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地下三階を行こう

 海底洞窟、地下三階。

 実は僕は、ここまでしか行ったことがない。

 何故なら、地下四階なんていうものが実装されていなかったからだ。

 となると、例の地下神殿とやらは地下三階にあるか、あるいは見たこともない地下四階にあるっていうことになるんだけど……正直、この地下三階からは難易度が跳ね上がる。

 具体的に言うと、この地下三階の適正レベルが20なのだ。

 今までの場所は、高く見ても適正レベルは10程度だと思う。

 というのも、この地下三階から出てくるモンスターが変化するからだ。

 レッドスターやビッグシェルは出なくなり、代わりにフィッシャーマンやドリルフィッシュにマッハシャーク、ブルーテンタクルといったモンスターが現れる……はずだ。

 フィールド自体も、今までの足元の水たまりなんかじゃなくて腰下まで浸かる池みたいになっている。

 ……うーん、歩きにくそうだ。

 僕がザボンと水の中に入って歩き始めると、それをアグナムさんがあちゃー、という顔で見ている。


「え? どうしたんですか?」

「いや、悪ぃ。まさかためらいもなく飛び込むとは思わなかったからよ……」


 え? どういうこと?


「いや、ほれ、アリス。ちょっと出てきてこっち見てみろ」


 ジャックさんの声に従って水から出る。

 鎧からザポー、という音を立てて水が出てくる。

 そのままジャックさんの指差す方向を見ると……そこには、水の浅そうな通路。


「……んーと、まさか」

「おう、こっちを進むんだよ」


 ちょっと申し訳無さそうに言うアグナムさん。

 ……うん、まあ。そうだよね。

 ゲーム時代じゃないんだから、遠回りだろうとなんだろうと水の浅い方を行くに決まってるよね。


「よおし、じゃあ行こうか!」

「あ、おい待てアリス。服とか平気なのか」

「全然平気! さあ行こう!」


 僕がバシャバシャと水音を立てながら進むと、アグナムさん達も顔を見合わせてついてくる。


「まあ、実際だな。さっきの道はやべえんだぜ?」

「ほう、そうなのですか?」


 アグナムさんの言葉に、シュペル伯爵が食いつく。


「ああ。何しろドリルフィッシュが出やがったって話があるからな。水の中で連中と戦うなんざ正気の沙汰じゃねえ」


 ドリルフィッシュかあ。マッハシャークは出ないのかな?


「なるほど、確かに連中は水の中では動きが恐ろしく速いですからね。となると、こちらのルートでは出ないので?」

「まあな。いくら飛べるっていっても、自分が有利な場所は出たくねえんだろうさ。何しろ、こっちはこっちで厄介な奴がいるしな……ブルーテンタクルってんだが、知ってるか?」


 知ってるけど、僕はあえて黙る。

 ちなみにブルーテンタクルっていうのは、文字通りに青い触手だ。

 なんかこう、でっかい目玉の周りに触手が四方八方に集ったような不思議な外見をしてる。

 なんていうのかな。確か誰かが、チアガールの持ってるポンポンを思いっきり気持ち悪くしたらこうなる、とか言ってた気がする。

 ともかく、それがブルーテンタクルなんだけど……水の中に潜んでたりするからタチが悪い。

 しかも、ブルーテンタクルは動かないのだ。

 じっと水底に張り付いて、獲物が射程に入ったら触手を伸ばしてくるのだ。

 警戒してても足をとられるというのは、何度体験しても恐ろしい。

 まあ、高レベルプレイヤーになるとブルーテンタクル相手じゃ無傷同然だから、わざと捕まって遊んでる理解し難い知り合いも居たには居たけど。


「ブルーテンタクルかあ。気をつけないとね」


 アグナムさんの解説に合わせて、僕も頷いて。

 その瞬間、足に何かが絡まるのにふと気付く。


「あら? う、うわわあっ!?」


 通路の奥の方から、次から次へと青い触手が飛んでくる。

 足に絡まったのも、足元を見ると青い触手であることが分かる。

 思いっきりバランスを崩した僕を他の青い触手が絡めとると、思い切り引き寄せようと力が加わってくる。


「うぎぎぎ……こ、このお!」


 なんとか踏みとどまった僕も、負けじとブルーテンタクルと引っ張り合いを開始する。

 ていうか、ちょっと!

 三人共見てないでこれ、どうにかしてくれないかな!

 僕が振り返って思いっきり睨むと、シュペル伯爵以外の二人はなんだか渋い顔をしている。


「ん? お、おう。ちょっと待ってろ」


 アグナムさんはシミターを振るうと、ブルーテンタクルの触手を一本切り裂く。

 すると、ブルーテンタクルは僕から慌てて離れるように触手を引っ込めていく。


「ブルーテンタクルは落ち着いて対処すりゃ問題ねえ。アリスも剣はいつでも使えるようにしとけ」

「あ、はい」


 溜息をついて先頭を進むアグナムさんに不思議な顔を向けて、その後ろを進む。

 ……あれ?

 そういえば、さっきはどうしてアグナムさんは先頭行かなかったんだろ?


「……やっぱりなんつーか、想像と現実は違ぇなあ……。いや、素材が悪かったのか?」

「気にすんなよ、アグナムの旦那。次はもっといいの連れてくりゃいいさ」

「私は満足でしたがねえ」


 ……何の話だろ。

 僕は隣に居たシュペル伯爵の服の裾を掴んで聞いてみることにする。


「あのー、何の話なんですか?」

「男の浪漫の話です。わからないなら、そのままでいいと思いますよ?」

「えー……僕だけ仲間はずれですか?」

「フフフ、仕方がないのですよ、これはね」


 何やら意味深に笑うシュペル伯爵。

 ううむ、気になる。

 後でミケに聞いてみよう。

 ミケならたぶん分かると……あれ、そういえばミケって男の子でいいのかな?

