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14,選挙結果に緊張しないわけがない

「もうそろそろじゃねえか?緊張するな!」


「…静かにしてくれ。」


 相変わらず空気の読めない三喜夫。いや、そんなことはどうでもいい。とうとう生徒会役員の当選発表日で、この昼休みの間に校内放送で結果が告げられる。


 昨日から緊張して眠れなかった...わけがない。副会長が前に言っていた宣伝用のビラ、尋常じゃない量だった。おそらく大木一本分はあっただろう。配る前から意気消沈だったが俺のために用意してくれたと思うと無下にもできず、それはもう身を粉にして配りまくった。朝は誰よりも早く登校して配りまくり、帰りも校内に誰もいなくなるまで配りまくってから下校した。もはやビラをすべて配り終えることが選挙活動の目的みたいになってしまい、配り終えた瞬間は何とも言えない達成感があったものだ。そんなこんなで、開票当日の緊張よりも選挙活動で蓄積されてきた疲労のほうが勝っている。


「気づいたら昼休みか。寝とくから結果だけ後で教えてくれ。」


「そう言うなよ。お前に協力してくれた人もたくさんいるんだろ?その人たちの思いも背負っているんだから、寝てたらダメじゃん。」


「…まあ、そうだな。」


 おっしゃる通りです。ぐうの音も出ないとは正にこのことだ。確かに副会長と西園寺には本当にお世話になった。副会長には振り回されたような気もするが、いろいろな策を練ってくれた。策とは言え、俺の顔がでかでかと載ったポスターやビラを配るなど、恥ずかしい思いをたくさんしたが、がんばってねとか応援してるよなどの言葉も実際にはたくさんもらった。顔を覚えてもらうには十分すぎる効果があったと思う。副会長がいなければ、俺は何もできなかった。


 そして、更に軌道に乗り始めたのは演説の日以降だ。あの演説で表面だけでなく俺の思いも、全校生徒にうまく伝えられた。これは西園寺の助けのおかげだ。西園寺が道を示してくれなければ、演説は愚か、選挙活動自体も成功していなかったに違いない。


「副会長と西園寺の二人には感謝だな。」


「何言ってんだ。俺もいるだろ?」


「何もしてねえだろ。選挙中にお前を思い出すことなんてなかったぞ。一度も出番もなかったし。」


 ピーンポーンパーンポーン。


「こんにちは。生徒会長の高橋です。お昼時に失礼致します。先日から行われていた生徒会役員選挙の結果を報告させていただきます。」


 会長の声を聞いてから背筋を立て、両手にグッと力が入った。眠気のことも忘れ、一気に緊張感が高まる。ちなみに三喜夫もそわそわしていた。どうしてお前も緊張する。


「今回の庶務に当確したのは、」


 ごくり。


「一年F組の渡辺剣人君です。おめでとうございます。」


「よっしゃー!やった!やったぞ!努力が報われたぜ!」


 この台詞を言ったのは三喜夫だ。いや、俺に言わせろ。そんな反応をされた後に、俺はどうしておけばいいんだ。テンションが上がる前に、呆けてしまった。


「喜んでくれるのは嬉しいんだが、少し静かにしろ。」


 選挙の開票日というと、テレビ中継でよく候補者と後援会の大勢の人たちが集まって発表を待ち、当選したとなれば飛び跳ねるようにして大喜びする姿を目にする。だが、今はどうだ。さっきの三喜夫の声で少し反応した人が少しいたが、今は会長の声が俺たちにしか聞こえていなかったのかと思うほどに、みんないつも通りに昼飯を食べて談笑している。よく考えると、今回当選したのは生徒会の末端ともいわれる庶務。しかも、全く目立ちもしないこの俺が当選したんだ。興味を持つ人が多いはずもない。自分のことを買い被りすぎていた両手を握りしめて心の中で祈っていた自分が恥ずかしいし、三喜夫の大声もその恥ずかしさに拍車をかけている。


「選挙とはどちらかを選ばなければならないものなので、勝ち負けを付けざるを得ない形にはなりますが、立候補してくれた二人の気持ちに心から感謝したいと思います。在校生の皆様も今後の二人の活動を温かく見守ってあげてください。以上、生徒会役員選挙結果でした。失礼いたします。」


 ピーンポーンパーンポーン。


「どうした剣人。」


「いや、何でもない。トイレ行ってくるわ。すぐ戻る。」


 校内でこの結果に興味を持っている人はほとんどいないだろうが、内心めちゃくちゃ嬉しい。自意識過剰かもしれないが、教室の中で喜ぶとダサいと思われるかもしれないし、人目のつかないところで少し落ち着いてから戻ろう。


