銀の騎士
「ヌウッ!? ナ、ナンダソレハ!」
驚いたように後ずさるフィッシャーキング。
そりゃそうだろう。
今まで僕が散々ピカピカ光って痛めつけたんだから、光る終末の太陽を警戒して当たり前だ。
でも聞かれたって、僕に分かるはずもない。
「さあ、ね……なんだと思う?」
僕は、碑文を思い返す。
我は扉、我は門番。
この先に全ての終焉の使者は入ること叶わず。
されど、汝が希望を継ぐ者であるならば先へ進むべし。扉は自ら開かれよう。
されど希望潰えし時なれば、その後継者へと全てを託す。
故に後継者よ、知るがよい。
終末の太陽が昇る時、銀の騎士が黄昏の虹を描く。
試練を越え、正当なる証を示すべし。
これが、終末の太陽が「昇った」時であるならば。
次は、銀の騎士が黄昏の虹を描く。
……それが何かは分からないけれど。
とにかく、空気が変わった今がチャンスだ!
「やい、弱虫!」
「ヌ!?」
「この腰抜けのでくの坊! 僕一人が怖いからって人質か! 王様がそんなんで地上制覇なんて出来るもんか、バーカ! 悔しかったら僕に実力で勝ってみろ!」
「ギ、ギギギ!」
僕は、全力でフィッシャーキングを挑発する。
普通ならこんな挑発のらないとは思うけど……でも、もうこれしか手が無い。
「君等全員でかかってきたって、僕一人にだって敵わないぞ! この駄魚! タラコ唇! バカバカ、バーカ! ついでにもう1つバーカ!」
ああ、もう悪口が思いつかない!
バーカと連発する僕の前で、フィッシャーキングは黙り込んでしまう。
む、むむ。
ひょっとして冷静になっちゃったかな?
「どしたの? 真実だから傷ついちゃった? バカなのに?」
僕が更にバカと言ってみると、フィッシャーキングがその大きな口をゆっくりと開く。
「……イイダロウ。ナラバ、オマエニカッテヤロウ」
やった、のってきたあ!
ニヤつきそうな顔を何とか抑えて、真面目な顔を作る。
一対一でもキツいのに変わりは無いけど、この感触ならたぶん倒せる。
そすうれば、いくらでもやりようはある!
「ゼンイン、コヤツヲタタキツブセェ!」
「ギャギャギャギャギャ!!」
「え、えええー!?」
シュペル伯爵達の方へと行っていた奴等も、ミケと戦っていた奴等も。
残った全てのフィッシャーマンが僕に向けて殺到してくる。
「オマエニカテバ、オマエノコトバはマチガッテイタトイウコト! ソレデワガグンダンのムテキはショウメイサレル!」
「そんなわけあるかバカ! うわわ……スクロールは……わあっ!」
突き出されてくる三つ又の槍を避けると、別方向からも別の槍が襲ってくる。
それを避けると、また別の槍が襲ってくる。
これじゃあ、スクロールを広げる暇すら無い。
「こ、このお……わわっ、わあっ!?」
何とか避けたり弾いたりしていた僕の頭上に、黄金の巨大な三つ又槍が現れる。
し、しまった。忘れてたァ!
「ひゃあーっ!」
「フハハ、サッキのイセイハドウシタ!」
僕がなんとか避けた横で、フィッシャーマンが数匹巻き添えをくって潰されている。
味方ごとなんて……それでも王様か!
まあ、僕としては敵が減るのは嬉しいけど。
「こんのお……」
僕は鞘からエルダーレインボウを引き抜こうとして……鞘に何もないことに気付く。
あ、あれえ?
そういえば、いつの間にか持っていなかったような……。
あれ?
いつから?
ひょっとして武器換装して、サンダーカノンが弾かれた時に?
「し、しまったあ!?」
「フハハ、イマサラコウカイシテモオソイ!」
「違うもん! うわあ、もう! どうしよー!」
ええい、もう!
無い物は仕方ない!
「コード、セット!」
僕の拳が、青白い輝きを纏う。
スパークする拳を握り、目の前のフィッシャーマンを……踏み台にして、僕は跳ぶ。
「ギャゲッ!?」
「ギャギャッ!?」
僕の回りを埋め尽くすフィッシャーマンを足場にして、僕は次から次へと飛び移る。
これだけいれば、足場には困らない。
フィッシャーマンも踏み台にされると思っていなかったのか、動きが鈍い。
その頭を……あるいは顔を踏んで、僕は跳ぶ。
「ナッ……」
「ライトニングゥゥゥ……」
狙いはただ一匹、フィッシャーキング。
お前さえ倒せば!