 まあ、いいか。それも後で聞いてみよう。

 僕がそんな事を考えていると、アグナムさんがブルーテンタクルの本体をシミターで一刀両断している。


 レベルアップ! レベル16になりました!


 あ、レベルアップだ。

 ブルーテンタクルって意外と経験値が美味しいんだよね。

 一応周りを見てみると、誰も今のレベルアップ音を聞いた様子もない。

 やっぱりこれって、僕にしか聞こえない何かなんだろうな。

 というか、レベルっていう概念がそもそも普通の人はあるのかなあ?

 この辺りも、下手に口にしたらまずそうだよね。


「ねえ、アグナムさん。この階に出るのってドリルフィッシュとブルーテンタクルだけなんですか?」

「ん? まあな。なんだ、物足りねえか?」

「い、いやあ。そういうわけじゃないんですけど。アハハ」

「まあ、安心しろよ。海底神殿の扉は次の階にあるんだが……かなりキツいからよ」

 

 む、なるほど。

 やっぱり地下四階があるのか。

 となると、ゲーム時代に地下三階に居た他のモンスターは地下四階に移動したと考えるのが妥当なのかな?


「地下四階ねえ。何が出るんだ?」

「おう、フィッシャーマンどもだな。連中、半端に知能があるからキツいぜ?」


 フィッシャーマン。

 まあ、半魚人なんだけど……三叉の槍を持ってる敵だ。

 体力はあるし速いし攻撃力は高いし、実に嫌な敵だ。

 その分、数はボス並に少ないはずなんだけど……このアグナムさんの口ぶりだと、どうも違うっぽいなあ。

 うーん、フィッシャーマンの集団とか会いたくないなあ。


「まあ、何度も言うが落ち着いて対処すりゃ平気だ。連中は頭悪いからな。囲まれないようにだけすりゃ大丈夫だ」


 ゲッ、やっぱりそんなにいるんだ。

 うわあ、すごく帰りたい。

 そんな事を考えている僕の右腕に、誰かが抱きついてくる。

 

「ちょっと、伯爵……」

「はい?」


 あれ、伯爵は左にいるよね。

 ていうことは、右は?


「って、うわわわあっ!?」


 僕の全身にビシビシと巻き付いてくるブルーテンタクルの触手の群れ。

 ええい、このぉ!


「って、うわわ! 横はムリ、ズルい! わやややぁっ!?」

「あ、おいアリス!?」

「ぐっ!? くそっ、こっちにもブルーテンタクルがでやがった!」


 物凄い勢いで引きずられていく僕をジャックさん達が慌てて追いかけようとするけれど、触手が僕を引っ張る速度のほうが速い。

 しかも、どうやら向こうにも新手が出たっぽい。

 となると、こっちは僕が対処するしかない。

 大丈夫、ブルーテンタクルくらい僕一人でもどうにかなる!

 そんなちょっとの余裕をもったままブルーテンタクルに引っ張られていくと、やがて僕を引っ張っている本体の目玉が見えてきた。

 よおし、誰も見てないし思いっきりライトニングナックルを叩き込んでやる!

 そう考えた僕の視界に、何やら人影のようなものが映る。

 

「はりゃ?」


 その人は、身長はジャックさんくらい。

 体格はガッチリと筋肉質で、三叉の槍を構えている。

 肌はザリザリとしてそうな鱗で覆われていて、凄い猫背。

 ついでにいえば服は着てないし、何やら頭部にモヒカンのようなヒレが……。

 ぶっとい唇でニヤリと笑うソレに、僕は引きつった笑みを浮かべる。


「え、えーと……こ、こんにちはあ」

「ギャギャギャギャギャ!」


 うわあ、マズイマズイ!

 ここにはフィッシャーマンはいないんじゃなかったの!?

 この態勢はマズイって!


 ブルーテンタクルの触手に引きずられるままの僕には、フィッシャーマンの槍を回避する手段がない。

 この態勢じゃ、鞄からアイテムも取り出せない。

 ど、どうしようー!

 引きずられてくる僕を、フィッシャーマンが槍を振り上げて待ち受ける。


「……あっ」


 思わず、目を瞑る。

 けど、その槍は僕には届かない。

 ボン、という炸裂音と共にフィッシャーマンの苦痛の声が響く。

 え?


「マジックショットォ!」


 聞こえてくるのは、ミケの声。

 ブルーテンタクルの触手が、僕を離して引っ込んでいくのが分かる。

 慌てて態勢を立て直すと、そこには鞄から出てきたミケの姿。


「まったく、仕方のないご主人ですな……あの連中がこっちに来る前に片付けますぞ!」

「う、うん!」


 僕は慌てて拳を握り、フィッシャーマンを睨みつける。


「コード……セット!」


 よくもあんな怖い真似したな……もう、許さないぞ!


「ライトニングゥゥ……ナァァックルッ!」

 

 気合とともに、フィッシャーマンの鱗だらけの胸板に僕の拳が突き刺さる。

 スパークに包まれたフィッシャーマンは動けなくなり、その手から槍を取り落とす。


「ブラスト……エンドォ!」


 レベルアップ! レベル17になりました!

 レベルアップ! レベル18になりました!

 レベルアップ! レベル19になりました!


 フィッシャーマンが爆散する音の後に、レベルアップ音が聞こえてくる。


「ふんだ……ざまぁみろ!」


 聞こえてくる慌てたような足音にミケが慌てて鞄に潜り込むのを見ながら、僕はもう居ないフィッシャーマンに悪態をつく。

 ほんとに怖かったんだぞ、もう!

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