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私達は

「回収」


 シルヴェリアが唱えると、フィッシャーキングの身体がすうっと消えていく。

 それを見て満足そうに頷くと、シルヴェリアは僕達のほうへと振り向く。

 その僕はといえば、ようやく体を動かせるようになってきている。


「銀の……騎士……アンタが……いや! 神殿は!」


 アグナムさんが、先程シルヴェリアが出てきた扉へ向けて振り向く。

 でも、扉はもう閉まっているみたいで……アグナムさんが何度押しても蹴ってもビクともしない。

 それを気にもせず、シルヴェリアは剣を鞘へと収めて歩いてくる。


「……久しぶりね、変態伯爵。元気そうで残念だわ」

「ええ、お久しぶりですシルヴェリアさん。愛ある限り私は不滅ですとも」


 シュペル伯爵とのそんな会話に、僕達の視線が一気にシュペル伯爵に集まる。


「おいおい、伯爵様よぉ! アンタ、コレと知り合いなのか!?」

「どういうことだコラ! まさか全部知ってたんじゃ!」


 両側からのジャックさんとアグナムさんの叫び声に煩そうに耳を塞ぐと、シュペル伯爵はスルリと二人の近くから抜け出て僕の方へと歩いてくる。

 そのまま僕を抱き上げよう……として、一足早くやってきたシルヴェリアが僕を抱き上げる。


「ちょっと、アリスさんは私のですよ?」

「だぁめ。今は私のよ」


 華麗なバックステップでシルヴェリアがシュペル伯爵から離れると、シュペル伯爵は明らかに不満そうな顔をする。


「それにしても、貴方がアリスを目覚めさせたっていうことは……もう約束の時が来たということなの?」


 え? 目覚めさせた?

 違う。

 僕は自分で目覚めたし、それに……。


「いいえ、残念ながら目覚めさせたのは私ではありません。それに、見たところパートナーがいるようにも思えない。だから、私も貴女に会いたかったのですよ」

「パートナーがいない……? おかしいわ。それなら、どうしてアリスが起動しているの? 月の周期は? 兆候は確認できているの?」

「全て正常です。故に、まだ約束の時ではない。つまり、セイジの設定した例外事項ではないというのならば……」

「……同類がいるということ? いえ、でも……」


 セイジ。

 その言葉に、僕の中の何かが反応する。

 セイジ。

 それは何か、とても大切な言葉だったはずだ。

 セイジ。

 セイジ。

 一体、なんだったろうか。

 セイジ。

 僕が僕であるならば、忘れてはいけないはずの何か。

 そうだ。

 そういえば、僕の名前は……?

 アリス。

 そう、それが僕の名前。

 でも、僕が僕になる前の名前は……?


「アリス」

 

 かけられた声に、僕の思考のループが中断される。

 気付けば、シルヴェリアが僕の顔を覗き込んでいた。


「貴方は、何処から覚えてる?」

「え?」

「なんでもいいの。そうね。目覚めた時の場所は?」

「えっと……」


 僕が目覚めた場所。

 確か……ストナの森だったはず。


「ストナの森……」

「そう、周りに人は?」

「えっと、いなかった……かな」


 シルヴェリアは頷くと、シュペル伯爵と顔を見合わせる。


「そう……なら、最初の記憶は? あ、貴方達は離れてなさい」


 シルヴェリアが剣をカチャリと鳴らすと、興味津々といった顔をしていたジャックさんとアグナムさんが慌てて離れていく。

 

「最初の……記憶?」

「そう、最初の記憶。どんな突飛な話でもいいわ。教えて?」


 僕の最初の記憶。

 それは……病室だ。

 プレイギアをつける僕と、設定されたアリス。

 そして、僕は……。


「……病室。そこで、僕は……」


 アリスを作って、死んだ。

 その、はずだ。


「……そう。分かったわ」


 シルヴェリアはそう言うと、優しく僕に微笑みかける。


「時間がないから、私から貴方に全てを話すことは出来ないわ」


 そんな事を話すシルヴェリアに、シュペル伯爵が深刻そうな顔で囁く。

「では、やはり……」

「ええ。この子はまだ目覚めていない。たぶんだけど、不完全に起動したせいね……ミケ!」

「なんですかな?」


 呼ばれて、ミケがシルヴェリアに抱えられたままの僕のお腹に飛び乗る。

 うっ、ちょっと重い……。


「貴方、アリスのサポートを任せられていたはずでしょう? このザマは何なの?」

「そう言われましても、我輩としても不測の事態でしてな。そもそも起動と同時に我輩が目覚めるようにしたのはセイジでありましょう。それ以前の我輩に何をせよというのか」

「それ以降でも、サポートのしようはあったでしょう?」

「無理ですな。こう言ってはなんですが、ご主人はセイジのバカな所を色濃く受け継いでおられますからな。それに、知識の継承があまり上手くいってないように見えますがな? それに、その男が協力者だということも我輩聞いておりませんが?」


