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第37話・愛人ポジ

「隠密スキルカンストさせた俺、異世界生活始めました」

第37話です!

ブエルちゃん可愛いなぁ。

ケージくんもっかい殺してやろうかしら。

よろしくお願いします!


防衛戦が終わってから2日後。

時刻は午前9時。いつも通り、皆がギルドに集まり始める時間だ。

そしてまたいつも通りのカウンターに、いつも通りのメンバーが6人と、新しく1人。


「ふう、やはりテリシアの淹れてくれるモーニングコーヒーは美味いな」


「ふふ、久しぶりですもんね」


ギルドマスターのレニカさんだ。

2日前とは違う少し軽めの鎧に、俺のと同じくらいの長さの剣。そして微妙に残った寝癖が可愛らしい。


「ここを離れていた3週間、この味が恋しかったんだ。ところで、皆怪我はもう大丈夫なのか?」


「まあ、俺は最終的には無傷だったし」


「俺もかすり傷がほとんどだったな」


応える2人。


「私も大した傷じゃなかったです」


「俺は寝たら治ったっす」


うーん、ガルシュの傷結構な深傷だったと思うんだが。


「ふっ、相変わらず頼もしいな。やはりこの街が1番居心地がいい」


コーヒーを口に運びながら穏やかな笑みを浮かべるレニカ。


後から知ったことだが、防衛戦の翌日、俺やジーク、テリシア達に後処理には参加しなくていいと言ってくれたのはレニカさんだったらしい。

気を遣ってくれたのだろう。


え?いや、今は酒は飲んでないぞ。

さすがにマスターさんの前で朝から飲む度胸はない。


「そうだ、ケイジ。あの時は誤魔化していたが、本当にどうやって生き返ったんだ? 確実に死んだと思ったぞ」


そう尋ねるジーク。

異世界転移は何とか受け入れられるとしても、さすがに生き返りは信じ難いようだった。


「し、死んだ? どういう事ですか?」


驚いた顔でテリシアが尋ねた。

確かに、テリシアとミルが来た時にはケイジが復活した後だったので何があったかは知らないはずだ。


「あ〜、説明すると長くなるんだけどな。俺さ、あの今は地下牢にいるローブの男に1回殺されたんだよ。逃げきれなくて」


「……すまねえ」


ガルシュがすまなそうに謝る。

メルも同じように表情を曇らせていた。


「いや、お前らが謝る事じゃなって。おいこら、いいから笑え」


メルの頰をぐにっとやってみる。


「ひょ、けーひはんひゃめへっへ〜」


うん、何言ってるか全然分からん。


「ケージさん……?」


「ケージ……?」


テリシアとシークが恨みの篭った目で睨みつけてくる。

ごめんなさいもうやらないからその目はやめて。


「ぷっ、あはは」


そんな3人を見て、いつものメルに戻る。

ガルシュも少し気が軽くなったようだ。


「あ〜、どこまで話したっけ……。ああ、そうそう、1回死んだんだけどさ。なんか黄泉の道みたいな場所で悪魔に捕まって、契約がどうこう言われて戻って来た」


「……すまない、本当にすまないんだがさっぱり分からない」


申し訳なさそうにレニカが言う。

うん、俺もよくわかってないから仕方ない。


「ですよね……。あ、だったらあいつに説明させりゃいいか」


そうだ。

あの獣っ子を呼び出せばいい。


『おい、ブエル。ちょっと出て来い。色々話してもらいたいことがある』


頭の中で念じてみる。

聞こえているのか、そもそもあいつがどこにいるのかも分からないが。


「ケ、ケージ?どうした?」


ちょっと待っててくれ今いいとこだから。

あとそんな変人を見る目をしないでくれ。


『……だからご主人、私のことはエルって呼んでって言ったでしょ』


こいつ、脳内に直接語りかけて来ただと……⁉︎

じゃなくて、なんか微妙に不機嫌な返事が返って来た。


『……エル、出て来てくれ』


「はーい!」


「うおおおっ⁉︎」


脳内で会話していたはずのブエルが、元気な返事とともに飛び出した。

場所はケイジとカウンターの間。

そしてそのままケイジの胸にダイブして椅子から転げ落ちた。


うん、頭痛い。物理的に。

何やってるんだよこの悪魔……。

ほらみろ、この数十分だけで何回非難の目を向けられなきゃいけないんだ俺は……。


「……何やってるんだ悪魔」


「ん〜、ご主人の匂いだぁ! 私この匂い大好き!」


「…………」


「ちょ、テリシア⁉︎ 顔、顔!」


周りのことなど全く意に介さずケイジに身をすり寄せるブエルと、それを引き剥がそうとするケイジ。その光景を死んだような目で見つめるテリシアと、その顔を見て心底ビビるジークとメル。それをやれやれと言った顔で見守るミルとガルシュ。

だが、彼女だけは全く違う反応を示した。


「貴様、悪魔か……?」


レニカが腰の剣に手を掛け、只ならぬ様子でそう言った。

ジーク達もその様子に困惑する。


「レニカさん、大丈夫です。こいつは敵じゃありません」


ブエルを何とか引き剥がし、立ち上がってレニカを制止する。


「ご主人……! やっぱり大好き!」


だあああああああ‼︎

話がややこしくなるからくっつくんじゃねえ‼︎


え?おっぱい?

……柔らかい。


いやいや、待て!

逃げるなって!


「……信用して良いんだな?」


「はい。大丈夫です。だよな?」


「うん!ご主人大好き!」


答えになってねえよアホンダラァ‼︎

ああもう、テリシアの顔がずっと能面みたいになってっから‼︎


「すまなかった。その子から黒い魔力を感じたのでな」


ようやく警戒を解き、剣の柄から手を離すレニカ。


「ああ、そういえばガルシュも『黒い』って言ってたな」


「ああ、黒っぽく見える。でも嫌な感じはしないな」


「ケージさん……。その子は……?」


テリシアさん顔が事務所NGモードになってるから‼︎


「ええと、こいつが俺を生き返らせてくれた悪魔のブエルだ」


「ブエルです! 大好きなものはご主人! エルって呼んでね!」


片手はケイジの腕をしっかりと握り、ビシッと敬礼のポーズをとるブエル。

お前それの意味分かってやってるんだよな?


「ご、ご主人……?」


「……何か詐欺まがいな契約させられてな」


「詐欺じゃないよ! ちゃんと契約したもん、生き返らせてあげる代わりにお嫁さんにしてくれるって!」


「そんな契約してねえよ!」


バタン。


「ちょ、テリシア⁉︎ しっかりしな!」


おおう、テリシアを卒倒させやがったこいつ。


「ケイジお前……そういう趣味が」


「ねえよ! エルお前適当なこと言うのやめろ!」


「ああん、またエルって言ってくれた! ご主人〜!」


そしてまた猫のように擦り寄ってくるブエル。


「もう、疲れた……」


戦いが終わり、いつもの日常が戻ってきた事に安堵を感じつつも、面倒な仲間が増えた事にうんざりせずにはいられないケイジだった。


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