商会
「こんにちは!」
「おやおや、リビアちゃん久しぶりね。あの子らはいつもの部屋にいるよ」
セスおば様のに教えていただいたいつもの部屋へ向かう。
「たっだいま~!!」
木製の扉を力のままに開け放つ。
最初に目についた人物にめがけて手を広げ飛び込む。花の香りがしてやっと帰ってきたんだなとたった2日だったけど思わずにはいられない。
「リビア…どうかしたの?」
優しくてあったかい手が頭を撫でる。
気持ちがよくってもっと撫でてほしいとすり寄れば後ろから呆れた様なため息が2つ聞こえる。
「ネコかよ」
「私は猫じゃないもん!」
「アローもリビアも第一声が違うだろう」
困ったように言いながらもずっと撫でてくれる、優しいエリオット。少しはアローも見習えばいいのだ
「お前絶対今失礼なこと考えただろう」
ぷイッとアローの話を聞かなかったことにする。
きっと怒ったであろうアローをレットが「まあ、まあ」となだめているのが聞こえるが知ったことではない。せっかく帰ってきたのだ。
アローが欲しがっていた手土産を前倒しでもらって帰ってきたのだ。褒めてほしいぐらいだ。
「それで、リビアはあっちに帰ってどうだった?」
「ん~と、久しぶりすぎて違和感がすごかった」
「領地に慣れてきたから王都が違和感だったのかもね」
それもあるけど、一番は―
「みんなに会えなくて寂しかったからかな」
「―ッ!」
「?エリオッ―」
「そこまでです」
エリオットの顔を見上げようとしたら、なぜか後ろからヴィオに目隠しされてするりとエリオットの腕の中から解放される。
ヴィオの手を除けてからエリオットの顔を見れば若干赤くなっている気がする。
熱かな?いやでも抱き着いた時はそんなことなかったけど…?
「うわーあれが天然ってこっわ」
「ハンナ言ってやるなよ。エリオットが可哀そうだろう」
「ベイクもハンナも聞こえてるからな!」
あ、熱じゃないみたい。ハンナ達にあれだけ大声出せるなら心配はいらないだろう。
そういえばまだビンズを見ていない。
おば様はみんなここに居るっておっしゃっていたのに、どこ行ったんだろう?
「ビンズは?」
「ビンズならちょっとお使いを頼んでね。ああ、噂をすれば。―おかえり、ビンズ」
扉の方には目をまん丸にしたビンズともう1人男の子が立っていた。
真っ赤な髪の毛。アローと似ているような似てないような雰囲気。薄い黄色の瞳と視線が絡む。
「ああああああああ!リビア帰ってんじゃん!!」
ビクッ!!
心臓が出たかと思った。え、ビックリした。
いきなり大声出すなよ(人のこと言えないけど)という意味でビンズにジト目を送る。
しかし、ビンズはいつもならそれで気まずそうに顔を背けるのに今日はずんずんこちらに歩いてくる。そのせいでこっちが怯んでしまうじゃないか。
ガシッと私の両肩に両手を乗せ…いや、掴んだビンズはヴィオの鋭い睨みなんて見えていないのか(いつもなら怯えてるくせに)若干頬を蒸気させて例の男の子の方へ私を突き出す。
「ファイシャ!これがさっき話してたアローを認めさせたエリオットのお気に入りでハンナもベイクも頷かせた子だよ!!」
「「「おいっ!!ビンズ」」」
アロー、エリオット、ハンナがビンズに向けて声を荒げるがビンズは楽しそうに流す。
「へ~。このちっちゃいのが噂の‥‥‥ね。まぁ、アローもハンナもエリオットも照れんなって」
「「「照れてない!!」」」
3人の息がぴったりの返しに少年はカラカラと笑う。
まるでお日様のような人だと思った。
「ファイシャ、笑うのはいいけど自己紹介しなよ。リビアが固まってる」
「あ?あぁ、すまん。俺はファイシャっていう。アローとは幼馴染な、よろしくおちび」
「リビア・ノグマインって言います。よろしくお願いします、ファイシャ」
ファイシャはニカッと笑って頷く。
そこにアローが腕を伸ばしてもみくちゃにし、ハンナがポカポカと腹部を殴って―じゃれている。
仲がいいんだな。
チクリッ
?? 不意に胸に鈍い痛みが走った気がした。
何だろう。さっきの
「リビア、そろそろアローにお土産を伝えては?」
レットに名を呼ばれ最初の目的を思い出す。そうそう、今日はお土産渡すためだけに寄ったのだ。
「そうそう、アローに言われていた例の件だけど」
みんながその言葉で真剣みの帯びた瞳に変わる。
「お嬢様から公爵様に説明されて許可をもらったそうよ」
「「「っしゃあ!!!」」」
アローが握っていた書類が、ハンナが持っていた薬草が宙に舞いビンズを含め3人が手を挙げて喜ぶ。ああ、書類いいいい!皺になるうぅ!!
