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*第三話*

 種を撒いてから五日。野菜が実った!

 太陽の光を受けてつやつやに輝く野菜達はとても美味しそうだ。種は神様からランダムでもらったからなにが実るかわからなかったのだが、どうやら実ったのはブルベン、メリーベルを始めカブ、アスパラガス、ジャガイモ。後、綺麗なお花が二種類、こっちは図鑑で調べてみると桃色の方がメラン、水色の方がコウランという名前のようだ。どちらも可愛らしいお花だった。

 お野菜の方は、図鑑を見てみたのだがおおむね日本のものとそう変わらないもののようで、名前もそのままだったのが驚きだ。迷わなくていい。


 だが今、私はとても困っている。

 野菜達の方は大収穫で、なかなか豊作だったのだが収穫してみて気がついた。これ、保存箱に入りきらない。一人で食べるには多すぎるし、売りに行くにしても量が多く重い。町の人達にきてもらうことも距離的に難しいし、どうしよう。

 収穫物に囲まれて、うんうんうなっているとどこからか馬の嘶きが聞こえてきた。そして私の名前を呼ぶ声がする。驚いて振り返れば、家の玄関先にエルス町長がきていた。


「おはようございます! エルス町長」

「おはよう、コノハさん。精が出るね!」

「はい、たくさん実ったので嬉しいです」

「ほほう、ここから見ていたがずいぶんと豊作なようだ。いやはや、この土地は本当に不思議だねえ。君の力かな?」


 ほっほっほと楽しげに笑うエルス町長に私は曖昧な笑みしか浮かべられない。神様の加護です、と言っても信じてもらえないだろうし。良心が痛むが、ここはそういうことにしておこう。


「ところでコノハさん、町に行くのに徒歩では不便だと思わないかい?」

「え? そうですね、毎日のように足を運ぶので一時間ちょいとはいえど不便ではあります」

「それでこれだ!」


 ジャジャーンと効果音がどこからか鳴り響き、エルス町長は自分の馬車とは別に後ろにあった小さなオンボロの荷馬車を指示した。一頭の馬が繋がれ、もさもさと雑草を()んでいる。


「君にこの荷馬車をプレゼントしようと思ってね」

「ええ!? いいんですか!?」

「うんうん、せっかくきてくれた新しい農場主さんだからね! 大奮発だよ。まあ私の昔使っていたお古で悪いけど」

「いいえ! とても助かります。お野菜がたくさんできたのに町に運ぶ手段がなくて困っていたところでしたので」

「それは丁度良かった。遠慮なく使ってくれたまえ。それとコノハさん、家の改修や増築をしたいとは思わないかい?」


 ちらりと傾きかけている母屋や二つの小屋を見て、エルス町長は言った。私もボロボロの外装と内装を思い出し頷く。


「いつかリフォームしたいとは思ってますが」

「それならこの先にある森の入口に居を構えている木工所に行くといい。お金を払えば、増築や改装ができるよ。それとこの荷馬車の改修もできるからお金ができたら頼るといい。それにまだ挨拶に行っていないだろう?」

「はい、森の方にはまだ行ったことがなくて」

「なら挨拶がてらどういったものか見てくるといい。それじゃあまた」


 町長を見送って、私はさっそく荷馬車に自分で食べるもの以外のお野菜とお花、実を詰め込んだ。

 まずは町長が言っていた木工所へ寄ってみよう。お金はまだ少ないけど、どのくらいの相場で増築や改修ができるか調べておきたいし。住民とも挨拶をしないといけないしね。

 家から北の方へ行った所にある森へ向かって、荷馬車を動かす。初めてだったが馬がとてもおとなしくお利口で、戸惑うことなく前へ進むことができた。

 家から森まで二十分ほど。春の風を感じながら進むと、森の入口付近に一軒の四角い家が建っている。きっとあれが木工所だろう。

 荷馬車を横付けし、木に手綱を括りつけると、私は木工所の扉を軽く叩いた。

 しかし返事がない。もう一度強く叩くとようやく奥の方から野太い男の人の声が聞こえ、『入ってきてくれ』と言われたのでドアノブを回して中に入る。


「おじゃまします」


 中を窺いながら入ると、室内は様々な木工用品が並び、見事な細工を施されたテーブルや椅子なども置かれていた。奥にはカウンターもあったがそこには人影が見当たらない。どこから声が聞こえたのかと周囲を見回すと、さらに奥の扉から大柄なおじさんが出てきた。そのガタイのよさに少し怯えてしまったが、彼は私の姿を見ると二カッと人の良さそうな笑顔を向けた。


