表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんとん大戦  作者: 寿
62/68

T字戦法


 そして夜明けがやって来た!

 起床ラッパよりはやく、出港ラッパが鳴り響く。

 すでに昨日のうちに上陸員は呼び戻され、出港準備は整えられていた。

 俺がバルチック艦隊発見の一報を入れたのは、昨日の昼間。

 しかし夕暮れ時には、監視船や見張り台から次々と、同じ報告があがってきていた。

 故に、上陸員の回収や出港準備に、一切の迷いがなかった。

 戦艦三笠も動き出した。

 窓は無いが、揺れでわかる。

「いよいよですね、お兄さま」

「あぁ、ついに決戦というやつだ」

 海軍少尉を名乗ってはいるが、俺自身戦争ははじめてだし、決戦の場に立つのもはじめてだ。

 正直、武者震いのひとつもしたいくらいに、気分は高揚している。

 俺たちの部屋までは届いて来ないが、きっと各部署では将兵一丸、ものすごい盛り上がりを見せていることだろう。

「まあまあ、みんな。いまから盛り上がってたら、本番まで身がもたないよ?」

 芙蓉は相変わらず呑気な顔をしている。

 そりゃそうだ。

 いま現在、バルチック艦隊そのものを見ることができているのは、芙蓉だけなのだから。

「うんうん、そうだね。いくら報告があがっていても、艦隊を目の当たりにしないと、緊張しちゃうよね。よしよし、お姉さんが奮発して、使い魔の視点でバルチック艦隊を見せてあげよう!」

 芙蓉の言葉に、使鬼もふくめたみんなで額を寄せ合う。

 そうすることで、芙蓉のイメージするものを、受け取りやすくするらしい。

 まず目に浮かんだのは、空と海の境目。

 いわゆる水平線だ。

 あらためて、スカイブルーとマリンブルーの色の濃さが違うと、実感する。

 ましてここはヤワラギ海。

 群青という響きがよく似合う海だ。

 使い魔が視線を動かした。

 真っ黒いものが浮かび上がる。

 黒い、強い、デカい。

 圧倒的な存在感をかもす、リューリック、アレクサンダー、そしてクニャージスワロフ。

 バルチック艦隊であった。

「わ、悪そうな船じゃねぇ………」

「それに、なかなか歯ごたえがありそうに御座る」

「腕が鳴りますか、輝夜?」

「鍔鳴りが抑えられませぬ」

 気分の高まりが抑えられない面々に、芙蓉は笑いかけた。

「でもねぇ、みんな。バルチック艦隊の位置は、まだここなんだ」

 視線が地図を眺めるような、俯瞰に変わる。

 バルチック艦隊はヤワラギ海に、ようやく入ったばかり、というところ。

「さっき士官室で盗み聞きしたところでは、会敵はお昼過ぎ。半日はあるってことだったよ?」

「………………………………」

 瑠璃がベッドに腰かけた。

 そのまま背中を向けて横になる。

 スーッ、スーッという寝息が聞こえてくるまで、さほど時間はかからなかった。

「………瑠璃が正しいようですね、お兄さま」

「そうだな、今から気持ちを高ぶらせていても、疲れるだけだ。みんな、ひと休みして鋭気を養おうじゃないか」

 朝も早かったことだ。いや、バルチック艦隊発見以来、気持ちが休まっていない。

 ここは軽く目を閉じるだけでもいい、休息をとるべきだろう。

 瑠璃の姿が消えていった。

 咲夜輝夜が続いて姿を消し、最後に芙蓉が「それじゃおやすみ~~♪」と消えていった。

「それじゃあ俺も、少し横になるかな」

「はい、私も失礼しますね」

 カーテンを閉めて横になった。

 が、目を閉じる気にはなれない。じっと低い天井を眺めていた。

 緋影や使鬼たちにあぁは言ったものの、やはり気持ちは高ぶっている。

 頭を休めなければ。

 無理に目を閉じても、すぐに開いてしまう。

 バルチック艦隊を全滅させる。

 東郷長官の目標は、そこにあった。しかしそのようなこと、現実的に考えて可能なのだろうか?

 確かに、艦隊行動の訓練を重ね、バルチック艦隊の行く手を常に阻む練習はしてきた。

 しかし仮想敵は、あくまで仮想敵。

 予想だにしない動きを見せてくるだろう。

 こちらはバルチック艦隊を逃せば負け。少しでも逃してしまえば、また霧に隠れて輸送船団に襲いかかってくるだろう。

 そうなると満州に展開した陸軍は、補給に窮することになる。

 それを避けるためにも、奴らを逃がす訳にはいかない。

 艦隊行動訓練は、露天艦橋から見学させてもらった。

 連合艦隊は二部編成。

 第一艦隊が、バルチック艦隊の行く手を阻むように、前方を横切る。

 バルチック艦隊は、第一艦隊の最後尾をすり抜けようとするだろう。

 その頭を押さえ込むのが、第二艦隊だ。

 当然バルチック艦隊はその最後尾を、すり抜けようとするに違いない。

 すると転身を済ませた第一艦隊が、ふたたび行く手を阻むという寸法だ。

 しかし基本的にこの戦法、バルチック艦隊2に対しヤワラギ艦隊1で対応しなければならない。

 戦力分散という、非常によろしくない戦法と言える。

 これで勝てるというのだろうか?

 バルチック艦隊を倒せるというのだろうか?

 考えるだけで不安にしかならない。

 次から次へと襲いかかる、群狼のごときヤワラギ艦隊。

 それも横向きゆえに、すべての主砲と片舷の副砲がフルで使える。バルチック艦隊は前甲板の主砲、二門しか使えない。

 一個艦隊につき、主砲が同数。副砲のぶんだけわずかにヤワラギ艦隊が有利か?

 それが入れ替わり立ち替わり、バルチック艦隊に食らいつく。

 と言えば聞こえはいい。

 だが数をたのみに第一艦隊と平行して、同航戦を仕掛けられたらどうなるか?

 その時は第二艦隊が頭を押さえる。バルチック艦隊の船頭艦から順番に、各個撃破を予定している。

 するとバルチック艦隊は最後尾から順番に、第一艦隊の背後を抜け出ようとするだろう。

 これらの艦船は駆逐艦などの、軽量軽快な船が多い。

 それに対しては、別に控えていた第一艦隊と第二艦隊の駆逐艦隊が対応する予定だ。

 抜かれたら負け。

 ヤワラギ艦隊からすれば厳しいルールに見えるかも知れない。

 だが逆に考えれば、邪魔と妨害を続けられれば、ヤワラギ帝国の粘り勝ちに持ち込める。

 ようやく勝ちの目が見えてきた。

 少し安心したところで気持ち安らか。

 まぶたが重たくなったところで、鐘が鳴り響いた。

 カーテンを開く。

 緋影も飛び出してきた。

 伝声管から号令が届く。

「バルチック艦隊発見! バルチック艦隊発見!」

 緋影と顔を見合せ、露天艦橋へと駆け上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