期待の象徴
GWがコロナで自粛ムードということで、GW特別3日連日更新です!
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
ガーナ公爵領地にある一番大きな町、ベル―チェには真新しい建物が存在する。
町の大半が木造建築である中その建物は白を基調として建設され、町の人々からは“白亜館”と親しまれるようになっていた。
その通称名:白亜館、正式名称をノグマイン商会総本部という。
町の人々には物珍しい白亜館は待ち合わせの目印等として活用されるとともに、商会の総本部として役割を担っている建物は3階建てで、1階は受付と談話室そして休憩所が併設されている。2階は会議室が5室と資料室、契約保管所、各部門部屋として17室が存在する。3階は室長室と幹部の仕事部屋、大会議室など8部屋が備わっている。
「…どうしてここまで大きくしたのか未だに謎だわ」
町の中にドンっと大きく目立つ建物を見上げながらため息を溢す。
「仕方がないのでは?なにせ公爵家が出資されていますから」
「公爵様はよほどリズビアお嬢様に期待されているのでしょうね」
隣に並ぶ2人、ヴィオとレットが楽しそうに口元を上げる。
あはは、期待されているのはいいんだけど規模がね。うん。
私ちゃんと説明したはずなんだけど?アローもファイシャもハンナもビンズもベイクもエリオットもみんな10代なんだよって
お父さまにしっかりとお伝えしていたはずなのになぜこの規模?
私達だけで管理するには大きすぎる建物なのだが…
「文句ばかりも言ってられないか」
これらすべてはリズビア・ガーナへのガーナ公爵家からの投資に過ぎない。
投資された側が投資してくれている側になにも返せていないのに文句を言うのは筋違いもいいところだ。
せめて、この建物を上手く使ってもらえるように。使えるようにしていかなくてはいけない。
すぅ~、はぁ~
「よし!行こうか」
深呼吸をして、気持ちを切り替える。
いざ、室長室へ!!
コンコン
ノックをして扉を開ければ少し背の伸びたアローとファイシャが目に移る。
「ただいま」
「お、やっと帰ってきたのか」
「おかえりさん。例のものは着々と準備できてるぜ」
「!さすが、仕事が早いね!!」
例のというのはおそらく先日ノグマイン商会宛てに出した手紙の内容だろう。
信頼をしている彼等だからこそ、早急に対応してくれると思って出したのは功をなしたようだ。
「あっちの方はどうだ?」
「王都では現在下級貴族側にもミルクジャムの話が行き届いたようで注文したいとの声が上がってきてはいます。が、ミルクジャムに変わるジャムとして紅茶を使用したものなどが開発されているようで貴族はそちらに移ろいでいるようにも思いますね」
ヴィオがアローの質問に答える。
そう。ミルクジャムは初めて販売されるようになってからもう半年が経とうとしている。
貴族向けにはそこそこの目標を叩き出せている一方未だにメインターゲット層である平民にはあまり普及していないという問題もある。
「貴族受けは上々だったがやはり二番煎じは出てくるだろうな」
「王都の平民はどんな感じ?」
「王都では今までのジャムとの差異があまり魅力に感じてもらえないのか基本ベースのものが売り上げもいいわ」
「平民相手だと戦略を変えなくてはいけないけど…うまい活用具合が思いつかなくて」
ファイシャが備え付けの黒板に問題点を書き出していく。
・貴族受けの目標達成
・二番煎じ、紅茶を使用 どこの商会発祥か?
