本音の先
「な、」
空いた口がふさがらないとはこういう状況を言うんじゃないだろうか。
だって―
「おかえり、リズ。待ちくたびれてしまったよ」
ニッコリと爽やか風な笑顔を貼り付けて私を見るその人は目が全然笑ってない。
そもそもここに居るはずないじゃないか。
え、キリキリキリ胃が痛いんですけど
「おかえり、リズビア」
「た、だいま、、帰りました。おじいさま」
恐怖に駆られながらもおじいさまに視線を移す。
ひっ、めっちゃ視線が突き刺さる。
おじいさまは疲れた表情でフルフルと横に顔を振られる。
あの人が夢でなく、これが現実であり、おじいさまも苦労したのが伺える。
「ふむ、リズは僕には何も返してくれないんだね」
ツカツカと距離を詰められ、腕をガッと掴まれる。
「でででで殿下、ただいま戻りました。おおお待たせしてしまったみたいでもうしわけありません」
「やっと返事したね。いいよ。君が無事なら」
するっと伸びた手が耳から落ちたであろう髪をすくって、耳のかけなおしてくれる。
きっとこれが何にも事情を知らない人が見たらなんてロマンチックなとか思うんだろうけど、当事者は死にそうです!!
え、今日命日かな??????
「ハゼック殿、リズと中でゆっくり話したいんだがいいだろうか?」
悪魔がなんか言ってる⁈
「で、ンか、今はまだ昼過ぎですが早めに戻らないときっと陛下たちが―」
「心配はいらないよ。陛下たちの了承を得てここに泊りで来てるから」
「は?」
了承を得て泊りでって言った???
何考えてんの?貴方一国の王子だよね?そんな軽率に外泊ダメじゃない???
「ちなみにお宿は?」
「え?王族が遠方に留まるときはその領地の領主邸に泊まるだろう」
何を言ってるんだみたいな表情しないでくださいよ。
こっちが何言ってんだこいつって思ってますから。
聞いてない聞いてない。殿下がいるなら私は公爵邸に帰りたい!!
「僕はいろいろ聞きたいんだ。リズに」
「ひゅッッ」
悪魔は笑う。何気に掴まれた腕は強制的に絡まされ、手に至っては握られている。
「僕に内緒で領地にきていったい何をしていたのかなって」
拝啓、アローたちへ
明日私は死んでる気がします。
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あの後、殿下に引きずられるようにして辿り着いたのは庭園の見える一室。
いつもなら心慰めてもらっている庭園も今では慰めてもらえる余裕すらない。
原因は今目の前に座って優雅にお茶を飲んでいる人です。はい
「で、リズ」
「はい、、、、何でしょうか」
「僕に黙ってなぜ領地へ?」
「おじいさまから領地祭でせっかく領地について学んだからより学んでみてはどうだろうかとお誘いいただきまして」
「ふ~ん。君は将来領地の経営に関わることはないのに領地について学ぶんだ」
確かに貴族子女が領地経営に関わることは、私の様に上に兄妹がいる人間ではまずあり得ないことだ。かといって関わらないとは言い切れないのではないだろうか
領地について知ってより領民の生活を豊かにしたい。そう思うことは決して間違っていないはずだ。
殿下に反論しようと口を開こうとすれば、冷めた目線でそれを阻止される。
「領地について学んでもいいだろうとか言いたいの?それは知的探求心が高いと捉えられるけどさ、君は将来領地なんて小さな範囲でなくもっと大きな範囲を見据えるだろう?」
「…」
「まさか、まだあんなこと思ってるのか?」
殿下が素を見せる。それに怯んでしまうが、ちゃんと言わなくてはいけない。
何度だって伝えないとこのままじゃあの時みたいに―
「私は、王太子妃になりたくありません。どんなに最有力候補と言われようとも私はその場に相応しいとは思わない。やる気のないものよりもやる気のあるものが国母を務めることこそが国の為です」
「…」
「私が領地について学ぶのは平民について知りたいからです。国を支えるのは貴族だけではない。人口比率を鑑みても国を成り立たせているのは平民である彼等なんです。そんな彼らが少しでも過ごしやすいと思う場所の提供こそが貴族のありようだと私は思うからこそ無駄かもしれないけれど領地について学んでいるのです!!」
これは誰かに否定されたくない。
だって、私だって本気でやっているのだ。
おじいさまの助力を得るために、みんなの力になれるように、少しでも領民に幸せになってもらえるように
否定されたくないんだ。
「殿下にはただの子供の世迷いごとと思われるかもしれませんが、私は―」
「もう黙れ」
気が付けばサラサラとした金髪が、光を集めた金色の瞳が目と鼻の先で止まっていた。
口元には殿下の手によって蓋をされており、じんわりと体温が伝わる。
「お前、さっきからずっと殿下呼びしているぞ?約束忘れたのか、ああ?」
どうしていきなり低音で来るの!!泣いちゃいますよ!
