表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんとん大戦  作者: 寿
34/68

暗殺者


 緋影とプリンを楽しんだ翌日。

 俺たちは列車の人となっていた。まずはオオサカ、キョウトへ。そこから乗り換えてマイヅルへ。

 早朝の駅売り、シュウマイ弁当を頬張りながらの出発だ。

「今回は来なかったんだな、出雲鏡花さん」

「えぇ、そのことなのですが………」

 緋影の表情が曇った。

「なにか心配事でも?」

「はい、鏡花さんのところの出雲機関が調べたらしいのですが、先日逮捕された島津ナントカのシンパが、私たちを狙っているとかなんとか………」

 出雲機関の情報ならば、信憑性は高い。

 が、俺たちを狙うとなると、どんな手段を使ってくるものか。

「戦鬼や護鬼なんかは、危険を感じているのかな?」

「今は芙蓉の使いが、列車すべてを見張ってますが、異常は無いようです。輝夜も落ち着いたものです」

「ならば問題は無いな。彼女たちは悔しいけど、緋影を守ることに関しては、俺以上に真剣だ。その使鬼たちが悟れない危険は、この世に無いだろう」

 うんうん、アンタ解っとるねぇと、咲夜の声がした。しかし姿は見せない。列車の客室という、限定された空間だからだ。

 しかし、芙蓉は使鬼のリーダー。輝夜は強力な火力。ならば咲夜は使鬼の中で、どんなポジションなのか?

「失っ礼じゃねアンタ! アタシは主に緋影さまの相談役とかお話相手とか! ………使鬼の中の良心というか」

「大矢どの」

 輝夜の声が、咲夜をさえぎる。

「大矢どの、そのような次第ですので、よしなに。かく申す輝夜、咲夜の良心なくばとうの昔に、緋影さまから三下り半を突き付けられております故………」

 輝夜と咲夜。この二人はこれでいいのだろう。

 きっと、二人で一人。そんな切っても切れない間柄を、少なからず感じてしまう。

 だとすれば?

「芙蓉にはそんな、良い相方がいないのかい?」

「え? わ、私?」

 珍しく芙蓉が狼狽えている。

「まあ、芙蓉さまにはねぇ」

「うむ、いらっしゃることには、いらっしゃるのだが………」

 咲夜と輝夜が、なにやら勿体をつけている。

「どういうこと?」

 緋影に訊いた。

「はい、瑠璃は引っ込み思案なところがありますので………。あ、これまでのプリンやシュウマイやイセ海老も、瑠璃はちゃんといただいてますから」

 まだいるのか、使鬼?

 いやそりゃまあ、それなりの人数がいるって聞いてたけどさ?

「ん?」

「いかがなされた、芙蓉さま?」

 芙蓉の緊張感だろうか。それが輝夜を経由して、俺に伝わる。

「なんだか気味の悪い男が立ち上がったんだよね」

「次の駅には、まだ時間がありまする。ここで仕掛けてくるのは、ド素人か、あるいは………」

「………後先考えない………狂信者」

 これまで聞いたことのない、儚げな声が聞こえてきた。これが瑠璃か?

「………気をつけて、大矢。………この人間………おかしい」

「うんうん、瑠璃の勘は当たるからねぇ」

「大矢どの、臨戦体勢にござる!」

 言われるまでもない。

 瑠璃の緊張感は、すでにビンビンと伝わってきてんだ。

「………大矢………この男」

 男は背中を進行方向にむけている。つまり、後部車両を眺める形だ。

 そしてこの車両の、後部扉が開いた。

 青白い顔に山高帽。春を送る季節だというのに、真っ黒なマントを羽織った、見るからに怪しい男だった。

 あぁ、呑んでるな。

 一目でわかった。

 マントの中に、刀を隠している。それが俺にも丸わかりだった。

「緋影、窓の外を見ていろ」

「はい、お兄さま」

 緋影はアンニュイな表情で、窓の外を眺めていた。

 男は静かな足取りで歩いてきた。まるで、座席を確かめるかのように。大根芝居で。

 そして俺たちに近づくと、あからさまな動作で、鞘から刀を引っこ抜いた。

 俺は空になった弁当箱を、男の顔面に投げつける。そしてお茶の入った陶器で、眉間を殴った。

 男は倒れ込む。そこで腹をかかとで二度三度。ストンピングだ。

「どうしました、お客様!」

 列車のクリューが駆けつけてきた。

「暴漢だ、すぐに憲兵隊へ突き出してくれ!」

 官権ではない、あくまで憲兵隊と言い切った。

「は、はい! 憲兵隊ですね! わかりました!」

 飲み込みの速いクリューは俺に敬礼して、男を縛り上げた。そのまま奥へ引きずってゆく。

 おかげで次の停車駅では、憲兵隊への引き渡しのため、しばしの時間を食ってしまった。

 再び列車が動きだす。

 何事もなかったように、俺も窓の外を眺めながら、旅を続けた。

「さっそく来ましたね、お兄さま」

「あ? あぁ、そうだね」

「私たちがこの列車に乗っていると、どこから知れたのでしょうか?」

「軍の中に親露派はいないけど、俺たちのアンチはいるかもしれない。あるいは誰かの口から、スルリってこともある。まあ、完全な隠密は不可能ってことだね」

 それでも余裕があるのは、使鬼たちがいてくれるおかげだ。俺ひとりでは神経がもちそうにない。

「すごく優秀だよ、緋影の使鬼たちは」

 そのように誉めると、緋影もまんざらでもなさそうに笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