「見ねえ顔だな。もしかしてお嬢ちゃんが新しく来たっていうあの農場主か?」

「あ、はい! 木葉って言います、よろしくお願いします」


 深々と頭を下げれば、行儀の良い嬢ちゃんだなぁ! っとおじさんは豪快に笑った。そして一度ただ住まいを直すと、おじさんも同じように頭を下げる。


「俺は木工所の頭、ライダンだ。よろしくなコノハ嬢ちゃん。……それにしても」


 と、じっと私の姿を見てくるので首を傾げると。


「ああ、悪い悪い。ずいぶん若いと思ってな。うちのせがれと同じくらいじゃないか。それであの農場の主たぁ、やあ、立派立派」

「せがれ……息子さんですか?」

「おうよ、今年で十五になるってぇのにあちこち遊び周りやがって、仕事の手伝いもしやしねぇ。腕白で困ってんのよ」


 苦い顔で頭をかくライダンさんに私も苦笑を漏らす。十五歳ということは私と同じか一つ上くらいだ。友達になれればいいな。


「それで嬢ちゃん、うちにわざわざ挨拶しにきてくれたのか?」

「それもありますが、改修や増築について話を聞こうと思いまして」

「おおそうか! そんじゃあ、この表を見てもらった方が早いわな」


 そう言って差し出して来た表は、改修、増築についての細かな設定と値段だった。他にも木工用品のラインナップもある。

 しかしその中で私が一番に注目したのは、なんといっても≪増築・お風呂≫! これさえ増築できれば毎日町までお風呂に入りに行かなくてもよくなる。お金もばかにならないし、最優先で手に入れたいところだが、お値段は。


≪増築・お風呂≫…………30000G


 現在の所持金は、1890G。手が……届かない。

 がっくりと項垂れる私に、ライダンさんは苦笑しながら表を閉じた。


「まあ、改修や増築はそれなりの値段がかかるからなぁ。もう少し軌道に乗ったら考えてくれや」

「はい……がんばります」


 落ち込む肩にライダンさんは慰めるように手を置くと、ぽんぽんと優しく叩いてくれた。お父さんのような温かさに日本にいるお父さんが少し懐かしくなってしまう。

 飾られた木工用品をひとしきり眺めてから、木工所を後にし私は街へと向かった。たくさん商品を買い取ってもらって、近いうちにお風呂をゲットするのだ!


 そう思って、アドリビルさんのところへ行ったのだが。


「うーん、いいお野菜ばかりだけどさすがに全部は買い取れないな……」


 豊作すぎて買い取る予算が足りないと、アドリビルさんは申し訳なさそうに言った。


「そうですか……どうしましょう」

「そうだ、コノハさん、自分で売ってみるっていうのはどうかな」

「自分で、ですか?」

「そう、広場に行けば沢山の人がいる。そこで人を呼び込めれば色んな人が買い取ってくれるよ。島全体的に野菜不足だしね」


 アドリビルさんにアドバイスをもらった私は、さっそく荷馬車を率いて広場にやってきた。町の人達がのんびりと過ごす場所の端を借りて、今朝とれたばかりのお野菜や実、お花を広げる。

 すると呼び込む前に興味を持った多くのお客さんで人だかりができてしまった。


「い、いらっしゃいませ!」


 面食らいながらも丁寧さを心がけて挨拶をすると、買い物かごをさげたおばちゃんが、食い入るようにカブを見詰める。


「野菜だ、野菜だよ! こんなに立派なカブ、ひさしぶりに見たねぇ!」

「本当だ。大きくて、立派だなあ」

「見て、お花もあるわ。最近じゃ、あまり咲かなくなってしまったのに」


 押し合いへし合いになってきて、私はあわあわとうろたえながらも、この荷馬車の主として声を張り上げた。


「えっと、それぞれお野菜は100G、実は300G、お花は50Gになります!」

「まあ、安い! 大陸のお野菜だったらもっとするね!」

「私、これ買います!」

「俺も俺も、こいつをくれ!」


 アドリビルさんに聞いていた相場が思いのほか高かったから、収穫量と比べて少し安くしたのが良かったのか、商品は飛ぶように売れた。おつりがちゃんとあっているかどうか不安!

 目の回るような、まるで戦いが終わった後のようにどっと疲れが襲ったが、商品は見事完売。私は6000Gもの売上金を手にしたのだった。

 まだ30000Gには遠いけどこの調子で売っていけば、今月末あたりにはお風呂が増築できそうだ。だけど、その前に調理道具も揃えたい。せっかく新鮮なお野菜があるし、炒めものでも作りたい。そして目標だった神様の加護・配給停止を狙う。

 手早く店じまいをして、私は雑貨屋さんへと荷馬車を走らせた。




     ************************


≪課題≫


□作物を収穫してみよう!  クリア

□木工所へ行ってみよう!  クリア

□荷馬車を手に入れよう! クリア



≪現在の目標≫


*神様の加護・ご飯配給の停止

*増築・お風呂 30000G




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