「金城君残念だったねー。でも庶務は正直金城君には似合わなかったよ。」


「そうかな。あ。」


 タイミング悪く目が合ってしまった。結果が出た直後で女子三人に囲まれているのか。相変わらず人気者のようだ。さっきは女性人気があいつの弱点だと言ったが、男にとって羨ましいことなのは間違いない。生徒会選挙のために男性票を取りに行ったが、正直その女性人気も少しは分けてほしいものである。


「やあ、渡辺君。当選おめでとう。俺も生徒会に入りたかったけれど、残念だ。でも、学校の生徒は君を選んだ。君ならきっと学校を良くしてくれるだろうし、俺も陰ながら応援するよ。」


 爽やかイケメンからそのようなお言葉をもらうのは嬉しいが、お前の隣にいる女子たちが俺のことをにらんでくる。まあ、こんな冴えない男がこの金城に勝ったんだ。金城が認めても女子たちは認めないだろう。


「運が良かっただけだよ。生徒会とも脈があったしな。フェアではなかっただろ。」


「謙虚だな。君のそういうところが人を惹きつけたんだと思うよ。当選したのは君の努力じゃないか。胸を張って生徒会で頑張ってくれ。じゃ、昼休みもそろそろ終わるし俺はもう行くよ。じゃあね。」


「ああ、じゃあな。」


 金城が去っていくときも、取り巻きの女子たちは俺のほうを終始にらんでいた。戦いには勝ったが勝負に負けたということなのだろうか。気にしても仕方がないことだが、何とも後味が悪い。


「あ、いた!探したよ!」


「西園寺?!」


 もうすぐ昼休みが終わる時間なのに、西園寺が俺を見るや否や、小走りでこちらに向かってくる。


「探してたって…俺のことをか?」


「うん。もちろんだよ!渡辺君、当選おめでとう!これからも一緒に仕事できるね。とっても嬉しい!」


 この言葉を聞いて喜びがどんどん上昇してきた。生徒会というよりも、西園寺のために頑張ってきたと言っても過言ではない。今までの苦労が報われた気がする。生まれてきてよかった。


「ありがとう。西園寺が協力してくれたおかげだよ。」


「もう、そればっかり。当選したのは渡辺君の努力があったからだよ。」


 金城からも全く同じことを言われたが、なぜこうも感じ方が違うのだろう。さっき言われたときは何とも思わなかったが、今はとろけてしまいそうな気分だ。


「それでもお礼は言わせてくれ。俺一人じゃどうにもならなかったのは事実なんだ。」


「じゃあ、貴子さんにももっと感謝しようね。あの人が誰よりも渡辺君のために動いていたから。」


 確かにその通りだ。あの人のせいで俺の体が壊れてもおかしくはなかったが、あの人のおかげでこの当選に繋がったことは間違いない。会長の面倒を見る手駒を増やすための一仕事だったのかもしれないが、何もわからなかった俺にとっては、いろいろ手伝ってくれて本当に助かった。その思いはちゃんと伝えないといけない。


「早速今日から当選者を含めた集まりがあるんだって。また放課後、待ってるからね。」


「ああ、また放課後。」


 まあ、同じクラスだからいつでも会えるんだけどな。しかし、何か自然なきっかけがないと話しかけられないというのが俺の性格だ。これができていれば友達は三喜夫以外にもいるだろうし、西園寺との関係も変わっていただろう。無論、そんな積極性は持ち合わせていない。せっかく西園寺から放課後待っていると言ってくれているんだ。お言葉に甘えてその時を待つとしよう。


 そういえば、会長と副会長とはここ一週間会っていないな。副会長にたくさん手伝ってもらったが、生徒会の現役員が候補者の活動に終始介在するのは良くないだろうということで、終盤からは一人で副会長から課せられた策をこなしていた。


 会長に関しては大した会話も二週間していない。強いて言うなら、前に候補者演説で少し接したぐらいだ。今の距離感でいる分には、カリスマ性のあるかっこいい人だと思える。だが残念なことに、これから一緒に働くとなると、目を瞑りたくなる場面が多々あることだろう。仕方がない。副会長と約束したし、これも西園寺のためだ。


 こうして無事当選した俺は、期待と不安を掛け持ちながら放課後の生徒会の集まりまで平穏に授業を受けた。

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