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幸せに生きていたいので  作者: 結汝
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ふくれっ面のご令嬢

真っ青な青空の下、涼やかな風が吹き通る中私達は業者のせっせと働く姿をただただ見ているだけ。

広げられたパラソルの下に真っ白なテーブルとその対である椅子が3脚。

テーブル上に広がったティータイム用の一口大のお菓子とイチゴ柄の入ったティーカップ。

遠くからは業者たちの野太い声が聞こえる。業者の中には見知った顔もちらほらいて…

あぁ、あそこにはレットとアローがいてその近くにはルーリット商会の皆さんがいらっしゃる。


「リズビア様、お茶菓子はお気に召しませんでしたか?」


真正面に座る貴婦人が心配そうに声をかけてくれる。


「いいえ、とても気に入りましたわ。大変美味しくて持って帰りたいぐらいですもの(これは本心)」

「まあまあ!嬉しいですわ。公爵令嬢にそのようにおっしゃっていただけますだなんて」


美味しいものはおいしいと言いますよ、私

だって、お持ち帰り強請ったらお土産いれてくれるんだもの。

ヴィオが後ろから2回わざと咳をする。帰ったら小言を言われるらしい。

しかし、私はなぜこんな優雅にしているんだろうかと考える。本来、当初の予定であれば私も現場でいろいろ見ていたはず‥‥‥だった。

念の為、わざわざおじいさまとおばあさまに許可をとっていたというのにいざ私が現場に入ろうとすれば周りの大人たちは必至で止めに来るではないか。解せない。

許可はいただいているというのにやれ危ないだ、やれお嬢様にお見せできるものでは等いう始末。危ないはまだ分かる。現場は子供が遊んじゃいけないから邪魔にならないように見学する手はずだったのに。

一方のお見せ出来ないってなんだよとは思わざるおえない。

だって、みんな誇りをもって働いてるというのにお見せできないって誇りはないんですか⁈って怒鳴らなかった私を誰か褒めてほしいものだ。

溜息を一つ吐きながら、働く男たちへと視線を向ける。








ことの発端は、会頭たちとの交渉の日まで遡る。


「では、最後の問題点であるコングラッツ伯爵領からの輸入品の価格ですがいかがなされるおつもりですか?」


会頭たちから言われた最後の問題点。

これについては、本当は最初から対応策を資料に付随することも可能だった。けれどそれをしなかったのには理由がある。


「それについてなんですが―、コングラッツ伯爵領には我が領地と違ってまだ下水設備が浸透しておりません。領主宅でもいまだ下水設備が整っていない状況にあります」

「下水設備…ですか」

「はい。こちらの資料をご覧ください」


レットが私の言葉に従って新たな資料を会頭たちに配る。


「これは」

「こちらは我が領が下水設備を行ってからの感染症などの感染率を他領と比較したものです。比較対象のところは全て下水設備が全く施されていないところになります。次のページに記載しているものは、我が領地と先ページの他領地との就職率ならび継続年数の比較一覧になります」


この一覧はおじいさまにお願いして資料をすべて見直しながら私が新たに作り直したものだ。もちろんおじいさまの監修のもと作成している。

表にしているためその差は明らかでどちらにおいても我が領の方が高い水準を誇っている。

一般的には下水設備と感染症が関係するのは注目されても、就業率との関連性を見るものは少ない。

つまりこれを印象的に会頭たちに伝え、今後も私がこういった場で発言しやすくするためにわざわざこの資料だけあらかじめ配布しなかったのだ。


「どちらもガーナ公爵領の方が高い水準ですね」

「この関連性は考えても見なかったですな」

「しかし、ガーナ公爵領と他領では元の人口や豊かさの差がありますから一概に下水設備が整ったからとは言えないのでは?」

「それに関しては次のページに平均比較を算出しております。イッタ商会頭様の言う通りに元の領民数などの差がありますので、平均算出の下での比較もしております。平均下においても感染症並びに就業者数の比較はガーナ家領の方が高い結果となりました」

