領地祭2日目
おそらく、ドレスデザインをカロワインに提供することは事前に決まっていたのだろう。
それこそビーナ様とお姉さまの中で話は決定が下されていた。
今回のデザインを作ったのは私。私が了承を出すのはきっとわかっていたのだろう。
だけど、大々的に私がデザインしたということなどを広めるためには領地祭でハッキリと示す必要性がある。
何しろ私が考えたという証拠はないからと影武者が―なんて言われかねないのが社交界
ハッキリとビーナ様とお姉さまそして私の3人が集って大勢が見ている中宣言しなくては意味がない。
その場所が今日だったというわけだ。
お2人は嬉しそうに笑ってらっしゃる。
わ~、社交界って怖いね~
笑顔の裏には陰謀渦巻くとはよく言ったものだ。本当に
「そう言えば、リズビア様。そちらのドレスの刺繍はどなたが?」
「あぁ、これは自分が刺しました」
「ご自身が…色選びから?」
「ええ。色もデザインもすべて自分で行いました。ですから、つたないところはありますが―」
「素晴らしい!!」
「ふぇあ⁈」
がっしッとビーナ様は私の手を握る。
おいおいどこに行ったさっきまでの紳士さは
「デザインだけでなく色選び、そして繊細な刺繍までご自身でできるとは!これは是非とも我がカロライン専属デザイナーになっていただきたいですわ!」
「専属って」
いやいや、私ビーナ様みたいにデザイン詳しくないし程度がしれちゃってるからね?
大丈夫?
「ぜひ考えてくださいませんこと?」
「あ、あ、あの」
「リズビア様はロゼリア様のドレスデザインだけでなく、レイチェル様のスーツデザインも考えられたではありませんか」
やめてぇ~~~~!!被爆してるから!
「男性ものも女性ものも短期間で考えられたその腕は誇るべきことです!そんなお方が刺繍までできるんですよ⁈皆がこぞって購入するに決まっていますわ。人気ナンバーワン!一気に流行になります!!それに―」
「わ、分かりましたから!!ビーナ様一度落ち着いて!お姉さまも観てないで止めてください!」
楽しく傍観を決め込んでいたお姉さまに助けを求める。
全然私は楽しくないんだよ!!助けてよ!
なにが「あらあら」だ。分かってて放置してるの知ってますからね
ビーナ様はコホンと咳払いして冷静さを取り戻されたらしい。
「ビーナ様、うちの妹はどうも恥ずかしいようですのでその話は今度我が家にいらっしゃったときに詳しくいたしましょう。大丈夫ですわ。我が家はカロライン以外で仕立てはしたことありませんから」
「ええ、かしこまりました。私もかなり興奮してしまって取り乱しましたわ。失礼しました」
ビーナ様が頭を下げる。
「かまいません。私はビーナ様以外にこのお話をするつもりはないので」
それは他の仕立て屋にはアイディアを渡さないという牽制。
そして、カロラインだけというブランド価値をつけるため
ビーナ様は安心したように微笑まれ、お姉さまに礼をとってその場から離れる。
行く場所はおじいさまの元だ。
うかうかしていると誰かに捕まって昨日の二の舞になりかねない。
おじいさまをキョロキョロと探せば誰かと話に花を咲かせているようだった。
躊躇いながらも近づけば、こちらに気づき手招きされる。
「おや、これはとてもかわいらしいお嬢さんではないですか」
「とてもかわいらしいわね。うちにも女の子がいればよかったんだけど」
「侯爵の嫡男はとても秀でているではないか」
頭上ではそんな話が飛び交う。
おじいさまの対面には若い夫妻が笑顔で話をしている。男性は金髪がとても綺麗で、女性は赤毛がとてもかわいらしい印象を与える。きっとその雰囲気のせいでより若く見えるんだと思うけど…どなただろう?