「ナァァァァックルッッ!!」
スパークする拳から、フィッシャーキングへと破壊のエネルギーが流れ込む。
苦悶の声が響き、確かな手応えが伝わってくる。
いける、と。
僕はそう確信して。
次第にスパークがフィッシャーキングを伝わっていき……それが伝わりきるその前に。
フィッシャーキングの手が、僕を捕まえた。
「ギ……ギ……ヨクモ……ヨクモォッ」
フィッシャーキングの手が、僕を強く握る。
そのまま握り潰そうかという勢いで握られた僕の視界に、ノイズが走る。
「あ……くあ……」
「ガアアアアアアッ!」
怒りのままに、フィッシャーキングは握り締めていた僕を投擲する。
抗いようもない速度で投げられた僕は、ゴシャンという鈍くも情けない音と共に神殿の扉にぶつかる。
そのまま、扉の表面を滑るように。
何かの液体で扉を汚しながら、僕は地面に落下する。
「おい、アリス! おい!」
「ひでえ……これじゃ直しようも……なあ、おい! 回復魔法は……」
ノイズがはしる。
視界に映るのは、砂嵐。
聞こえてくる音にも、耳障りな音が混じり始める。
腕が、動かない。
足もたぶん、動かない。
どうなっているのか、分からない。
感覚を僕に伝える部分がたぶん、壊れてしまっている。
ああ、そうか。
また、僕は。
僕は……負けたのか。
今度はもう、身代わりドールは無い。
僕は……今度こそ、僕は。
ノイズに埋め尽くされようとしている視界に、赤い輝きが映る。
終末の太陽。
そういえば銀の騎士って、結局何のことだったのかなあ。
そんな事を考える僕の意識が、ブツンと。
称号「プリンセスギア」が強制的にアクティブになります。
……エラー。
すでに称号「プリンセスギア」はアクティブです。
「デスペナルティ」を適用し再構成。
……エラー。
クールタイムはまだ終了していません。
キーアイテム「終末の太陽」のアクティブ状態を確認。
条件チェック……「銀の騎士シルヴェリア」の存在を確認。
条件チェック……「危機管理特殊要件」に該当。
条件チェック……オールクリア。
簡易チェック……「アリス」修復開始。
セーフモードで「アリス」を限定起動。
「銀の騎士シルヴェリア」起動開始。
「な、なんだぁ!?」
「扉が……!」
アグナムさんと、ジャックさんの声が聞こえてくる。
僕の身体は、相変わらず動かない。
でも……ノイズだらけの視界が、ほんの少しだけクリアになって。
「……よく頑張ったわね、アリス。私達の……最後の妹」
優しくも凛とした声が聞こえて……僕を、抱き上げる。
「危ないから、しばらく下がっていてね」
視界に、誰かの姿が映る。
それは、見たことがあるような……けれど、ノイズだらけの視界ではよく分からない。
声に出そうにも、僕の口は言葉を紡いではくれない。
「なあ、アンタは……」
聞こえてくるジャックさんの声。
僕の視界のノイズが、綺麗に無くなって。
視界に、綺麗なお姉さんの顔が映る。
「あら、修復が早いわね。もう見えるの?」
「貴方は……」
言いかけた僕の口を、お姉さんの白くて綺麗な指が塞ぐ。
「無理しないの。まだ戦えるような状態じゃないはずよ」
お姉さんは僕を再び閉じた扉の前に座らせると、僕を……僕達を、守るように立つ。
「キサマ……ジャマスルカアッ!」
「あら、魚風情が人語を話すの? ふふ、売ったら幾らに……ああ、ダメね。壊滅的に不細工だもの。売れるとも思えないわ」
余裕の表情で言い放つお姉さんの手には、二本の長剣。
あれは確か……マスターソード。
クリティカル率上昇効果をもった、浪漫志向の剣。
僕は確か、あれをアリスじゃない武姫に持たせていた。
素早さと運に極振りして、浪漫を追い求めた武姫。
高速のクリティカル攻撃を連打する、豪運の騎士。
「……シルヴェリア」
「シルヴェリア姉さま、よ。アリス」
シルヴェリアの一撃で、消し飛ぶようにフィッシャーマン達が切り刻まれていく。
一撃でフィッシャーマンを倒しきるクリティカルダメージ。
一撃ごとにそれを発生させながら、シルヴェリアは突き進む。
「ギ、ギギャギャ!」
「ギャギャギャ、ギャギャゲガ!」
「ギャギャ!」
四方八方から繰り出される三つ又の槍も、シルヴェリアを傷つけることは出来ない。
避ける隙すら無い高密度の攻撃を、運良く回避しながらシルヴェリアは剣を振るう。
運良く急所にあたり、フィッシャーマンを斬り倒して。
「ごきげんよう、クソ魚。覚悟はいいかしら?」
「バカナ、バカナア! ナンダ、ナンダオマエハ!」
「魚如きに名乗る名前が……あると思って?」
シルヴェリアの双剣が、虹色のオーラを纏う。
剣技「ファントムレインボウ」。
僕がシルヴェリアの為に作った、敵を微塵に斬り刻む為の剣技。
それが、フィッシャーキングに叩き込まれて。
「醜き者よ……せめて美しき虹の中に、消えなさい」
フィッシャーキングの巨体が、地響きと共に倒れて。
残ったフィッシャーマン達が我先に逃げ出すのは、その数瞬後のことだった。
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