第29話・根拠など無い‼︎
「隠密スキルカンストさせた俺、異世界生活始めました」
第29話です‼︎
決戦の時は近い……。
よろしくお願いします‼︎
現在時刻は午前10時。
ギルドの中、いや、このユリーディアの街全体が只ならぬ雰囲気になっていた。
特に検問所の周囲は、住民たちが避難してガラガラになった家屋の前で王都の軍隊とギルドのハンター達の睨み合いが続いていて、いつ均衡が崩れてもおかしくない状況だった。
「ふう、こんなもんか」
「ん、遅かったなケイジ」
場所は変わりギルドの中。
戦闘態勢を整えたケイジとジークが、カウンターでミル達と話していた。
「いいか、出来る限り2人は隠れているんだよ。腕に自信があるのは知ってるけど、今回は2人を守る戦いなんだから」
さっきから何度も念を押すのはミル。
話しながら、色々な所に連絡を取り、助けを求めているようだった。
いつものおおらかな笑顔は、今はかけらも見られない。
「だってさ」
「ま、戦闘にならなきゃそれが1番なんだけどな」
戦闘にならない事なんてありあえるかって?
いや、あり得ない。今のはちょっとしたジョークみたいなもんだ。
まず間違いなく、王都の連中はユリーディアを含む多種族が住む街を毛嫌いしてるからな。
俺らの身柄を渡したところで攻めて来る気は変わらないだろ。
攻めて来る理由?
まあ、簡単に言えば支配するため、だろうな。
形上はこのユリーディアの街も同じソリド王国に含まれてるが、実際は壁で区切った、違う国って言っても過言じゃないくらい他人行儀な接し方をしてる。お互いにな。
でも本音を言えば、あいつらは他の種族を支配したがってるんだろう。
だからこそ、まずユリーディアを潰して物資や資金の輸送経路を切断する気なんだ。
俺たちの身柄を欲しがるのは、あいつらがジークの力を知っていて邪魔されることを懸念したからだろうな。
「でも、もし戦闘になったとしたら、本当に守りきれるのかな……?」
珍しく弱気で、呟いたのはメル。
「……やれやれ、らしくない事言うなよメル。大丈夫だって」
そして俯くメルを優しく励ますジーク。
こいつら本当に俺が知らない間に何があったんだ。
まるで二十代前半のそこそこキャリアのあるカップルみたいだぞ。(注・颯来は恋愛経験皆無なのでこの描写は実際のイメージと異なる可能性があります)
「なあテリシア、俺のことも励ましてくれよ〜。不安だよ〜」
冗談半分に、テリシアをからかってみる。
するとテリシアはやれやれといった風に、こう言った。
「もう、ケージさんはそんな事しなくても大丈夫でしょう?」
「え〜、大丈夫じゃないって〜」
「ん〜、しょうがないですね。だったら、今回も無事に切り抜けられたら、ご褒美をあげましょうか」
少し、いや、だいぶあざとい小悪魔風な笑顔とともにテリシアが言う。
そして俺のハートはエターナルバーストハリケーンした。
ニヤニヤが止まらない。
心がにやけたがってるんだ。
「え、ご褒美って?」
必死に口角を抑えながら尋ねる。
「さあ、何でしょうね。でも、きっとケージさんが喜ぶものですよ?」
再びの笑顔。
そしてケイジの顔の筋肉が限界を迎えた。
バレないようにスーっとカウンターと逆を向く。
「じゃあ、楽しみにしてるな」
「うおっ……。ケージ、お前も大概だな」
とてもいい大人とは思えないニヤケ顔を目の当たりにしてギョッとするジーク。
お前だって似たようなもんだろうが、と突っ込みたいところだが今はまず顔を何とかしたい。
「ケージさんキモッ……」
お前それは本当に言っちゃいけないやつ。
シンプルなのが1番傷つく。
「はは、何でだろうな。大変な事の最中なのに、ここにいると根拠もなく大丈夫だって思えちまう」
そんな2人を見て笑うジーク。
「まあ、大丈夫だろ。やっとこんな居心地のいい場所を見つけたんだ。絶対大丈夫にしてやる」
意気込むケイジ。
そして続くメル。
「そうだね。絶対、守り切る」
本当に、根拠も何もない。
相手は王都の軍隊だし、おそらく魔術師もいる。
フィルカニウムの時のように魔獣達が襲って来るかもしれないし、それ以上の、俺たちが予想出来ない何かがあるかもしれない。
それでも。
不思議と負ける気はしなかった。
ケイジは思い出す。
向こうで殺し屋をやっていた時も、こういう感覚を味わった事がある。
かつてないくらい厳重な警備の向こうにいるターゲット。
掻い潜るのは至難の技でも、不思議と失敗するイメージが湧かなかった。
そういう時は、大抵上手くいく。
イメージ通りにしてもそうでないにしても、結果は素晴らしかった。
だが、忘れてはいけない。
そういう時に限って、予想外の出来事は起こるものである。




