しあわせの書 名探偵ヨギ ガンジーの心霊術
⚪︎評価
9/10 点
⚪︎あらすじ(ネタバレ)
『しあわせの書』は桂葉華聖の縷言を活字にした書物である。恭しい、うやうやしい、等表記揺れがある。発行所は「惟霊講会」という宗教団体で、華聖はその教祖。
彼女は幼少期から読心術が使えた。ある時、水の行者に出会い、弟子になる。水の行者は「惟霊講」という集まりを持っていて、やがて華聖を教祖にした。
不思議な部屋の中。年老いた華聖、月聖=男、日導=女、清林寺日聖=忠茂=男=華聖の孫。
日導が『しあわせの書』を使って読心術を披露する。華聖が選んだページの最初の文字を当てるという内容。
華聖は後継者選びに悩んでいた。清林寺は不甲斐ないが実の孫であり、日導は読心術が出来るからだ。
場面変更。恐山。
イタコによると、火事で死んだはずの六郷藍子は生きている。
美鳥那那という芸能人が飛行機事故で死んだらしい。
探偵役?のガンジー、その助手の不動丸=男、助手の美保子=女が登場。
地盤崩壊で清林寺が死亡したニュースが報道される。
藍子の兄の話。
彼女は男と駆け落ちしたが、やがて「惟霊講会」に入信し家庭が崩壊。講会の鷹狩月聖に会う。その後藍子が失踪、火災で死亡。『しあわせの書』が遺品から発見される。ガンジーは現物を兄から受け取る。
週刊誌に芸能人の那那に似た人物の写真が載っている。
ガンジーは『しあわせの書』をぱらぱら捲り、美保子にストップをかけさせページを選ぶ。見開きページの最初の文字を覚えさせる。文字を当てる。
惟霊美術館で、美保子が『しあわせの書』を入手。受付はを胡泉瑠璃子。
その日は華聖の母の誕生日で信者が集まっていた。美保子は講会に侵入する。
道中、塩田という老人に話しかける。小豊田というデブの信者の女が失踪した話が聞こえてくる。
イケメン=海尻が話しかけてくる。美保子と同じく、惟霊講会の信者ではない。恋人の瑠璃子が惟霊講会の信者で、今は亡き彼女を偲んで感傷浸るため。
美保子は瑠璃子が生きていて受付をしていたことを話す。
二人で受付に戻るが、瑠璃子という人物はいないとあしらわれ、『しあわせの書』も偽物だと言われる。
日導=瑠璃子の推論を聞く。
海尻に導かれ、見知らぬ場所へ。だれかの部屋。謎のリスト。部屋に誰かが来る。隠れる。リストの人物の力井と、謎の女の声。警備員に見つかる。海尻と美保子は別の場所へ。
美保子が連れて行かれた先には、ガンジーと不動丸も捕まっていた。盗み食いしたらしい。
力井と知り合いだと嘘をつくが、何故か本当に力井からの口添えで解放される。向かう先は華聖の部屋。
部屋には力井や海尻もいた。
ガンジーは、華聖から断食の審判役を頼まれる。清林寺=日聖と瑠璃子=日導の内、勝者が次の教祖になる。
『しあわせの書』の印刷について。出版社が原稿を改訂しようとすると怒る。紙を自分で持ち込んでくる。等、気にかかる点がある。
断食場所には、海尻もいた。海尻は瑠璃子と再会。瑠璃子は教祖になろうとしているが、海尻は消極的。
断食中は会話も禁止。番号で呼び合う。断食会場の家には「日一天会修行道場」の看板。
断食開始。
ガンジー達も参加。瑠璃子は『しあわせの書』を所持。
隠されていた4、50冊の真新しい『しあわせの書』を発見。瑠璃子と力井の交尾を目撃。瑠璃子だけ元気。
何人かが脱落。断食は瑠璃子の勝ち。
断食終了。
川に流れる『しあわせの書』を発見。
解決編。
断食後、お粥を食べるが、それが「ヤセール」という米で、全員が餓死させられそうになる。
会員が死亡や失踪を繰り返していたのは、「日一天会」という別の宗教の会員として処理するため。「日一天会」は「昇天会」とも読める。
ガンジーが、コップの水に『しあわせの書』を溶かす。それは澱粉でできていた。瑠璃子は断食中にこの本を食べていた。
黒幕は鷹狩=海尻。海尻は偽名。海尻は瑠璃子を使って教祖の座を狙っていた。
「日一天会」の偽設立目的は、継承問題からマスコミの目を逸らすため。
問題点は海尻に断食経験がないこと。そこにガンジーが現れたので、利用することにした。
部屋に侵入したと思っていた場面は、海尻の部屋だった。
不動丸が肉体で解決。
『しあわせの書』は全ての見開きページの右上の単語と、見開きの左ページの左から二行目の一番下の単語が一致している。表記揺れの原因で、トリックのネタ。
そして、この小説そのものに同じトリックが仕込まれていることが判明して終了。
⚪︎感想
しあわせの書を澱粉で作って食うアイデアは良いが、本編はつまらない。
が、そんなことはどうでもいい。本編がどうでもいい小説とはなかなか珍しい。
電子書籍が人口に膾炙した現代において、紙でなくてはいけない理由が詰まっている本。これが1987年に刊行されていることが衝撃的。電子書籍ではいけない理由がちゃんとある小説なので、今の時代にこそ相応しい小説。紙の本が好きなら必読。