反撃
「噂が出回っても私に損はないですし」
「は?」
「え…」
ド低音が聞こえる。デジャブ感やばいな、おい。
「すみません。リズビア、あまりのことに少し感情が漏れてしまったみたいです」
なんてないことのように言ってるけど、怒ってますよね?
なんで怒ってるの?浮気云々は解けたじゃん。
カツカツと距離を詰めた殿下に手を取られ、何がなんだか分からないまま引っ張られる。
⁈??!!?
みんなを置いてズンズン進んだ先には庭園の中心部にある休憩スペース
「殿下?」
歩みを止めた殿下に声をかけるが反応が返ってこない。
え、恐怖。
「いやいや参ったよ。リズビアの意志の固さを舐めていたようだ」
衝撃の事実が発覚。どうやら私の意志は舐められていたらしい…。あと急に素を出すのやめてほしいなぁ
心臓止まりかねないから
「見誤っていた俺が悪いな。すまなかったよ」
いいですよ、別に。私は絶対折れないので
「だから―」
前髪をかき上げ、ワッルイ笑みを浮かべた殿下がこちらに向き直る。
「で―」
「俺も本気で対応するな。リズビア・ガーナ」
「は」
ちゅっ
そんな音がいつの間にか殿下の手に取られた髪の一束から聞こえた。
掬い取られた髪の毛を愛おしそうに眺めながら、その先にいる私を見つめる。
なっ!
「なにを―」
『キャァアァァァァァァアアア!!!!!』
やってるんですか―という私の言葉は第三者の多数の色めきだった声でかき消される。
ビックリして肩が跳ねたのは仕方がないよね。不可抗力
声のする方に向き直ろうとすれば殿下が私をその腕の中に抱き留める。
「ちょっ、何なさるんですか!」
殿下の腕を押しやるが全然びくともしない。なんで?まだ6歳でしょう
「ははは、言ったろう?本気で対応すると」
楽し気な声が聞こえる。
腹立つな、この人。そんなに楽しい?私が困るのが楽しいですか?
いいよ絶対に王太子妃なんてならないから!!
「次は2週間後に会おう」
何言って―
「その時はちゃんと君がここで何をしていたか知るために俺もついていくから」
少し腕の力が緩み、その隙に殿下との距離をとる。
その顔はどこまでも
「今回はここまでのようだ。またね、リズビア」
優し気で
殿下はいつの間にか追いついていた従者たちを引き連れて去っていく。
どうして
殿下が去った庭園の休憩スペースはほどなくして若いメイドたちがやってきて騒がしくなる。
おそらくさっきの第三者はおそらく彼女達なんだろうけど、今はそれどころではない。
あんな
思い起こされるのはほんの数分前まで向き合っていた相手。
金色の髪が風に靡き、その表情は儚さと美しさを演出していて…
「好きでもないくせに」
どうしてそんな表情が出来るのですか
それは夢と今のリズビアの感情だったのか。分からないけれど
未来のリズビアを殺すかもしれないのに
そんな表情はずるいでしょう
メイドたちはなにかを私に言っているが声にならない音は聞こえない。ああ、どうして
瞼が熱い。
嫌がらせならここまでしないでほしい。放っておいてほしい
こんな気持ち知りたくもない。知らない。私は幸せに生きたいだけなのに…
ズキリ
胸が締め付けられるように痛い。視線はずっと地面にくぎ付けで、気が付けば地面に水滴が降って色を変える。
痛い
音が遠ざかり、息苦しさが勝る。頭がガンガンするし、胸はずっと苦しい。
地面…というより足元がぐらぐらしている。
あ、これはちょっとダメな気がするー
何気にシルビアは身体弱いの周知の事実だけど、リズビアもあの日以降よく熱出したり倒れてるよねって今更気づいた。




