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「なあ森下、お前ってなんで生きてんの?」

「さあな、何かを信じているからじゃないか? 伊川、人は何かの物語の中にあるんだよ。母親がいて、父親がいて、友達がいて、まあいなかったとしてもだな。俺は別に構わないんだが」

「よせよ、俺たち友達じゃねえか」

「クッセー、あはは」


 俺は笑った。俺の名前は森下和希。高校二年生だ。目の前のやつは友達の伊川蓮。こいつとはくだらない話ばかりしている。考えてみれば、俺って自分がどういう人間なのかをこいつから感じさせてもらっているところがある。


「そういうわけで、森下、明日はお前の家に泊まるから覚悟しておけよ」

「無理に決まってるだろ。俺一人じゃないし家族がいる」

「家族と俺とどっちが大切なんだよ。バカ」

「そんなの比較対象じゃない。家族には家族の、お前にはお前の大切さがある。その軸は交わらないんだよ。イケメンの顔面系統だってそうだろ? 日本一のイケメンっていうのは、全ての人が認めるわけではなくて、より多くの集団に支持される宗教見たいなものなんだよ」

「イケメンの例えで俺が納得すると思うか? お前はイケメンってほどでも不細工ってほどでもない。でも俺は格好いいと思うよ」

「ゲイカップルじゃないんだからさ」

「まあいいじゃねえか掘りつ掘られつの関係でも」

「良くない。俺は女が好きなんだ」


 伊川との会話では何かを失っている気がする。俺の品性というかなんというか。とにかく俺たちに今必要なのは友達でいられる時間を永遠に引き延ばすことではない。人はいつか死ぬ。死なない人はいない。だからなんだという感じでもある。俺は伊川を救いたいとか滅ぼしたいとか考えたこともない。


「森下、じゃあよろしく! あんちゃん」

「分かった分かった」


 俺は世界を変えてやると決めていた。どんな手を使ってでもいい。俺が生きた痕跡を残し、永遠の傷跡にしてやると決めていた。本当は世界を滅ぼしたかったのかもしれない。そうして俺が求める人たちだけを天国へ導く。俺は救世主にでもなったつもりか? バカらしい。とにかく生きているだけで意味があると言えるほど俺は偉くなかった。


 怠惰は罪だというのだろう。俺が犯している一番の七つの大罪。俺は永遠に生きられないに違いなかった。地獄に落ちてもいいと思っていたが、反面、島流に遭うのは嫌だった。天秤にかけてみれば、どちらが辛いかは明白だったのだが、まあいい。


 俺は伊川に手を振っていた。奴は自分の家に帰って行った。俺にも家がある。そこには家族がいる。だからなんだというのだろう。俺は俺という存在として永遠の昔から定められているのだとしたら、親も先祖も関係なしに、独立に神の創造だと言えたかもしれない。


「お母さん、ただいま。そんなことよりさ、お母さんはこの世界で一番大切なことはなんだと思う?」

「唐突だね。おかえり。お母さんが思うのは楽しく生きることだと思うよ。楽しんだ者勝ちってわけではないけど、悲しみに満ちた人生っていうのはどこにも行き場がないからね」

「ふうん、ありがとう。それに産んでくれたことも感謝するよ。俺は存在している。俺は昨日もあったし、今日もある。明日もあるに違いない。でもそれは永遠ではないんだよね。今という刹那に煌めいているんだってさ」

「誰が言ってたの?」

「自分で考えた」

「そう、私は神様を信じているわ。神様があなたの人生を良い方向に導いてくださるように、いつもお祈りしている」


 お母さんはそんな感じだった。どんな神様なのかは知らない。だが俺が思う神というのはどこまでも聖なる存在だった。近づき難い、被造物との間に断絶がある。その問題を解決してくれるのが何かということを教えられたことがない。どんな考え方であったとしても不都合な真実に目を閉ざしているだけだった。


 俺は自分の部屋に戻って、そこでベッドの上に横になった。天井を見上げる。横を向く。何もない日常が流れていいく。スマートフォンを眺めるとネットニュースが流れていく。パズルゲームをする。なんか退屈だな。世界を変えたいな。だがどこにも立ち行かない。俺は俺の知り合いの円環に閉ざされていた。


 俺が俺よりも偉大なものによって自己を定義することができたのなら、俺は高い次元から全てを眺めることができて、そこにあって全てを知る何者かと親しくなって、この世界の人たちは愚かだねと笑い合えたのかもしれない。俺自身もバカの一人なのだが、バカが自分をバカだということにも趣がある。


 ああ、天才になりたい。だがなれない。俺は一発当てたい。何発も打ち上げたい。全てに自分の存在を知らしめて、良い感情も悪い感情も抱かせた上で屈服させたい。俺は女を抱けるくらいに心も体も顔もイケメンではないのかもしれないが、全ての女に恋心を抱かせるような成功を収めたい。


 傲慢だな、分かっている。

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