第2話「忘れられた誕生日」
――午後の柔らかな光が、カフェの木製のテーブルに落ちる。
窓際の席には、小さな紙袋を抱えた少女が座っていた。中学三年生くらいだろうか、制服のブレザーは少し大きめで、肩に力が入っている。
「いらっしゃいませ」
「……あの、相談に来ました」
声はかすかに震えていた。
「どうぞ。ここでは誰も、あなたを責めません」
ミライは温かく微笑む。
少女は小さく頷き、紙袋から封筒を取り出した。中には、手作りのカードや写真が入っているようだ。
「今日、私の誕生日なんです……でも、誰も祝ってくれなくて」
声をひそめ、彼女は視線を机に落とす。
「友達も、家族も……忙しいって、誰も覚えていない」
ミライは静かにうなずき、アルバイトの青年に合図を送る。
「じゃあ、ちょっと手伝ってもらおうか」
青年は笑顔で奥から小さなケーキを持ってくる。ろうそくが一本、ふわりと灯った。
「……え?」少女は驚きと戸惑いの入り混じった顔をする。
「忘れられた誕生日は、ここで祝えばいいんです」
ミライの声は柔らかく、でも力強い。
少女は涙をこらえながら、ろうそくの火を吹き消す。小さな笑顔がこぼれた。
「ありがとう……こんなに嬉しいの、久しぶりです」
「あなたの存在は、ちゃんと誰かに届いています」
ミライの言葉に、少女はうなずいた。
紙袋の中には、思い出の写真やカードだけでなく、“孤独だった時間”も詰まっていた。それを誰かに受け止めてもらうことで、少しずつ軽くなるのだ。
午後の光が差し込むカフェには、静かで優しい空気が満ちていた。
街の片隅の小さな空間で、忘れられた誕生日は、小さな奇跡として形を変えたのだった。
――次の客が扉を開ける。紙袋を抱えた新しい悩みが、また静かにカウンターに置かれる。