 僕の理解できない会話を、シルヴェリアとミケがしている。

 セイジ。

 知識の継承。

 なんだろう。

 とても大事な話の気がするのに、頭が上手く働かない。


「……そうね。でも、仕方が無いわ。初めての試みだったんだもの。あと、この変態は勝手に関わってるだけよ。仕方ないから組み込んだのよ」

「ですが、目的自体は達成しているようです。片鱗がありましたからな」

「そう。それなら救いがあるわ」


 シルヴェリアはそう呟くと、僕を見つめる。


「アリス。先程も言ったけど、私から貴女に全てを伝える時間はないの」


 時間が無い。

 それって一体、どういうことなんだろう。


「私達は、喪失に耐えられない。貴女が完全であったならばやりようもあったのだけれど……今は仕方が無いわ」


 喪失。

 それって、つまり。


「この変態に任せるのはシャクだけど、一応頼りにならないこともない奴よ。いや、任せるというとアレね。協力してもらいなさい。でも、適当にあしらうのよ。変態だから」

「失礼ですね」


 シュペル伯爵はそう言うと、両手を広げてクイッとシルヴェリアに示してみせて。

 シルヴェリアは嫌そうな顔をしつつも、シュペル伯爵の腕の中に僕を預ける。


「……それでも、貴女は私を目覚めさせた。だから、私と貴女の繋がりを残すわ」


 武姫コマンドが修復されました!

 武姫「シルヴェリア」が登録されました!

 共有設定がオンに設定されました!

 現在、「シルヴェリア」がアクティブ状態です。


「また会いましょう、アリス。私達の、最後の妹……」


 そう言うと、シルヴェリアは扉に向かって歩いていく。

 待って、と。

 そう声をかけようとして。


 修復された機能を正常に使用する為、「アリス」を再起動します。

 強制シャットダウンまであと三秒。

 強制シャットダウンまであと二秒。

 強制シャットダウンまであと一秒。

 強制シャットダウンしました。


 ……再起動完了。

「アリス」を通常モードで起動。

 現在、「シルヴェリア」がノンアクティブ状態です。


「あ……」


 気が付いたときには、もうシルヴェリアは居なかった。

 僕を抱えていたシュペル伯爵の腕から飛び出そうとして、お腹の上から移動したミケに鼻をぷにっと押される。


「落ち着きなさい、ご主人」

「ミケ……」

「全てではないですが、このシュペルとかいう男も色々と知っているようですしな。そこに、再びシルヴェリアを目覚めさせるヒントもあるでしょう」


 目覚めさせる。

 やっぱりシルヴェリアは今は……。


「分かっているでしょう? シルヴェリアは武姫なのです。ご主人のようにはいきません」


 武姫。

 喪失。

 僕はそれを聞いて、思い出す。

 そうか……そうだ。

 武姫は、主人の喪失に耐えられない。

 はぐれ武姫は、やがて正気を失って暴れるようになってしまう。

 

 そこまで考えて、僕は疑問点に気付く。


「ねえ、ミケ……喪失って、シルヴェリアはもむっ」

「そこまでです。後でゆっくり話をしましょう」


 ミケに口を押さえられて、僕はちらりとアグナムさんやジャックさん達を見る。

 扉がまた開かないか試していたようだけれど、僕達の会話に興味津々みたいだ。


「心配要りませんよ、アリス」

「えっと……」

「私に全てお任せください。頼れるこのシュペル・メディウス・アルステイルが貴女の今後を全て……そう、全てサポートして差し上げますとも。ええ、セイジとの盟約にかけて……ね」

「ええっと」

「問題ありませんとも!」


 何時の間に呼び捨てになってるんだろうとか、伯爵って何者なの、とか。

 色々と疑問はあるけれど。


 キーワードを確認。

 本人認証……終了。

 シュペル・メディウス・アルステイル本人であると確認。

 設定画面から承認の可否について設定できます。

 ……設定機能の破損を確認。

 設定機能の修復を開始する為、、「アリス」を再起動します。

 強制シャットダウンまであと五秒。


 再び襲ってくる意識の消える感覚に、僕は身を委ねた。

 意識の消える、その瞬間。

 そろそろ帰りましょうか……と、シュペル伯爵が皆に呼びかけているのだけが聞こえてきた。

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