすくす笑う。
「わざと教えてくれなかったグレンさんに対するお仕置きなので。だから、もう少しだけこうさせてくださいね。あっ、でも、グレンさんは動いちゃダメですからね?」
「〜〜ッ分かった。でも、これ以上、するなら……後で、ック、どう、なっても、知らないからな……」
余裕のない表情でギリギリと悔しそうに発した彼の忠告を、はいはい、と聞き流した私は――やり過ぎて、この後スイッチの入ったグレンさんに逆襲されてひんひん泣かされるのだった。