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15,新しい仕事は想像がつかない

 約束の放課後。生徒会室の前まで来た。正真正銘、生徒会の庶務として一員に加わるわけだが、変に意識してしまい少し緊張している。いや、胸を張るんだ。目立つことが嫌いな俺が、役員選挙という大きな試練を乗り越えて今ここにいる。生徒会のみんなも温かく迎え入れてくれるだろう。緊張する必要なんて何一つもない。そうと決まれば、さっさと入って挨拶しよう。


 コンコン。ガラガラ。


「失礼しまーす。」


「あ、渡辺君。」


「あら。」


「お、来たか。遅かったな。」


 全員そろっていた。こうやって一度にまとまって会うのは、今思うと久しぶりだな。もはや懐かしさすら感じる。


「改めてよろしくお願いします。」


「うむ。よろしく頼む。では会議へと移ろう。」


「え?」


「ん?どうかしたか?」


「あ、い、いえ。あの、何か…ね...。」


「なんだ。思っていることがあるのなら言ってくれ。今は焦らしプレイなどいらんぞ。」


 思っていたのと違う。確かに生徒会室には前までよく通っていたから、俺が来ても新鮮さは無いかもしれない。しかし、自分で言うのもなんだが、結構頑張ったんだぞ?そしてここに帰ってきた。言わば凱旋だ。こんな肩透かしに遭うなんて想定外である。派手な出迎えは望んでいないにしても、優しい言葉ぐらいはかけてほしかった。


「会長!さっきまであれだけ練習したじゃないですか。」


「うぐ!」


「言わないと伝わらないですよ。ほら!早く!」


「わ、わかっている!そう急かすな。」


 練習?練習って何だ。さっきまでの冷静な会長から一変、副会長の言葉を受けてから、急にもじもじしだした。


「その…あれだ。選挙活動のことだが、あまり手伝えなくてすまなかったな。」


「い、いえ。会長も忙しかったでしょうし。他の二人がたくさん手伝ってくれたんで感謝してます。会長の方を手伝ってほしいと思うくらいでしたよ。」


「うむ。年間行事の中でも生徒会選挙は重要さで言うと、かなり上位の方でな。生徒会自体もそうだが、今後の学校の在り方を決めるといっても過言ではないのだ。庶務の取り決めであっても全く手は抜けない。それに、うちは人数が少ないから投開票が特に大変でな…。」


「ちょっとちょっと!そうじゃないでしょ。渡辺君は会長の苦労話を聞きたいわけじゃないんですよ。照れてないでスパッと言っちゃってください!」


「うう…。」


 副会長の語気が凄く強い。こういう言われ方は会長の大好物のようにも思えるが、喜んでいる様子でもない。そして、また一層もじもじしだした。これはこれで、不気味だ。


「えっと…だな。私は何もできなかったのだが、君のことをずっと応援していたのだ。立場上関わることができなかった…。だがこれだけは言わせてくれ。…お、」


 顔を赤くしながら伏し目がちにこっちを向いた。


「…おめでとう。これからもよろしくね。」


 この人、SなのかMなのか、本当はどっちなんだ。生徒会に加入して初日にいきなり会長のツンデレを味わわされた。照れ方も普段の変態的な感じではなく、もじもじして恥ずかしがっている。さっきは不気味と言ったが、実は不覚にもかわいいと思ってしまった。


「よ、よろしくお願いします。」


「ふう。やっと言えた。実は会長も私たちと同じくらいあなたを気にかけていてね。私は始めから手伝うつ

もりだったんだけど、動こうとする前に会長から、渡辺君に手を貸してあげてくれって頼んできたのよ。投開票していて当選したのが渡辺君だって分かった時、両手をぐっと握ってとても喜んでいたわ。」


「そ、そうだったんですか。」


「けど、渡辺君の前ではかっこいい先輩でいたいみたいでね。いつも通りに接する方がクールだろうとか言ってたんだけど、それだとクールじゃなくて冷たいだけだからってことで、あなたにおめでとうって言う練習をしていたってわけ。変なプライドを持っちゃってなかなかうまくいかなったんだけれどね。」