「なるほど」


会頭たちが感心したように頷き、各々が資料を吟味する。


「お嬢さんがこれをお作りに?」

「はい。私は公爵家のメイドの娘ですの。こちらの資料はお嬢様とともに大領主さまの監修のもと作成し、お預かりいたしました」

「ハゼック様が見ておられた中で作成しているのならデータに間違いはないだろう」


さすが泣く子も黙らせるおじいさま。おじいさまのお名前1つでたかが小娘の作ったものという事実が箔のあるものへと変化する。

素晴らしいことだ。

おじいさまがそれだけ領民に信頼されている証である。


「このデータを基にコングラッツ伯爵領に下水設備の重要性を訴え、破格で我が領から職人を手配し設備すると申しかけます」

「破格でですか⁈」

「それはこちら側の不利益が大きいのではないか」

「いいえ、この破格という意味はなにも半額費用で行うなど申しているわけではありません」


本当はそうしたかったのだが、アローに相談したら「馬鹿か?」と言われた。

だって安い方が食いつきがいいかなって思ったんだもの。


「ここでいう破格は元の設備費の5分の1を引いたものになります。もちろん5分の1収入が減れば作業を行う者にとっては不利益になります。しかしその5分の1は公爵家で負担いたします。これはリズビアお嬢様からの提案です」


会頭たちの顔つきが変わる。

驚きと期待、それから疑いの色。


「今回のお話はお嬢様の発案から生まれたものです」


そういうことにした。むしろしないと話が進まない。もちろん発案したのはリビア・ノグマインであることをアローたちは知っているがそこは大人の事情というやつで納得してもらっている。

だって権力は強いじゃない?

無権力者の発言より権力者の発言の方が重要視されるのはどの時代だって同じだって歴史で習ったんですもの。使えるものは何でも使おう精神大切。


「内容としては公爵家が負担する金額は未来への投資となります。公爵家が投資する額とコングラッツ伯爵に支払っていただく額で業者は通常の利益を得ることが出来ます。代わりにコングラッツ伯爵にはヤギと羊のミルクを70ベルずつ契約から約1年間減額していただきます」


さっきの話し合いの際、セル会頭がヤギのミルクが190ベル、羊で170ベルと言っていた。ここから70ベルを減額して提供してもらえれば価格はさほど高くはならないだろう。おそらくコングラッツ伯爵側も70ベルに渋る可能性があるから最悪55ベルの減額を1年半契約で結んでいただく。これ以上の譲歩は出来ないが、おそらくどんなに見積もってもコングラッツ伯爵側の利益の方がこちらより多いと思うから頭が悪くなければ了承するだろうとアローは毒づいていたけど…。

この契約期間中にミルクジャムの販売と瓶の再利用による塗り薬の新たな活用法が根付き、広がればお父さまたちに投資いただいたものは少しの利を上乗せしてお返しできるだろう。

もちろんうまくいけば、の話だが


「いかがでしょうか?私達の発案は」


会頭たちが面白そうに私達に視線を送る。

さあ、ここからがスタートラインだわ!!





と、意気込んでいたのにどうして私は優雅にお茶を飲んでいるのか。


「はああああああ」


せっかく許可をもらったのに見学は出来ないし、近寄ることさえできない。なんて嘆かわしいことかしら。

コングラッツ伯爵は手紙を送ってすぐに話し合いの場を設けてくださり、例の資料を抱えて私単身で乗り込んで力説し、納得をしていただいたうえで快く了承、締結していただいた。

そうして10か月計画で下水設備をコングラッツ伯爵領中心部で行い、1年3か月に及ぶ70ベルの減価輸入の契約を結んだのだ。

想像していたよりも長期間の減価輸入にしてくださったのはありがたい。

まぁ、出来上がった商品をいくつかコングラッツ伯爵宛てに送ってほしいという話だったし別にそれぐらいなら対価なしでもよかったんだけどもらえるものはもらっておこうと思って期間延長いただけたのは幸いだったわね。

遠くから楽しそうな作業員たちの活気な声が聞こえる。

ああ、どうしてあそこに行けないのか!!と荒ぶる心を鎮めるためにもう一度だけどでかいため息を吐きだす。

…よし、考えてもどうにもならないからお茶菓子食べようっと。

伸ばした手がお茶菓子を口へと運ぶ。

甘いものは幸せを与えてくれるというのだけは絶対に裏切らないことだな、などと考えながらヴィオに止められるまでパクパクとお茶菓子を食べ続けるのはもう少しだけ先の話。


お嬢様としての普通がリズビアの中には備わっていない面が多々あるようです

いや~困ったな!

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