仕事はたいへん
今回はファイシャ目線
「だーっくそ」
書類が積み重なった机に向かってアローが悪態をつく。
「まあ、落ち着きなよ」
ファイシャはいつも口達者で大人たちをも圧倒する頭脳を持ちうる友人がそんな大人に言い任されるのをさも愉快そうに口角を上げる。
ビンズはアローの八つ当たりが来ないようにとエリオットの近くに避難する。
「落ち着けるかっての!あのじじい俺の案の穴をボコすかつきやがって」
アローが机に投げ出した書類のいくつかを手に取り目を通せば赤文字で修正が何か所も加えられている。
「でも、ナツさんが来てから商会の運営も幾分か楽になっただろう?」
ナツさんというのは、御年60歳の公爵家に仕えていて会計などを担当していた人だ。定年で退職していたのをリズビア様の命によってこのノグマイン商会の補佐官に就いている。
ノグマイン商会はまだ立ち上がったばかり。しかも主要メンバーはまだ10代
故に他の商会から舐められることも多々ある。
そこはリズビア・ガーナ様の出資先という後ろ盾を得てはいるものそれはいつまで続くものかは誰にも予想できない。
一刻も早く俺達だけで運営して雇用できるようにもしなくてはいけないが、そこまでたどり着くには早くても2年。
この2年でいかに内部の基盤を強化するか。効率のいい運営をするか
「楽にはなった。でも、だーくそ。自由が利かねえことも増えたんだからしゃーねーよ」
アローの言葉はもっともだが、それは我慢しなくてはいけないことだ。
本人も分かってはいるが、言わなきゃやってられないのだ。
気持ちはわかる。
自分たちの想像よりも商会の運営は金銭面、雇用面、取引面、契約面、体力面などいろいろな方向で厳しいものがあった。
それらは、今は公爵家からの出資の一部で派遣された元公爵家仕えの大人の手によって補われている。しかも、雇用に関してもリズビア様が足を運んでいる孤児院の人間の就職斡旋という取り組みによって賄われている。
もちろん孤児院から来た人間の中には俺達よりも年齢が上のやつなんてごまんといる。
そいつらを統率する側は舐められてはいけない。
「仕事するって自由はきかねえし、問題は山積みだな」
「ああ」
「でも、やめるなんてできないだろう?」
アローは何も言わない。
それでも、俺達は知っている。アローが紹介を立ち上げることにどれだけ夢見て実現するために努力してきたか。俺達を仲間に引き入れるのに苦労してきたか知っている。
だからこそここで投げ出すなんて絶対しないことも分かっている
「そんなお疲れ様なアローにお届け物」
胸元に持っていた便箋をアローに向かって指す出す。
「あ?」
「リビアからの定期便だね」
「なんでファイシャが持ってんの?」
「君らが出払ってるときに俺が受け取ったから…かな?」
「あっそ」
手紙を受け取ってビリビリと封を開ける。
リビア・ノグマイン
金色よりの茶髪に帽子を被っている小柄な女の子。リズビア・ガーナの話相手役を担ている少女らしくエリオットとも仲がいい。
洞察力はアロー達を驚かせるほどに優れている。
そんなリビアのお目付け役のような存在がヴィオとレット。
ヴィオとレットは孤児で公爵家にお嬢様の気まぐれで拾われたらしく、リビアは公爵家に仕えているメイドの娘。
現在はリズビア様のお付きもかねて1ヵ月の半分は王都へ行っている。
ただそれだけしか情報がない。
まだヴィオやレットは孤児院だから話は分かる。
孤児院の情報は大体2~3年は闇の中だ。2~3年のうちに出て行ったり引き取られたりするため孤児院での正確な情報は大体3年以上いるやつのものしか掴めにくい。
一方リビアは使用人の子供。親元もはっきりしているのにこれだけの情報しかない。
…本当に信用していいのかはまだ俺個人としては悩みどころである。
「ビンズ」
「え、なに?」
「ミルククッキーの生産ルート明確にしとけ」
「え?」
「エリオットとハンナはあいつに植物とくに女性受けしやすそうなものの資料を用意してやれ。ついでにハンナは傷薬の原料となる薬草の在庫も」
「了解」
「紙にまとめたらいい感じ?」
「そうだな」
「ベイクとファイシャはヌベレット子爵領とコングラッツ伯爵領との取引量を再度見直し、ヌベレット子爵領に使い物にならないガラスがないか調べてくれ」
「じゃあ俺がヌベレット子爵領にあたろう」
ベイクに話せば笑って了承する。
ハンナ、ベイク、エリオットが退出後、アローが持つ手紙にビンズが視線を投げる。
「なんて書いてたの?」
「リズビア様が茶会でミルククッキーを出したんだとよ」
おやおや
「結果今市場に流れてるものよりしっとりしていて甘さ控えめ。ミルクの味わいは損なわれない為男性向けでも可。貴族ターゲットでも問題はないが当分は公爵家が積極的に出していくことが必須だとさ」
「ターゲットの明確化によって販売ルートの見直しが必要か」
仕事が早いのはいいことだ。
「エリオットたちのはなに?」
「なんでもお嬢様の刺繍デザインに生花が欲しいらしい。その辺はあいつらが適任」
「なるほど。ミルククッキーの流れからミルクジャムの生産ルートと今後の生産量の算出でコングラッツ伯爵領は分かるんだけど、ヌベレット子爵領はなんで?しかもガラス瓶じゃないただのごみを輸入って」
ビンズの表情は訳が分からないといったものだった。
確かにゴミともなるものを輸入してもこちらに利が見込めない。
なのになぜ?
「リビア曰くお嬢様が今現在髪留め?に注力してるらしく、貴族用は宝石使えばいいけど市民に流通するためにはガラスの方が安価だからだってさ。ついでにキラキラしてる重さはそこまでなく加工の出来る石も探してるんだとよ」
「注文多くない?」
「まぁ、それがノグマイン商会発祥となれば利は見込めるだろう」
「なるほど。じゃあガラス細工とかの加工できる人間も何人か調べてみるよ」
「ああ頼んだ」
ぐっと背伸びをして部屋を退出しようと扉に向かう。
ああ、そういえば。
「アローはなにするんだい?」
振り返って投げかければアローがそれはそれはいい笑みを浮かべ、右手に持っていた便箋をぐしゃりと握り潰す。
「ははは、じじいと再戦だわ」
なんて短い束の間の休息だろうか。
「お疲れ様」
カラカラと笑ってやり、ひらひらと手を振って部屋を後にする。
さて、今度はアローが勝って帰ってくるだろうか?
ちょっとリズビアたちの年齢をミスっていたので修正が入ります。
現段階でリズビアは6歳です。
次回からはお誕生日パーティー偏になります。




