生花の活用法
屋敷に戻ってすぐに侍女長と執事長に突撃をかまし、許可をもぎ取った私は洗濯担当の侍女たちがいるであろう休憩室へと足を運ぶ。
そういえば
「私初めてかも」
「何がですか?」
「侍女たちの休憩室に行くの」
ヴィオが呆れたように「普通は行きませんから」と言った気がするが、聞こえない聞こえない。
侍女たちの休憩室は本邸から少し離れており、調理室に近い空き部屋に備わっていた。
コンコン
「失礼します」
ノックをして部屋に入れば年頃の女性たちが楽し気に話に花を咲かせている。
キャッキャッと声を弾ませる彼女達の空間に私が入ることは気が引けるが仕方がない。だって、シルビアの為なんですもの。
「だから―って!お嬢様!?」
「え?!!」
「あ、すいません!!仕事して―」
「わあわあ!!いいんです!皆さんそのままで大丈夫ですから!!」
私を視界にとらえるや否やこの部屋から出て行こうとする侍女たちに待ったと制止をかける。今ここでいなくなられたらなんのためにここに来たのか分からなくなるもん!!
ピタリと動きを止めた侍女たちに座るように促し、侍女長たちの許可を得てここにきていることを伝える。
「その、皆さんに相談にのっていただきたくてここに来たので緊張しないでください」
「あ、そうなんですね。すいません。休憩中だったから抜き打ちのチェックかと思って」
「そういうのは侍女長たちの仕事ですから私は口出ししませんよ」
あははと笑っておく。
無論女当主であるおばあさまやお母さまはそうもいっていられないのだけど、私はただの貴族の娘でなんの権限もないからね。
「それで、ご相談っていうのは?」
「実はもうすぐシルビアと私の誕生日で、シルビアに私がデザインしたドレスを贈ろうと思うのですがあの子には寒色と暖色のどちらの花が似合うと思いますか?」
「シルビア様ですか?私は寒色かと」
「う~、私は暖色かな」
「私も」
「え~どっちも似合うけど強いていうなら寒色?」
「悩むわね」
「元がいいから何でも似合うもの。羨ましいわ」
「お肌のつやとかね。比べたら泣きたくなるわ」
「わかる!わかる!」
やっぱりどっちも捨てがたいな。
みんなの意見にうんうんと頷きながらやはり両方取り入れるべきなのかと考える。
「両方取り入れてはだめなんですか?」
「真っ白のドレスに刺繍でいれようと思っているので両方だと少し野暮ったく見える気がするんです。ベースは緑と黄色と決まっているのですがそれだけだともの足りなくて…」
ヴィオに目配せすれば談話室から持ってきていた2パターンの内の理想に近いものをみんなに見えるようにテーブルに置いてもらう。
「まぁ綺麗!これはどっちも捨てがたいわ」
「どっちも作ってみるとか?」
「でも誕生日プレゼントは一つの方が嬉しいわ」
「着るときに悩まなくて済むし」
「…これって、お嬢様失礼なんですが刺繍のみされるんですか?」
メガネをかけた栗毛の少女が質問してくる。
確か彼女は洗い場担当のモリスだったはず。
「はい。今は刺繍だけの予定ですが…」
「うーんと、刺繍だけだともったいないので刺繍と生花はどうですか?」
「生花??」
生花とは本物の花のことだろけど…それを使うの?
パーティーに使うことはめずらしくないけど基本は女性の髪の装飾、男性の胸元にハンカチーフの代わりとして使われる。
それをドレスに使用するのか?
