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幸せに生きていたいので  作者: 結汝
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伯爵子息の揺らぎ

今回はコングラッツ伯爵子息のヒルデ・コングラッツ視点です。

 今日はガーナ公爵家領の領地祭に招かれた。

 両親とともにガーナ家へと向かう馬車の中、領地に入ってから領民に目を配り観察をする。

領民はとてもいい笑顔で祭りを楽しんで知る様子だった。幼い子からお年寄りまで

多くの領では領地祭とは領地の特産品の収穫祭として領民たちは捉えていることが多い。まぁ、間違ってはいないがそこに領主を敬うなんて心は微塵も含まれていない。それが普通なのだ。逆に領主は貴族として自身の家の繁栄や領地の素晴らしさを装飾品と同じように自慢するだけ。

それが僕らにとって当たり前の領地祭だった。

 ‥‥‥だけどガーナ公爵領は違っているらしい。領民は公爵家のおかげで繁栄があることを理解し、誇りに思っているようだった。それは馬車から降り、町で祝いをあげている人々から話を聞けばすぐに分かった。

 何が違うのだろう。僕らと公爵家で

 爵位は違う。それは先代の功績によるものだから仕方がない。でも、何がここまで領民を魅了するのか分からない。

 僅かな苛立ちが心の中に立ち上るのを無視して公爵家へと足を踏み入れる。

 中はとても煌びやかだが派手派手しいのとは違い上品で落ち着きのあるものだった。

 両親とそろって公爵夫妻に挨拶後、僕は彼女を探す。

人混みが多いからなかなか見つからないと思っていたが、たくさんの人に囲まれるあの日と同じような状況の彼女が目に入った。

 小さい体は欲望渦巻く社交界では格好の獲物となっていた。

可哀そう。そんな憐みの気持ちがどうしてか心の苛立ちを消し去りほんの少しの優越感を味わわせてくれる。

人をうまく避けながら彼女に近づき声をかける。


「こんばんは、リズビア嬢」


振り返った彼女は驚きと嬉しさを混ぜ合わせた様な笑みを返す。


「こんばんは、ようこそおいでくださいました。ヒルデ様」


 薄ピンクのドレスに生える緑の刺繍

 ピンクは可憐さを印象づけるが緑の刺繍で快活さもイメージさせる。似合っていると思った。彼女の瞳と似た色合いで統一されたドレスは


「相変わらず人気ものですね」

「あはははは、そうでもないですよ」


 からかい交じりに告げた言葉に視線を逸らして愛想笑いを返される。

 あぁ、嘘をつけないのか。そんなのでは社交界なんて生き抜けないだろうに。なんて可哀そうなんだろう


「我が領はいかがでしょうか?」


彼女に差し出された皿を受け取りながらほんの数刻前の視察を思い返す。


「そうですね…」


 笑う領民、嬉しそうな声、『ガーナ公爵家バンザーイ!!』という酔っ払いたちの音頭、見ず知らずの僕に対して一緒に祝おうと声掛け喜びを分かち合おうとする姿勢


「領民がとても笑顔で貴族にも気さくというんでしょうか。心から出迎えてくださっているのが伝わりますし、領民の方々はガーナ家の皆さんをとても誇りの思われているのは伝わりました」


彼女は嬉しそうに頬を染め上げる。

あぁ、なぜそんなに—


「それに下水などが綺麗に整備されている点は我が領にはまだ不十分であるため目を引きました」


 うちの領ではまだ下水整備は着手できていない。

 父も頭を悩ませている問題の1つだ。下水整備は早めに着手せねば時間がかかるものだ。

だが、領民は下水よりも病院や施設の建設などを求める。

一向に進まない話にいつからか父は議題に出すことすら嫌っていた。


「コングラッツ伯爵領では下水整備は行っていないのですか?」


思考の渦から引き揚げられる。照明によってキラキラ輝く彼女の瞳は宝石のようだった。


「していないわけではないのですが、領民の納得が得れていないのと下水設備意外に望まれているものが大きくて着手できていない形ですね。情けない話ですが」

「情けなくはないと思います」


 間髪入れずに彼女はそんなことを言った。

情けなくないと

 普通今の会話を聞けば、同情やうちの領も同じもんですよ~とこれ以上の会話をしないよう、させないよう濁すはずだ。だってそれは自領の弱点を突かれることに繋がるし、逆に締結を結ぶチャンスともなりうるものだから他のものに聞かれないように話を終わらせにかかる。

 なのに彼女は情けなくないと言った。


「領民の声を聴くことは大切です。領民あってこその領地であり貴族なのですから」


 当たり前なことをまるで幼い子に言い聞かせるかのように優しく告げる。

こちらを見た彼女は年相応に笑顔を見せる。


「領民の意見を尊重することも領民のためを思って貴族が政策を施すこともどちらも大切です。けれど意見は衝突してしまうもの。だからこそ互いを知ることが大切なんですよ」


 幼い彼女はなぜか生き生きとして語るその言葉に胸が熱くなる。

ピッと指さされた先に視線を向ければ彼女に手渡された皿―ライ麦パン―があった。


「お互いを知ったうえでその様な特産品が生まれ、民の喜びが領地の活気になり私達の次へのやりがいへ繋がる。そうして我が領は今まで発展してまいりました。きっとコングラッツ伯爵領も出来ますよ」


 何を根拠にそんなことを—と思っても口から音にはならなかった。

 だって、彼女があまりにも純粋に眩しいぐらいの笑顔を、信頼を、期待を向けるから

身体中の体温が上がるのを感じる。

目が離せない


「ヒルデ様、どうぞ我が領の領地祭をお楽しみください。失礼いたします」


 優雅な動作で淑女の礼をとる彼女になにも言えなくて、ただただ目が離せなくて

去っていく彼女を引き留めたいのに声は出なくて…

ただ鮮明に彼女の笑顔だけが焼き付く

 少しだけ、ほんの少しだけ彼女に群がる人々が野心だけで集まっていない気がした。きっと僕と同じように彼女に魅せられてしまった人もいるのだろうから。

魅せられてしまったことに気づけば急激に恥ずかしさが込み上がる。ほんの少し前まで哀れに感じ、あまつさえ優越感に浸っていた相手なのだ。そんなことを感じてしまった自分が恥ずかしくて、愚かで浅はかで嫌になる。

そう思うならきっと彼女から距離を置くべきなのだろう。それが正解なのに


望んでしまう。彼女の近くにいたいと


そのために僕は―


リズビア・ガーナって5歳なんですよね。

いや、たまに忘れる。

この子が5歳ということに…

怖いね(天然タラシって)

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