私の疑問が伝わったのか、夫人が腰を折って目線を合わせてくれる。
本来社交の場で子供に目線を合すなんてことはしない。してくれない。腰を折るということは相手を上と認めることにもとられるからだ。故に基本的にこのような対応はされない。
じっと見つめると夫人は花咲くように笑い、それにつられて私も笑い返す。
「初めまして。私はアイリ・シェーナン・ベルデクトというの」
夫人の挨拶を受け、男性も私に声掛けをする。
「私はヴィエロ・ベルデクトと申す」
ベルデクト…侯爵…
さっと礼をとり頭を深く下げる。
「お初にお目にかかります。ガーナ公爵家が次女リズビア・ガーナと申します。侯爵と夫人に御挨拶申し遅れましたことお詫びいたします」
「気にしなくていいのよ。まだ小さいのにしっかりしているわね」
夫人は感心したように言う。
気にしなくていいと言われてもはい、そうですかなんていくはずがない。なにせ相手はベルデクト侯爵。
ベルデクト侯爵家というのは代々王家の血が流れている。理由として王弟・王妹殿下が王家を出られて新たな名として与えられるのがベルデクトだからだ。
現ベルデクト侯爵も現国王陛下の弟君であらせられるし、その奥方はランデナンサ公国の第3王女だ。そんな方々に先に名乗りもしなかったのはよろしくない。
いくら相手が気にしなくても…だ。
侯爵夫妻は子供の失態だからか本当に気にしていらっしゃらないようだった。
「うちの子もこれだけ礼儀正しければいいのだけど…」
「そう言えばご子息は今年から貴族学院に?」
ピクッ
「ええ、愚息ですが頑張っているようで」
「よく言いますな」
キュッと喉が締まる。
あぁ、忘れていた。あと9年
9年経てば逃げられない。あの夢の断罪の舞台ともなりうる貴族学院
14歳になれば貴族は皆通わなくてはならない小さな社交場
私にとっては行きたくない場所ナンバーワン
あの夢が本当だとは思いたくない。だけどあまりにも人が、場所が、名前が、嘘だと思えなくて…
「リズビアさんにお会いするのはもっと先になるかと思っていたから今日会えてよかったわ」
「!―それはよかったです」
話を全く聞いてなかったけどちゃんと返答できてよかった。
油断しちゃダメよ。私
「王妃様の誕生日祝いの場で初めてお会いするかと思ってたけど、今日会ってみて王妃様がおっしゃっていた意味が分かったわ」
「?」
王妃様はいったい私について何をおっしゃっていたというのか。
だって私王妃様にあったことないよね?
記憶をさかのぼる限りはないはず…え、自信なくなってきたんだけど
「また会えるのを楽しみにしているわ」
「私ももっとお話しをお伺いしたいです」
「嬉しいわ。その時は楽しみにしていてね」
侯爵夫人と会話をしている間におじいさま達の話も終わっていたらしく、お2人は仲良くパーティーホールの人ごみへ消えてゆく。
「侯爵夫妻は王家の代行で各領に顔出しされているんだよ」
おじいさまがグラスを傾けながら教えてくださる。なるほど王家の代わりに…
「国王様は領地に赴かないのですか?」
「毎年決まった3か所しか顔出しはされない。警備の都合や城を何日も空けることはできないからね。」
「決まった場所ですか?」
「1つは4大公爵家から。これは毎年順番制だね。2つ目はその年最も豊作だった領地。3つ目は逆にその年最も凶作だった領地だ」
なるほど。お忙しい国王陛下夫妻が直接見られるのは3か所。つまりその3回は城が警備上手薄になりやすいわけだ。下級貴族が領地祭に意欲的な理由もこの3回に望みを抱いていることが多いのだろう。軍部がこの時期忙しくなる理由は手薄な警備を補うためか。
軍部や騎士団がピリピリムードになるのもこれが原因。
これが毎年だから軍部も騎士団も大変だ。
まぁ、私が彼らに直接かかわることはないんだろうけど。本当に大変だな~
「いつかリズも関わることがあるのだから覚えておきなさい」
「‥‥‥分かりました」
おじいさまの言葉の意味を全く理解できなかったんだけど。
え、私関わらないよ?覚えてはおくけどね。大切だから
でも絶対関わらないよ?
首を傾げる私をおかしそうに見ておじいさまはグラスの中身を飲み干す。
空のグラスには間抜けな表情の私が映るだけだった。
社交界は大変ですね
知らない間にフラグ乱立してる??リズビア大丈夫かな?




