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こんとん大戦  作者: 寿
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マイヅル


 行き行きて、マイヅル。

 弁当忘れても、傘忘れるな。

 表通りで晴れていても裏通りじゃ雨降りな、それがマイヅル。

 ついでに言うならば、肉じゃが発祥の地とも言われている。

 ビーフシチューを作ろうとしたが、和食の調味料しかなかったので、完成品はこのように、な肉じゃが。和食魂、ここにあり。

 マイヅル駅を降りて、若い士官の案内でマイヅル鎮守府へ。

 そこではすでに陸軍の第二軍第四軍が集結し、猛訓練に励んでいた。

 まさに、海軍が陸軍に乗っ取られたような風景であった。

「やあやあ、陸軍さんってのは元気だねぇ」

 芙蓉がニコニコと指を差す。

「いやいや芙蓉どの、これこそまさに意気軒昂。(つわもの)たるもの、かくあるべしを体現して御座る故」

 輝夜の意見に、俺も賛成だ。これだけ士気が高ければ、中隊長大隊長連隊長も、指揮の振るい甲斐があるというもの。

「この兵どもに緋影さまが祝福を授けられれば、まさしく鬼に金棒。天下無敵に御座る」

 歩兵たちによる突撃訓練。また突撃、さらに突撃、まだまだ突撃。

 狂気のごとき叫び声をあげ、その声だけでオロシヤ兵を駆逐せんばかりの勢いだ。

 しかし。

 海軍少尉としては、疑問を感じる。

 奥に控えている大砲の数が、少なくはないか?

 海軍は船を使って戦さをする。

 船戦さは、船に積んだ大砲がモノを言う。

 故に海軍少尉としては、大砲の数にはこだわりたい。

 俺も士官学校では、陸戦訓練を経験している。

 その時は大砲を重視していた。

 とにかく敵の大砲を潰せ。大砲を潰さなければ戦さにならん。というのが、海軍の陸戦訓練だった。

 まずは大砲の撃ち合い。それで勝ったなら歩兵の突入。負けたならば歩兵で大砲を潰しにかかる。

 とまあ、大砲中心の作戦構成だった。

 それがどうだ。

 陸軍は歩兵重視。

 専門家にこのようなことを言うのもなんだが、これで本当にオロシヤ陸軍に勝てるのだろうか?

 いや、歩兵たちの散開と、拠点確保。さらなる進軍と最後の突撃に至るまで、実に見事で完璧なまでである。

 しかしそれ以前に、砲弾ですべてをブッ飛ばされては、意味が無いのではないか?

 素人の目には、そのように映る。

 まあ、陸戦の専門家とも言える輝夜が満足しているなら、それはそれで良いのかもしれないが。

「お兄さま、まずは宿舎で荷物を下ろしましょうか?」

「あぁ、そうだね」

 マイヅル着が夕方になったので、緋影の祈祷は明日の朝一番という予定だ。

 今夜は寄宿舎で一泊。夜と翌朝は兵と同じものを食べて、仕事が済んだらヨコハマへ帰る、という予定だった。

 が、翌日。

 マイヅル艦隊と陸軍上陸部隊を祝福したあとのこと。

「この場で待機ですか?」

 マイヅル鎮守府長官、ならびにヨコハマ学校校長………つまり南野中将からの指示が下った。

「左様、国会の審議いかんでは、明日にも国交断絶宣戦布告にいたる。そうなると貴官らは、サセボからの陸軍将兵をも祈祷しなければならない」

「サセボからの陸軍が、マイヅルに立ち寄るということですか?」

 そのようなことはない。将校はきっぱり答えた。

「令! 海軍少尉大矢健治郎ならびに民間人天宮緋影は、マイヅル艦隊とともに大陸の半島へ上陸。後続のサセボ艦隊が護衛する陸軍部隊に、祈祷を施すべし!」

 という命令文を読み上げた。

 さらに。

「なお陸軍部隊は次々と上陸するので、別命あるまで現地滞在とする!」

 なんと?

 俺たちに半島で滞在せよと?

 まあ、ヨコスカ、クレ、マイヅル、サセボと主要な艦隊は祈祷を終えている。

 ならば次に祝福を施すのは、上陸する陸軍部隊である。

 それはわかるのだが。

「唐突すぎやしませんか?」

「唐突と感じるのは、貴官が新聞を読み、情報収集を怠った結果だ。そして事態の急変は軍に付き物であるので、充分に対応すること」

「わかりました」

 伝令の士官は去っていった。寄宿舎の部屋には、俺と緋影だけが取り残される。

「………………とまあ、突然の海外旅行となったわけだが」

「私はかまいませんよ、お兄さま」

「いや、だからと言って唐突に海外旅行だなんて………」

「ですから、私の覚悟はいつでもお~けいです!」

 そうなのか、緋影?

 二度と故郷の土を、踏めなくなるかもしれないんだぞ?

「それは天宮に生まれたときから、散々言って聞かされたことですから」

 なるほどね。

 俺は士官学校に入ってから、覚悟の教育を受けてきた。

 だが緋影は、物心ついた頃から覚悟を決めさせられてきたんだ。年期、キャリアが違うというところか。

 だがしかし。

「使鬼の諸君は、緋影の覚悟など良しとはしないよな?」

「ん~~………? 私は、ひ~ちゃんとならどこまでも、だけどね」

「拙者に異存は御座らぬぞ」

「わ、私だって! 緋影さまの思うところ、どこまでもじゃよ!」

 そして、まだ見ぬ瑠璃が、コクコクとうなずく気配。

「それなら乗り込むか? 大陸に!」

「咲夜がゆくから輝夜も行け、じゃよ!」

「せまいヤワラギには住み飽いたからな」

「いやぁ、お姉さんも代々の緋影を護ってきたけど、海外は始めてなんだよねぇ♪」

「………芙蓉、浮かれすぎ」

 おぉ、久しぶりに瑠璃の声。

 癒されるような声色もそうだが、芙蓉をいさめてくれるところが、なんとも頼もしい。

 これで引っ込み思案でなければ、さらに役に立つのだが。

「………大矢………私は緋影さまの楯。………あなたの楯じゃ………ないの」

 すんません、調子に乗りすぎました。

「ともあれお兄さま、いざ船旅ですから、今夜はしっかり眠りましょう」

「そうだな、状況の変化に対応するには、睡眠が生む柔軟性だからな」

 おやすみなさいと言って、ほんの数秒。

 緋影は寝息を立てはじめた。

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