「可能であればの話なんですが、大きな花ではなく小さな花であれば移動の邪魔にもなりませんし生花はその日だけの特別感も増します。もちろんプレゼントした側に理解してもらわないと手入れとかが面倒くさいんですけど」
「モリスはそういうのをやったことがあるんですか?」
モリスがほんの少し驚いた表情を私に向ける。
「うちは母方が床屋をしていて、たまに貴族のパーティー用の髪型を担当するんですがその際に髪に生花を使うんです。ただ、髪に使う生花は棘などがなく大きな花と決まっているんですが私個人としては大きな花より小さな花をたくさん使用する方が可愛いなって思いまして―」
「小さい花を用いるなら寒色と暖色だったらどっち?」
「どちらもご使用になれるかと」
「あー!ならリボンとかで刺繍を少なめにしてアレンジもいいかも」
「確かに!!最近できたログってお店のリボンが可愛いんですよ~」
「そのお店はどちらに?」
「白亜館の大通りを北に行って裏道一本のところにありますよ」
「確かセンク通りよね」
「そう、そう」
真っ白のドレスの裾部分は少し刺繍を少なめにして一部を生花で彩る。一方上はリボンに刺繍を刺してそれで彩ればいいかも。あとは裾部分の一部にレース生地を採用して…
うん。いい感じになりそうだわ!!
「そのお店に行ってみますわ!ちなみにおすすめのリボンとかありますか?」
「薄めの色だと他のリボンより幅が狭くて細いんですけど、その分色が映えるのでおすすめです」
「私は両サイドがフリフリになっているリボンがおすすめですね。ああいうのって小さい子なら使えるけど大人になると抵抗がある人は抵抗があるしね」
「そうね~、使いどころが難しいやつよね」
なるほど、やっぱりリボンでも思ってるイメージがこんなに違うのか。
そのあとも侍女たちにいろんな話を聞いた。
最近の流行やおすすめのお店。仕事の内容。騎士団のイメージ
公爵家の話。お誕生日パーティーの予定とか
ずいぶん話した頃に侍女長がやってきて、夕飯の時間が近いことを教えてもらいその場はお開きとなった。
「大変充実しているようで何よりです」
「うん!いろんな話を聞けて良かった。また、たまにああやって話を聞いてもいい?」
そう言って侍女長を見れば少し困ったように眉を下げる。
「今日のようにあらかじめ了承は得てくださいね」
「うん!あ、あとね“ノグマイン”って名前を貸してくれてありがとう」
「お嬢様のお役に立てたのならそれ以上はありません」
侍女長であるセリスト・ノグマインは慈愛のこもった笑みを向けてくれる。
彼女は10代のころから我が領地でずっと仕えてくれているそうなのだが、15年前に不慮の事故で娘を失くしている。その子の名前はルナ・ノグマイン
当時3歳だったそうだ。最愛の子供を失くして悲しみに暮れている彼女を追い詰めるかのようにその2年後に旦那にも先立たれた。そうして、彼女は寂しさを紛らわせるように仕事に没頭していた。
そこに私がやってきていきなり第二のお母さんになってほしいと頭を下げたのは懐かしい思い出である。
偽名を使うなら真実と嘘を混ぜている方がばれにくいこともあるとおじいさまに教えられて考えた結果の行動だった。ちなみに情報提供者は執事長である。
セリストの仕事をずっと見てきた執事長は彼女の寂しさを紛らわせる行為に限界を感じていたらしく、私に相談という名の情報提供をしてくれたのだ。
もちろん最初は渋られたが、何度もお願いしていれば彼女が折れてくれた。
それ以来彼女が休みの日には本当の親子のように一緒に買い物に行ったり、遊びに行ったりしている。
貴族では考えられない親子の在り方が平民の親子の在り方だということも学んだ。
「セリストさんのおかげで未だに気づかれてないもの」
「それはよろしゅうございました」
彼女は嬉しそうに笑う。
はじめて会った時には考えられなかった笑顔が今ここにあるというのなら私がノグマインを名乗る価値はあると思うんだ。
だからこれからも
「よろしくね!おかあさん!!」
なんだか気恥ずかしくなってヴィオの手を取って走り出す。
少ししてから後ろ手「走ってはだめですよ!!」って言われたけど足は止めずに返事を返す。
ヴィオはやれやれと言った風に苦笑いしていたけど、きっと私の気持ちを汲んでくれているから咎めはしない。
生花アレンジに着目してしまった…
ほんとにリズビアが年齢以上のこと出来すぎて作者は怖いです




