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こんとん大戦  作者: 寿
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ヨコハマ駅前


 いよいよ遠征だ。

 次なる任地は、いざサセボ。鎮守府に艦船の集うところ数多。南の要所である。

 しかし途中でナゴヤの陸軍、イセ湾に停泊する戦艦イシカリなどに祝詞をあげ、さらにはオオサカの陸軍とコウベ停泊中の水雷戦隊を祝福。

 クレの鎮守府に立ち寄り第一艦隊もクリアしての上陸だ。

 はっきり言って、かなりの強行軍である。

「私も気を引き締めて臨まないといけませんね」

 緋影はそう呟いて、胃薬を握りしめる。

 いや、気を引き締める方向性を間違えているぞ、緋影。

 というか、お前の失態は食べ過ぎにも起因するが、主な要因は二日酔いじゃなかったか?

 ついでに言うならば、お前全然反省してないだろ? 俺にはわかるぞ。

 まあ、言いたいことは山ほどあるが、気をつけなければならない事は他にもある。

「緋影さま、あれは何で御座ろうか? 実に面妖、奇っ怪なり!」

「落ち着きなさい、輝夜。あれはガス灯というものです。大丈夫、噛みついて来たりしません」

「やあやあ、ひ~ちゃん! 汽車の旅だってねぇ? お姉さんワクワクしちゃうなぁ! 汽車は~♪」

「芙蓉、歌はよしなさい。運営さんからお叱りを受けますよ?」

 そう、前日以来当たり前に見えるようになり、なおかつ念話までできるようになってしまった、芙蓉と輝夜である。

「まあまあひ~ちゃん、まずは一杯どうぞどうぞ」

「芙蓉、貴女って子は昼間だというのに………おっとっと」

 挙げ句、初っぱなから飲みやがるし。

 しかし俺には、芙蓉が緋影に酒を注いでいるように見えるが、芙蓉の姿が見えない者にはこの風景、どのように映るものやら………。

「ママ、あのお姉ちゃんの前で、徳利が浮いてるよ」

「シッ、見ちゃいけません!」

 なるほど、そう見えるのか。

 と、感心している場合じゃない。

「こら緋影」

 後頭部に、軽くチョップ。

「お前、前回の失敗をまるで反省してないな?」

「あ、お兄さま。そんなことはありませんよ? 私も二の徹を踏まぬよう、今回はキチンと計画を練っています!」

 ほほう、その計画とは?

「まず手始めにヨコハマの朝市で、早売りのシュウマイを朝食代わりに。お昼はナゴヤの天むす、夜は宿で伊勢えびと赤福。これが初日の計画です!」

「食べることばっかりだろ!」

「大丈夫です! 宿では伊勢えびの前に、ガッチリ飲ませてもらいますから!」

「吐くだろ、お前! 酒と伊勢えびの脂っこさで吐くだろ!」

 緋影は振り袖の袂から、キャベツと大根を出した。

「お兄さま、キャベツと大根は消化器吸収器系に、とてもいいんですよ。さすがはネリマ名産、やるものです」

 何がどうヤルものやら。俺には理解できない。

 そして事態は、さらに混迷の度合いを深めてゆく。

「緋影さま、出雲鏡花まかりこして御座います」

 巨大な旅行カバンを引きずった、出雲鏡花の登場である。

 「邪乱」という旅行雑誌片手なあたり、こいつも気合い十分。本気のようだ

「鏡花さん………いえ、鏡花。学校に、お休みの届けは出しましたか?」

「緋影さまと、この鏡花の分を。………しっかりと」

「胃腸の回転数と、不調の対策は?」

 出雲鏡花は旅行カバンを開き、中からキャベツと大根を取り出した。

 緋影がニヤリと笑い、袂からキャベツと大根を差し出した。

 出雲鏡花がニヤリと笑う。

 緋影もニヤリと笑った。

 つまりこの二人は似た者同士。いわゆるバカなのだ。

「そう言えば鏡花、いつも同行を希望する巨体のお兄さんは、どうされました?」

「兄でしたら忍者にシメられ………もとい、ヤキを入れられ………またまたもとい、粛清された上で、お父様の手で帝都へ強制送還。専属のメイドの監視のもと、幽閉状態ですわ」

「それは何よりです。いかに家臣同然とはいえ、鏡花の勉学を妨げ、そのうえ大介さまの勉学をも妨げては、ヤワラギの国を守護する天宮として本末転倒。かえって国を傾けてしまいますので」

「緋影さま、ご心配なく。出雲はバカ兄貴………もとい、長兄が継ぐとも、舵は私めが握りますので」

 頼りにしてますよ、鏡花。

 緋影は安らかに目を閉じた。

 おまかせくださいませ、緋影さま。

 財閥令嬢出雲鏡花は頭を垂れた。

 出雲が傾けばヤワラギが傾く。

 二人はそれを前提に語り合っていた。しかしそれは過言ではない。

 出雲一族はまぎれもなく、帝国を支えているのだ。

 そして天宮は、その出雲の上に立つ。

 まさにこの国を支えているのが、俺の目の前にいる娘二人なのだ

「さあ鏡花さん、まずは早売りのシュウマイです!」

「軍資金はおまかせください、緋影さま! オヤジ! さっさと店を開けてシュウマイを蒸しやがれですわ!」

 どこの山賊だよ、出雲鏡花。

「店を開けないと、末代まで女の子にモテない呪いをかけますよ!」

 緋影、お前も待て!

 というか芙蓉も一緒になって、雨戸を叩いて騒いでるし。輝夜が黙ってたたずんでいるのが、不幸中の幸いか。

 って、その輝夜の隣に、もう一人いる。

 巫女装束なところを見ると、戦鬼か護鬼のはず。

 長身の輝夜、中背の芙蓉よりも、少し背が低い。いわゆる普通の娘サイズだ。

 しかし、鮮やかなまでに金色の髪色。

 ちょっと生意気そうな目元。

 洗練された容貌に似合わぬ、田舎言葉。

「ダメじゃよ、輝夜」

「しかし咲夜、緋影さまの意思は我らの優先事項………」

「良識と常識を最優先しなさいって言っとるんよ」

 どうやら娘………戦鬼? 護鬼? は、咲夜というらしい。

 そして彼女は、輝夜のブレーキ役のようである。

 その咲夜と、目が合った。

 つかつかと歩み寄ってくる。

 なんだ? 愛の告白か?

 と思っていたら、いきなりスネを蹴られた。しかも女物の下駄でだ。

「いってーーっ! 何すんだよ、このバカ!」

「バカはそっちじゃろ!」

 金髪娘は眉を逆立てる。

「あんたそんなに緋影さまを貶めたいんね! なんで緋影さまのこと止めんのよ!」

「………だって芙蓉が」

 と言ったら、またスネ蹴り。

「いてぇっつってんだろが、このアホ!」

「アホはあんたじゃ! さっさと緋影さまのこと止めんさいよ!」

 まあ、言ってることはもっともだ。

 雨戸の前で騒いでいる、娘二人の背後に立ち、ねらいをつけて………チョップ、チョップ!

「効きましたね、鏡花さん」

「えぇ、不意打ちこそ真のKOブローですわ」

 横たえた身体を痙攣させながら、不死身な二人は言葉を交わしていた。

 その小さな身体をひきずり、急いで別の店へと駆け出した。


 サセボ紀行、初っぱなから頓挫である。

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