私の心の声が漏れていたのか、レットとヴィオが素早く書類と薬草を床につく前に回収する。
さすが優秀なメイドと従者!!ありがとう。大好き
「よかったね。無事にことが進んで」
「うん。お嬢様のおかげだね」
ベイクがそっと頭を撫でてくれた。エリオットより少し大きな手。安心する。
「あー、ごめん。俺なにがなんだか分かってないんだけど」
ファイシャが頭をガシガシとしながら困った笑みを浮かべる。
「リビアはガーナ公爵家のお嬢様と知り合いなのよ!」
「今回の話はほとんどリビアを通したお嬢様の提案なわけ」
「そこでだ、商会頭たちも認めさせたんならいっそのこと商会作ってしまえってなってさ」
「「「お嬢様にお願いしてたんだよ」」」
「お前らの熱量がやべぇよ」
ファイシャがアローたちの興奮に引いている中、レットとヴィオによって書類と薬草は無事に机の上に綺麗に並べられている。
よかった。無駄に書類整理が増えなくて心底よかった。
「なるほど。つまり、お嬢様が持つ商会を作っていいって公爵様が許可だししたと」
肯定の頷きを返す。
「で、その商会の名前は?」
「お嬢様の名前を入れようかって話も出たんだけど、それは本人の意思で却下されてね。だから、―――商会はどうかなって」
「いいと思うぜ。お嬢様の名前を使わないことは逆になじみやすさを出しやすと思うからな」
アローが楽し気に笑う。
「ならそれで決まりね」
ハンナの生き生きした表情にビンズも乗っかる。
「場所はここを拠点かい?」
ベイクの問いに当分の間はここを拠点にすることを説明する。
「え、それって俺ら雇ってもらえんの?」
「むしろみんなじゃなきゃやらせないって」
ファイシャの質問に素で答えてしまったが、まあ大丈夫だろう。
「へ~面白そうじゃん」
なんやかんや乗り気になってくれたらしいファイシャも含めたこのメンバーが幹部になることはきっと変わらないだろう。
ただ、まだ私達は半分以上が子供。平民では12~14で働き口を探すらしく、それを満たしているのはアローとファイシャのみ。実際に働くのは14歳からだ。
それまでの間、子供だけでは信用面が不安定である為お父さまに話を通した際にいくつか条件をもらっている。それはおいおい伝えればいいかな?
「リビア、そろそろ」
「あ、じゃあ今日はここで帰るね」
「は?お前仕事溜まってんだけど」
「明日からやります!!」
「ったく、しゃーねーから今日は帰っていいぞ」
「うん!」
アローに渋々了承をもらったが、その口元がいつもより緩んでいたことは見逃さなかった。
なんだかんだ言ってアローが一番喜んでくれたのが分かったから、今日来た甲斐があったものだ。
甘木屋を出て、10分程歩いたところにひっそり止まっていた馬車に乗り込む。
緩く編み込んでいた髪を解き、服装を質素なワンピースが目立たないように羽織に袖を通す。
「それじゃあ、帰ろうか。領地邸へ」
その一言で馬車はゆっくりと動き出す。
やっと出てきたファイシャ!
これで商会メンバーは全員揃いましたよ~




