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隠密スキルカンストさせた俺、異世界生活始めました  作者: 颯来 千亜紀
第4章・30歳にならなくても魔法使いになれる
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第27話・信じて

「隠密スキルカンストさせた俺、異世界生活始めました」

第27話です。

書いてるこっちまで泣きそうになりました。

よろしくお願いします‼︎


「それにしても驚きました」


2人分のコーヒーを用意しながら話すのはテリシア。

時刻は午後3時、所謂ティータイムというやつだ。

ティーなのにコーヒーなのは、まあ好みだから気にするな。

昼食は帰る途中の店で食べた。


「ああ、魔法のこと?」


今まで買った物のレシートと残金をメモしながらケイジが言う。


「はい。まさか2人とも適性があるなんて。それもあんな大きな魔力の」


「ああ、その節は本当に申し訳ない……」


「ふふ、もう怒ってませんよ」


適性があるのは言うまでも無かったのだが、ケイジもジークも、かなり才能はあるらしい。

自然にある炎や水がない中であれ程の魔法が使えるのは凄いことだそうだ。

まあ、コントロール出来なければただの危険物なのだが。


「ソウさんは自然に存在するものを操る、って言い方してたけど、箒とか絨毯が浮いてるのってどういう原理なんだ?」


とりあえず適性があることは分かったし、出来るのなら乗ってみたい。

魔法の絨毯なんてロマンが溢れてるじゃないか。


「えーと、確か原理は同じで応用を効かせている、と言ってましたね」


「応用?」


「はい。絨毯の繊維を操る魔法と、風を操って絨毯を浮かべる魔法の2つを同時に発動させていると言ってました」


「なるほど、2つ同時にか……。じゃあ、俺が使えるようになるのはまだ先になりそうだな……」


少し残念そうに言うケイジ。


とりあえず今は1つ1つの属性魔法を正確に使えるようにならなきゃいけないからなぁ。

応用の前に基礎基本、まさか魔法にもついて回るとは。

まあ仕方ないか。


「それじゃあ、ケージさんが絨毯も操れるようになったら、私も乗せてくださいね。はい、どうぞ」


今から楽しみだというようにテリシアが笑う。

テーブルに置かれたコーヒーから発せられるコーヒー豆の芳醇な香りが鼻腔を刺激する。


「ああ、もちろん。楽しみに待ってるといい」


淹れてくれたコーヒーと、帰りに買ったクッキーを交互に口に運ぶ。

サクサクとした食感のクッキーが口の中の水分を奪うと、コーヒーが良い香りと共に再び口の中を潤す。

バタークッキーの甘さとコーヒーの酸味が舌の上で踊る。

どの世界でも、この組み合わせは素晴らしい。


ふう、と安堵のため息が漏れる。

午後3時、太陽が暖かく照らす異世界で、綺麗な女性と2人きり、コーヒーとクッキーを楽しむ。

2、3週間前の俺じゃ想像もつかなかっただろうに。

現実は小説よりも奇なり、なんて言ったのは誰だったか覚えてないが、間違いじゃないな。


ん?

結局テリシアの告白の返事はしたのかって?

……読み返せばわかるだろ。まだしてない。

っていうより、出来ない。


勘違いするな、もちろんテリシアのことは好きだ。大好きだ。

生まれて初めて俺を愛してくれた女性ひとを、好きにならない訳がない。

このままずっと一緒にいたいし、ラブラブもイチャイチャもしたい。


でも、まだ出来ないんだ。

俺は、俺を誇れない。

誰とも関わってこなかった、臆病な自分を。

まだ、いや、これからもずっと消える事などないだろう血塗れの、冷たい、黒い自分を。


自分のことも好きになれない奴が本当に他人を愛せるのか。

俺の意見はNOだ。

だから、いつか、俺自身を好きになれたら。人に誇れる自分になれたら。

その時は、ちゃんとテリシアに俺の想いを伝えるよ。

ここで、お前らに約束する。


「なあ、テリシア」


「はい、なんですか?」


伝えなきゃいけないんだ。

テリシアには、ちゃんと。


「一昨日のさ。俺が出発する前のこと、なんだけど」


「あ、あ〜……」


泣いてしまった事など色々と思い出したのだろうか、テリシアの顔がどんどん赤くなっていく。


「なんていうか、その、ありがとな。俺、他人ひとから告白されたことなんてなかったから」


「えへへ……。私で良ければ、いつでも好きって言いますよ?」


なんだかんだで吹っ切れたのか、上目遣いで微笑むテリシア。

だからそれは反則なんだってやめてくれ。

既に決意が揺らぎそうなんだが。


「……ここからは本当に俺の身勝手なお願いだ。聞いてくれるか?」


「はい、もちろんです」


「テリシアが好きだって言ってくれて、本当に嬉しかった。これは本心だ」


言った自分まで顔が熱くなってくる。


「でも、俺は……。俺のことを、まだ好きになれない。自分の中の弱い部分を、汚れた部分を。だからさ、だから…………。俺が自分のことを好きになれたら、その時は、ちゃんと俺の気持ちを言うよ。それまで、待っててくれる、か……?」


分かってる。

我ながらふざけた頼みだってことは。

自分の勝手な都合で告白の返事を先延ばしにしようとしているのだ。

でも、これだけは譲れない、譲ってはいけないと思った。

そして。


「もちろんです」


テリシアは、今まで見た中で一番穏やかな笑顔で、そう言った。


「ケージさんがそう言うのなら、私はずっと待ちます。何があっても、信じて待ち続けます。それに、ケージさんが自分を好きになれないんだったら、私がいっぱいケージさんの素敵なところを教えてあげますよ……って、ケージさん⁉︎」


「あ、あれ……?」


驚き、焦るテリシアの向かいに座るケイジの目からは、大粒の涙が溢れ出していた。


「はは、な、なんだこれ……」


胸が締め付けられるように切ない。

そして燃えるように熱い。

この気持ちは一体なんなのだろうか。


ケイジは分かっていた。

嬉しかったのだ。

実際、テリシアなら激怒したりはしないと思っていた。

だが、少なからず、こんなことを言えば見限られてしまうのではないかとビビっている自分もいた。

それでも。

テリシアは、自分を待っていてくれると言った。信じてくれると言った。

誰にも愛されず、理解されず、ただただ人を殺して生きてきた俺に。

それが嬉しくて、ありがたくて。

流れる涙を止められなかった。


「……ケージさん」


見かねたのか、テリシアがケイジの側に来た。


「……辛かったね。よく頑張ったね。大丈夫、私はケージさんのこと、大好きだよ。」


そう言って、優しく抱きしめてくれた。

ケイジは座っていて、テリシアは立っているので、顔がテリシアの胸元に埋まっている。


「うっ、あああ……」


そんな事言われたら、もう……。

止められなくなっちまうだろ……。



まるで子供に戻ったように、ケイジはテリシアの胸で泣きじゃくった。


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