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第1話「初めての相談客」

――東京、下町の細い路地裏。

白いカフェの看板が、朝の光に照らされてほんのり輝いている。


「いらっしゃいませ」


カウンター越しに微笑むのは、店主の風間ミライ。淡いブルーのエプロンが清楚に映える。彼女の目は、客の小さな仕草や瞳の色、呼吸のリズムまでを捉えるかのようだった。


「……えっと、ここ、相談カフェですか?」

扉を開けたのは、スーツ姿の若い男性。手に紙袋を握りしめ、少し戸惑った表情だ。


「はい。こちらでは、あなたの悩みを“買い取る”形でお話を伺っています」

ミライはカウンターに小さなメモ帳を置いた。紙袋の中身を覗くことはせず、ただ視線を穏やかに向ける。


「買い取る……って、料金を払うんですか?」

「その通りです。問題を言葉にすることで、少し軽くなることがあります」


男性は小さく息を吐いた。背中の緊張がゆるむのが、ミライには分かる。


「じゃ、お願いします……仕事のことで……」


話は簡単には進まなかった。

遅刻、ミス、上司への言い訳、同僚の誤解。言葉を選びながら、彼は紙袋の中から手帳を取り出し、メモを書き付けるように話す。


「なるほど……」

ミライは静かに頷きながら、時折質問を差し込む。

「それはあなたが悪いというより、状況が悪いだけですね」「では、どうすれば次は同じことを避けられるでしょうか」


不思議なことに、男性はだんだん肩の力が抜け、表情が明るくなった。紙袋の中身——それは、彼が抱えていた“心の荷物”そのものだった。


「ありがとうございます……なんだか、少し楽になった気がします」

「またいつでもどうぞ。悩みは、話すことで整理されますから」


扉を閉める音と、街の喧騒が戻る。

カウンターの向こうで、アルバイトの少女が小さく笑う。


「今日のお客さん、少し元気になったみたいですね」

「うん。小さな一歩。でも、それが大事なの」

ミライは窓越しに差し込む光を見つめ、静かに考えた——この街には、まだたくさんの“小さな悩み”が眠っている、と。


――次の客が、そろそろ来る時間だ。

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