表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第2話「忘れられた誕生日」

――午後の柔らかな光が、カフェの木製のテーブルに落ちる。

窓際の席には、小さな紙袋を抱えた少女が座っていた。中学三年生くらいだろうか、制服のブレザーは少し大きめで、肩に力が入っている。


「いらっしゃいませ」

「……あの、相談に来ました」

声はかすかに震えていた。


「どうぞ。ここでは誰も、あなたを責めません」

ミライは温かく微笑む。


少女は小さく頷き、紙袋から封筒を取り出した。中には、手作りのカードや写真が入っているようだ。


「今日、私の誕生日なんです……でも、誰も祝ってくれなくて」

声をひそめ、彼女は視線を机に落とす。

「友達も、家族も……忙しいって、誰も覚えていない」


ミライは静かにうなずき、アルバイトの青年に合図を送る。

「じゃあ、ちょっと手伝ってもらおうか」


青年は笑顔で奥から小さなケーキを持ってくる。ろうそくが一本、ふわりと灯った。

「……え?」少女は驚きと戸惑いの入り混じった顔をする。


「忘れられた誕生日は、ここで祝えばいいんです」

ミライの声は柔らかく、でも力強い。


少女は涙をこらえながら、ろうそくの火を吹き消す。小さな笑顔がこぼれた。

「ありがとう……こんなに嬉しいの、久しぶりです」


「あなたの存在は、ちゃんと誰かに届いています」

ミライの言葉に、少女はうなずいた。

紙袋の中には、思い出の写真やカードだけでなく、“孤独だった時間”も詰まっていた。それを誰かに受け止めてもらうことで、少しずつ軽くなるのだ。


午後の光が差し込むカフェには、静かで優しい空気が満ちていた。

街の片隅の小さな空間で、忘れられた誕生日は、小さな奇跡として形を変えたのだった。


――次の客が扉を開ける。紙袋を抱えた新しい悩みが、また静かにカウンターに置かれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