「そ、そこまで言うのではない!こういう辱めは私の望むプレイではないぞ。」


 まあ、散々変態的な会長を見せられてきたから、今更プライドがどうこう言われてもって感じではある。そうか。会長も裏でいろいろと協力してくれていたのか。


「会長、ありがとうございます。」


「よ、よせ。ある程度ノウハウを知っている者が入った方が生徒会にはいいと思っただけだ。これからたくさん働いてもらうから覚悟しておくのだぞ。」


「はい。よろしくお願いします。」


「全く。素直じゃないんだから。」


 なるほど。こういう攻められ方が苦手なのか。いいことを知った。また会長が今までみたいに変な妄想をしたり、調子に乗り出したりしたらこの弱みを突くこととしよう。


「ごほん!では、ここまでだ。今日の本題に入るぞ。君と花蓮はゴールデンウィーク明けに林間学習があるのだが、聞いているよな。」


「え?林間学習?」


「ん?聞いていないのか?」


「そういえば、渡辺君寝てたもんね。英語の授業の終わりに先生が言ってたよ。今度班決めをするからなって。」


「そうなのか。」


 俺にとっては初耳だ。まさか授業中の居眠りの間にそんな発表があったとは。担任が英語の先生だったことをすっかり忘れていた。


「その班決めのことなのだがな、基本私たち生徒会は別行動になるのだ。だからクラスの班決めには参加しなくていい。」


 それを聞いて安心した。友達のいないやつにとって、学校行事の班決めは苦行以外の何物でもない。頼みの綱の三喜夫がいるから一人は確保できるが、他の人が見つからずに最後まで残り、泣く泣く特に接点もないクラスメイトとくっつけられるのがいつものことだ。気まずいし、口下手の集まりだから盛り上がりもせず、これを気に友達になることもまずない。友達が少ないのは、こういう時に不便だ。


「はあ。」


「どうしたんですか?副会長。」


「いやあね、一年生の時の行事と言ったら仲の良い人たちと楽しんだり、そうじゃない人とでも話すきっかけになって友達になれるものじゃない?それなのに、私も一年生の時に別行動になるって聞いて本当に残念で落ち込んだなあって。今はたくさんのいい友達に恵まれているのだけれどね。」


 この人、そっち側だったのか。仲間だと思っていたのに、ただのコミュ力お化けじゃないか。一気に遠い存在になってしまった。友達が多い人と一緒にいると気が滅入ってくる。もしかして今回俺に票が集まったのは、この人の組織票もあったのか?


「でも、そんなことなんて忘れるぐらい生徒会の林間学習での活動は大変なのよ。」


「そうなの?お姉ちゃん。」


「ああ。実はこれからそのことについて話そうと思っていたのだ。林間学習でのイベントは三つあってな。それはウォークラリー、飯盒炊爨、キャンプファイヤーだ。これらを行う際の安全と秩序を守るため、同行いただく先生方とともに私たちは生徒の監視役をするのだ。」


「私たち?ってことは会長と副会長もくるんですか?」


「もちろんそうよ。あなたたちは私たちと一緒に行動するわけ。もちろん飯盒炊爨も一緒にするわよ。」


「へえ。それもすごく楽しそう!ね!渡辺君!」


「あ、ああ。そうだな。」


 確かに変に馴染みのない奴と組むよりかは気が楽かもしれない。そして、新入生独特の無理に仲良くしようとする馴れ合いの雰囲気も俺は好きではない。生徒会の中でだったらマイペースでいられそうだ。


「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、とっっっっても大変なのよ。」


「そうなのですか?」


「うむ。特に君達一年生は同級生の輪に入れない上に、多くの雑用をしないといけないのだ。」


「そうなのよ…。本当につらかったわ…。はあ、行きたくない。」


 副会長のテンションがみるみるうちに下がっていく。友達が少ない俺みたいなやつが行きたがらないのはよくあることだが、友達に困らないような人が学校行事をこんなに嫌そうにするなんてそうそうない。


「いったい何をさせられるんですか?」


「まずウォークラリーでは、生徒たちが通るルートの中継地点に立ってもらう。順当に周れていれば一班ずつ中継地点にやってくるはずだから、その班のメンバーがそろっているかの点呼をとって、班の人たちが答えてきた、各ポイントで書いてあるクイズの答え合わせをしてほしい。」


「私たちはメンバーが少ないから、四か所の中継地点に一人ずつ配置されるの。幸い暑くも寒くもない季節だからまだマシなんだけど、何時間も一人で人が来るのを待ち続ける。本当に苦行だわ。」


「そして飯盒炊爨。当日に近くのスーパーで食料などの買い出しに私たちが行って、必要な道具食材を用意していく。もちろん施設の方々への挨拶も怠らずにしないといけない。これも私たちの仕事だ。」


「この買い出しなんだけどね。先生が車を出してくれるんだけど、なんてったって一学年分よ。想像しているよりもかなりの量で、運ぶのがすごい大変なの。あとは、みんなが片付け終わった後のチェック。貸し出し用の備品がそろっているかなどの確認も抜け目なくやっていくの。今後の施設利用にもつながるからね。この作業もすんなり終わることは滅多にないみたいで、去年も箸が何本も不足してしまって施設の人に迷惑をかけたわ。」


