定例茶会
今回はシルビア視点です
日の当たる明るい部屋の一室で殿下と向かい合ってお茶を飲む。
ここ最近にしては珍しく2人きりである。
定例茶会。王太子妃候補との間に設けられている定期的なお茶会は基本令嬢側の邸宅で行われる。令嬢側は殿下から茶会の開催日時として都合のいい日を手紙で知らされた後、家のものを通して準備などを行ってもらう。
もちろん殿下との月に一度の逢瀬ともなる為、普通の令嬢であれば当日のドレスなどは力を入れたりするものだが…私は普段と変わらない服装でいつも対応している。
なんせ、相手は私に興味なんてないのだから
「本日はお姉さまがいらっしゃらないのにお越しくださるとは思いませんでした」
伏せていた瞼を持ち上げ、目の前の人の少し想像と違った行動について指摘する。
「リズが居なくても君には会いに来るよ。なんせ君も僕の婚約者候補なのだから」
殿下はニッコリと笑みを作る。
嘘くさい笑み…
「そうですか。わざわざお気遣いいただき光栄です。しかし、殿下がそのようではお言葉ですがお姉さまは気づかないと思うのですが」
なんせあの姉は私に王太子妃の座を押し付けようと未だ考えている節がある。
大変迷惑でしかないが、お姉さまの考えを理解できるはずなんてないし半分以上は呆れているのだが
「ああ、その心配はいらないよ。ちゃんと本人にも伝えているから。それに逃がすつもりはさらさらないからね」
金色の瞳が獲物を捉えて離さないと言わんばかりに細められる。
…お可哀そうなお姉さま。王太子殿下から逃げられるわけがないのに
領地にいるであろう姉に思いをはせる。
「そう言えばもうすぐ君たちの誕生日だろう?」
「はい」
もうそんな時期が来たのか。1年なんてあっという間ね。
昨年は姉さまが熱を出したことや私の体調を考えて屋敷内の人間のみで公爵家にしてはささやかなパーティーを開催した。
ドレスは2人お揃いの白いものだったのだが、お姉さまが小さい子にぶつかられて盛大にジュースを溢されたのだったか。おかげで綺麗な白のドレスは純白を失い、お姉さまは汚してしまったことへの罪悪感からかあたふたし、ぶつかった少年が泣き始め、お姉さまも泣き始めて…
思いだすだけでため息が零れてしまう。とりあえず、大変な日だったということだけは覚えている。
しかし、今年はお姉さまも比較的問題なく私の体調も落ち着いていることからロゼリアお姉さまやレイチェルお兄さま同様に他者も招くパーティーを催すとお母さまからお聞きしている。
「今年は君たちの誕生日当日に“おめでとう”を言えるね」
「殿下に覚えていただけて光栄でございます」
殿下は楽しそうに笑う。
先程までの胡散臭さはなく純粋に笑われている。
この笑顔はお姉さまが王太子妃を拒否し始めたぐらいから時折見るようになった笑み。
人間らしい笑みだ。
「昨年は2人ともに栞を贈っただろう?」
「ええ、とても繊細な金糸の栞でしたね。とても使い勝手が良いため活用させていただいております」
「それは何よりだ。今年は欲しいものはあるかな?そろそろ準備しようと思うのだが」
「殿下のお気持ちだけで私は大変うれしく思います。お姉さまはいろいろ事業展開などもしておりますから私から申し上げることはなにもございません」
現にお姉さまが欲しているものなんて知る由もないのだが…
この王太子なら探りを入れてこないとも言い切れない。
先手を打って面倒な会話を断ち切っておく。
「リズの欲しい者なんて姉妹の君が分からないなら私なんかはもっと分からないだろうけど、彼女は私からの贈り物というだけでいい表情が見れそうだ」
「‥‥‥」
うっわぁ。お姉さまお可哀そうに。完全に遊ばれているではありませんか
なんて気の毒な。
気の毒と思えどそれを手助けしようなどは一切考えないシルビア。彼女のこういう考え方が貴族向きの考えともいえるだろう。リズビアにはなく、シルビアにあるものといえるだろう。
「パーティーには何色のドレスを着るんだい?」
「今年も私は白らしいです。なんでもお姉さまたってのご希望だとかで」
「へぇ、確かにシルビアは白が似合いそうだ」
「お褒めいただき光栄ですわ」
ニッコリと笑っておく。
「シルビアだけが白色ということはリズは何色のドレスなんだい?」
「お姉さまのドレスはマリン・ビーナがすべてご用意するそうなのでお姉さま本人もわたくしも当日まで分からないのです」
なんでもヘアピンの売れ行きが想像以上らしくその売上金のささやかなお礼も込めてだそうだ。
「そうか。マリン・ビーナに聞けば少しは教えてもらえるだろう」
…
「殿下も誕生日パーティーにお越しくださるのでしょうか?」
「あぁ、そのつもりだよ。婚約者候補者として有力な公爵家の2人の姫君の誕生日を祝うことは大切だろう?」
不敵に微笑まれる殿下に普通のご令嬢なら頬を染めて喜ぶのだろうが、こちらはもはや絶句である。なんせ殿下の狙いはお姉さまただ一人。
私はついでというかメインではないからまだいいけど…。ああ本当にお可哀そうなお姉さま。
「7歳の日に姉ともども殿下に祝っていただけるなんて恐縮ですわ」
殿下は満足気に笑ってティーカップに口をつける。
本当に厄介な人間に目をつけられたものだ。
「私は姉さまにリボンセットをお渡しするつもりですの。お姉さまは刺繍がとてもお上手ですし以前からお姉さまが喜びそうだなと思っていましたので」
「なるほど。なら私はリボン以外の物にした方がいいだろうね。きっと被ってしまったらリズのことだから言い訳をつけて使わないような気もするし」
…否定できないわね。
あの姉のことだ。必要最低限でしか殿下からの贈り物は極力使わないようにするだろうし、実用性重視のところは無きにしも非ずだ。
「お姉さまはきっと殿下からいただける物でしたらなんでもお喜びになられるはずですよ」
“引き攣った笑みで”という部分は声には出さず、心の中だけに留めておく。
触らぬ神に祟りなしである。
「シルビアにそう言ってもらえると心強いよ」
殿下はまた胡散臭い笑みで笑われる。
やはりこれを崩せるのはお姉さましかいないようだ。
シルビアはリズと違ってこの会話中ずっと貴族子女のお手本のようなスマイルで乗り切ってます。