怒りのこもった低音に恐れをなしているので素直に殿下の名前を呼ぶ。
名前を呼べば殿下は浮かしていた腰をソファーに下ろし、何事もなかったかのように優雅にティーカップに口付ける。
「で、ウィル…、私は絶対に諦めませんから」
「好きにすればいい。ただし、こちらもそれ相応の対応をとる」
それ相応の対応とは何でしょうか???
「でん、ウィルはどうしてそこまでこだわるのですか?私以外にもご令嬢はごまんといるでしょう」
「いるな」
「自国外の王族にも年の近しい者なら多くいると記憶しているのですが」
「確かにいるな。候補者・非候補者含め年齢が5歳差で考慮するなら自国内では37名が該当し、自国外であれば29名が該当するな」
こっわ。え、それを記憶している殿下が怖い
絶対どこの令嬢かとかその令嬢周辺の噂とか知っているんだろうな。
よく今までこの人に一時でも恋心(?)抱けてたな私。ある意味凄いよ
「であれば、私でなくとも」
「計66名中俺のことを知っているのはリズビアだけだ」
「それはウィルが開示したからであって私が望んでなんて―」
「俺が俺を見せてもいいと思ったのはお前だけだ」
「…ウィルはその66名全員に会ったことは?」
「あるわけなだろう。俺は忙しいんだぞ?」
忙しいならわざわざ来るなよ。公爵領に
この時間を他のご令嬢に会う機会とかに費やせばよくない?それが一番いいと思うんだけどな
「誰しもがリズビアのように椅子を望まないわけじゃない。むしろ逆だ。だからこそ下手に会って期待させるなんてできないだろう」
「…シルビアでもいいではありませんか」
「確かにシルビアは身体のことがあって本人が消極的であるが、リズビア程の拒否はしてない」
シルビアは身体が弱い。この一点において相応しくないなどと噂する貴族がいることは知っている。この一点がなければ私が最有力候補と言われることもなかったのだが…
こればっかりは誰も責められない。
なりたくてなったものではないのだから。
「それでも私はなりませんよ」
「それはリズビアが決めることじゃない。国が、王が、国民が決めるんだ」
「足掻きますから。絶対に」
「楽しみにしているよ、最有力婚約者殿」
ニッコリと笑ってくる悪魔に腹が立ったのでこちらもニッコリと笑い返しておく。
絶対に諦めないからな!!
「ところで、領地で何をしてるんだ?」
「領民の生活を学んでます」
「平民の生活を学んでどうする?不安定な個所の見直し等しているのか」
「それもありますが、領民の不満となりうる課題点を洗い出し、早期対処並びにいつでも平民として暮らしていけるように今の内から知識を入れておこうかなって」
「なぜ、平民として暮らす話が出てくるんだ…」
「もしもに備えることは大切ですよ?ウィル」
いつ勘当されても死ななければ何とかなるのだ。
そのための商会、伝手、友達なのだから
あの夢みたいに何もかも失って死んでいくなんて私はごめんだ。
例え爵位を剥奪されても、みすぼらしい服を着て自ら働くことになっても生きていればいいのだから
やっと出てきた悪魔!!
凄いですよね~記憶力と外堀埋める速さが…
これだから腹黒って怖い