「最後はキャンプファイヤーだ。いろいろなイベントではしゃいだ後に、大きな炎を囲んで心を落ち着かせ催し物をする。私たちは燃やす木の組み立てなどを行う。」


「これが一番厄介なのよ。用意されているのは大きくて太い木が十本ぐらいあるだけで、燃やすための枝とか着火剤などは集めてこないといけない。火を起こすのも自分たちでするんだけど、重い木を運ぶ力仕事で疲れるし、着火させるのも難しくイライラして心身共に参っちゃうの。こんな感じだから、寝る時ぐらいは女子たちと恋バナとかでもして楽しんでやるって意気込んでいても、結局寝落ちしちゃって気付けば林間学習が終わってるのよね。楽しかった思い出は全くないわ。」


「そうなんですね。大変そう…。」


 確かにすることが多くて大変そうだ。副会長がこれだけ言うのだから、よっぽどのことなのだろう。しかし、俺にとってはその方が好都合である。仲の良くもない奴らとグループワークとか仲良しごっこみたいなことをしていることの方が苦痛だ。忙しいということは裏を返せば暇で困らないとも言えるし、気付いたらイベントが終わっているというのもありがたい話だ。


「まあ、せっかく生徒会の一員になれたわけですし、頑張って働きますよ。」


「うむ。心強い言葉だ。よろしく頼むぞ。ウォークラリーの配置など、諸々の取り決めは明日行うからそのつもりでな。今日は以上だ。各々解散。お疲れ様。」


「渡辺君、いろいろと頼むわね。」


 副会長が小声でささやいてきた。なぜだろう。この人に頼まれごとをされると、嫌な予感しかしない。


「渡辺君!一緒に帰ろう!」


「ああ、そうだな。では会長、副会長。お先に失礼します。」


「うむ。またな。」


 生徒会室を出て扉を閉めきるまで、副会長が俺に終始熱い眼差しを送っていた。俺に何かを期待しているのか。それとも、面倒ごとを俺に押し付けようとしているのか。よく分からんが、とりあえずそんなことは忘れて、今は西園寺と一緒に帰ることに集中しよう。


「貴子さんはああ言ってたけど、私は林間学校楽しみだなあ。渡辺君はどう?学校行事とか好き?」


「す、好きだよ。」

 君のことが。なんちゃって。


「へえ、そうなんだ。でも、やっぱりどうせならクラスの人同士で班は組みたかったかな。生徒会でだったら仕事って感じになっちゃうし。クラス内なら渡辺君とももっと楽しめたかもしれないし。」


 それって班決めが自由だったら、俺と組んでくれていたってことか?いや、自惚れるな。生徒会で仕事として参加するのと比べればってことだろう。分かってても変に意識してしまう。


「だ、だいたいは男女で班決めは分かれるんじゃないか?なかなか混合で組もうとはならないし。ま、まあ人気者とかだったら話は別だけどな。」


「うん。それもそうだね。」


「それよりも、会長の話を聞いている感じだと当日は力仕事が多いみたいだよな。俺以外は全員女子だからどんどん頼ってくれよ。」


「ありがとう。そうさせてもらうね。」


 このギクシャクした感じは何だ。未だに西園寺に対して会話の歯切れが悪くなるなんて、我ながら情けない。意識している雰囲気が向こうにも伝わってしまっているに違いない。話の切り替え方も不自然だったな。


「そういえば、今日のお姉ちゃん何か変だったね。あんな姿初めて見た。でも可愛くて新鮮だったなあ。私にとってはかっこいい人ってイメージだったから。」


「ああ、確かにな。会長にSは似合わない。」


「S?」


「いや、何でもない。」


 しまった。ついつい口を滑らせてしまいそうになる。あんな人でも西園寺にとっては憧れの人だ。その理想を崩さないためにも、バレてはいけない。


「実はお姉ちゃん意地っ張りなところがあってね。本心とかもあまり表に出さない性格なの。自分はこうあるべきだっていうのがあるみたい。だから、さっきみたいな感じだったのかもね。」


 そんな人だとは思えないがな。俺がよく目にする会長は、欲望に忠実だ。セクハラされるのをご褒美だとかいうし、罵られたら鼻息を荒くしだすし。無論、西園寺にはこのことも禁句である。


「なんかごめんね。お姉ちゃんには私からも言っておくよ。」


「全然気にしてないから大丈夫だよ。応援してくれてたことは伝わったし。」


「ううん、おめでとうとかありがとうは素直に言えないとダメだからね。貴子さんもだけど。二人とも先輩なのに。」


 西園寺の声のトーンが低くなった。おそらく、先輩など関係なく礼儀をわきまえていない人は許せない性格なのだろう。間違いない。だって今の反応、少し怖かった。


「なあ、西園寺。」


「ん?」


「いつも一緒に帰ってくれてありがとう。」

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