領地祭3日目
とうとう領地祭も最終日を迎えた。
今日はおじいさまの側から離れて自分で見回るように言われている。
最初はそこそこ話しかけてくれる人とかいたんだけど……
「…どうしよう」
問題だ。知り合いがいない。
1人もだ。
原因は私があまりお茶会に赴かないことにある。お姉さまやシルはよくお茶会に行き顔を広げている。一方私は屋敷にこもるか孤児院に行くか
まあ圧倒的に交流をとっていないがために楽しくおしゃべりできる同世代がいない。
泣きそう。いつもはエリオットやヴィオ、レットがいるから感じないけど私友人がいなさすぎない?え、これから作れるのかな?心配しかない
あ、胃痛が…
お姉さまやお兄さまは仲の良い友人たちと話に花を咲かせているようだしお邪魔して昨日の二の舞は嫌だ。ビーナ様からの依頼は昨日パーティーが終わってからさっそく書簡で届いていた。仕事が早いよねって感心しながらざっと目を通して何個かは出来そうだからピックアップしたけどもう一度見直しておかなくては
いざというときに何かあっても困るもの。
暇だからみんなの目に留まらないところでぶどうジュースの入ったグラスを仰ぐ。
おいしいぃ~!確かこのぶどうジュースの原材料はグエンチェ伯爵領のものだったかしら。これだけおいしいならワインとかも人気になるはずよね。
うちの領のパンにチーズと厚切りのベーコンを挟んで焼いたものとワインは合うんじゃないかしら?現にぶどうジュースでも合いそうだし…
料理長にお願いしてみよう
考えているとお腹が減ったので手元の皿にあった小さなシュークリームを口に入れる。
うん。おいしい
小さいものだと一口で食べられるから女性に人気なのよね。書類仕事をしている男性にも手軽で手が汚れないから結構好評なんだけど(我が屋敷内では)もっと広められたらいいんだけどそう上手くはいかないし
こればっかりは私には不向きだよね~
流行とは多くの人が見向きするものや人が必要となる。しかし私は友達すらいない。自分で言ってて悲しくなってきた。ふえ~ん
つまり、こういう流行をはやらすにはお姉さまやお兄さま、お母さまの方が得意分野なわけだ。今度我が家の茶会の時にお願いしてみようかな
効率性って大切だし
「―――!!!」
「――、―!」
なんだろう、どこかで言い争いをしているような
声が聞こえる方に近づけば庭園の方で同年代の女の子たちが何人かいた。
え~どおりでホールに同世代いないと思った。こんなところにいたらそりゃいないわな
声を荒げているのは真っ赤なドレスを身に纏った2つ結びの女の子
ドレスの色合いからか勝気なイメージが与えられる。
その対面にいるのは―
「シル…ビア?」
甘栗色の髪をハーフアップにした淡い黄色のドレスを纏ったのは、シルビアだった。
シルビアは困ったような表情で相手に何やら話しかけているが、相手の令嬢はヒートアップの一途をたどっている。
ここがホールからいくら離れているといっても声が大きくなれば人がこっちに来てしまうことだろう。どういう経緯でこうなったのかは知らないけど領地祭は腹の探り合いこそすれどあのように喧嘩??言い合い??をする場ではない。
誰かを呼んでこようか…いや、大人の介入でこじれては意味がない。仕方がない、私が止めるしかないか。
でもどうやって止める?そもそも私あそこにいる令嬢の顔も名前も知らないのに…
「殿下の婚約者の最有力候補だからって調子に乗ってらっしゃいますの⁈」
「ですから、そのようなことは決して―」
「殿下をお好きでもないならその立場を変わりなさいよ」
「そうよ、貴女なんか家柄以外何もないんだから」
「―ッッ」
「大体病弱な貴女なんかに王太子妃が務まるはずがないわ」
「お待ちください!それは分からないではありませんか!!それに公爵家令嬢に対して―」
「子爵家はおだまりなさい!!」
「ミシェッタ嬢!それはどういうつもりのお言葉ですか」
「部外者は黙っていろといったのよ!」
わ~、すっごい言い合い合戦だ~
軽く現実逃避してしまったが致し方ない。え、女の子ってこんなに激しい言い争いする者なんだ。ヒートアップしているせいか何人かが甲高い声音になっている。シルビアを見やればこの喧騒のせいか少し顔色がよくない。
あと2つ結びの子がミシェッタ伯爵家の人間ということが分かったのはありがたい。
誰だか知らないがありがとう。名前を言ってくれた子
「貴女なんて―」
大きく手を振りかぶるミシェッタ嬢の姿がスローモーションのように見えた。
『あんたのせいで―』
綺麗な顔を泣きはらしながら手を振りかぶったロゼリア姉さまと彼女が被って見えた。
ドクドクと心臓が嫌な音をたてる。
その言葉がどれほどの刃物となるか知っているのだろうか?
あぁ、なんでだろう。昨日学園の話が出たからかな
胸が苦しい。
あの頃は自分が悪かったんだと思う。自分勝手で彼女たちの様に身分を振りかざして…
認めてほしかっただけなのに、愛して欲しかっただけなのに
叶わない。叶わなかった願い
きっとあの頃に自分にも彼女たちにも分からないこの気持ち
私はあの夢から変わっているのだろうか?
女の闘いって第三者が見るとすっごく怖いよね