・平民への購買意欲 商品紹介
「こっちはどんな感じ?」
「領地内は公爵様が出資しているってのを聞いて購入してくれる人もいれば、ミルクジャムを活用したクッキーやパンを購入した人がファンになってくれてるから売り上げも上々」
アローが顧客情報などを数値化したのであろう紙を私に手渡す。
売り上げグラフも右肩上がりで、顧客数も伸びている。それに―
「コングラッツ伯爵領とヌベレット子爵領でも売れているのね」
これは予想していなかった結果だ。
「どちらも領主さま直々に領民へアピールしてくださってるみたいでさ、取引なんかに行った時も感想とかすごい貰えるんだよね」
ファイシャが教えてくれた話によると取引先に差し入れの形で提供したのが知れ渡ったきっかけだったのだとか。それから主婦層に話が伝わって購買意欲が上がり、売買商品一覧にミルクジャムが載るようになったのだとか
「すごいね!」
「平民相手ならやっぱり商人に近い相手を落すのが簡単だよな」
「言うは易し、やるのは難しだよ」
「そんなことは分かってんだよ。でも、やらなきゃやられっぱになるだろ?」
書類をアローに手渡しながら二人の会話を見守る。
今はなにも思いつかないから私が口出しすることはできないしね。
「あれ~?リビアとヴィオとレットが返ってきてるじゃん」
「あ、ほんとだ」
「リビア、これ言われていたやつ」
扉の方から声がして振り返れば、少し痩せた?ビンズと数枚の報告書を手にしたベイク、そして髪をおろしているハンナが入室してくる。
「久しぶりだね。元気そうで何よりだよ」
んっと差し出された書類の束を受け取って、ハンナにお礼を伝える。
書類をペラペラ捲ればハンナの手書きで花や植物のイラストと性能、特徴を詳細に綴られている。
この中からシルビアに似合いそうな花をピックアップしてデザインに書き起こしていかなくては
「報告は済んだ感じ?」
「ああ、今しがたざっくりとしたのは終わったぞ。黒板に書きだしたのが次の課題だな」
「りょうか~い。あ、そうだ僕リビアに話があってさ」
ビンズから私に話ってなんだ?珍しいことだわ
「何?」
「リビアさ、お嬢様経由でグランビア公爵家の話って聞いたことない?」
「グランビア?」
グランビア、グランビア…四代公爵家の一つとしか情報はないけど
「知らない?」
「お嬢さま経由では知らない。私が知ってるのは四代公爵家の一つで、この間の公爵家主催のお茶会に参席していなかったっていうことかな」
「そっか~」
ビンズは髪をワシャワシャとかき上げて脱力する。
一体なんだというのか?
「ああ、例の噂のやつか」
「例の噂?」
アローに提出書類を差し出すために隣に来ていたベイクを見上げて聞き返す。
ベイクは一つ頷いて口を開く。
「なんでもグランビア公爵家には重大な秘密があるんだとか」
「重大な秘密…それはまたどんな感じの?」
「それは誰も知らないんだって」
…それではどうしようもないじゃないか。
せめてもう少し詳細な噂にしなよ。
「グランビア公爵領はガーナ公爵領と真向いに位置するせいでなかなか取引とかもないしね」
「情報が届きにくい場所でもあるってわけ」
確かに遠い地域のしかも交流がない地域であれば噂が回ってくる前にどこかで噂が消えていることの方が考えられる。
または、時間差での噂。半年以上前の噂が半年後に遠方の地域で噂となり醜聞のみが伝わるなんてあるあるである。
しかし、そんな噂をなぜビンズが気にしているのか。
確かにビンズは『甘木屋』の息子で一番噂から情報収集をしやすい立ち位置にあるけど、これってそこまで気にすることだろうか?
首を傾げている私にビンズが言いにくそうに何度か口を開けては閉ざしを繰り返し溜息交じりに口を開く。
「その噂を流した相手が2日前に変死した」
「は?」
なんだそれ。変死って
「…それはなんというか」
レットが口を噤む。
「知り合いだったんですか?」
ヴィオの言葉にビンズは首を振る。
「知り合いじゃない。ただ、その人はグランビア公爵領から来てた人で酒場での話ではもうすぐ大金が入るとかなんだとか言っていたんだ。酔っていた勢いもあるのかもだけどそんなこという人間が変死っておかしいじゃん」
確かにおかしい。大金が入ってもみ合いの挙句って可能性はありえなくはないけど…
それにしては期間がいかんせん短すぎる。
短期間で大金が入るなら大金が入ってから言いふらすものでないだろうか?
引っかかるところは確かにある。
でも―
「それだけじゃないんでしょう?」
ビンズが肩を跳ねさせる。それはyesということだ
「話して。全部」
期待が大きいっていうのはリズビアからしたら嬉しいような、恥ずかしいような…
それでも悪い方向ではないはず。




