089「ライズの憂鬱」
僕の名はライズ。
僕の人生はいつもついていないことの連続だ。
そして、それは今回も例外ではなかった。
「ライズよ。ついに我がラミング商会に大きな貴族とのつながりができるぞ!」
大抵、父ラミングがそんな期待を込めて言ってくるときはかなり疑ったほうがいいと、これまでの僕の経験値を土台にした警報装置が警鐘を鳴らしていた。
「えっと⋯⋯どういうことでしょうか、父上?」
「実はな、あの戦時の時に大きな活躍をし、さらに戦後は魔道具開発で成功を収めている、我がラミング商会の魔道具部門で最大の取引相手であるスウィフト・バレンタイン子爵様から『折り入って』と頼み事があってだな⋯⋯」
「え、ええ」
スウィフト・バレンタイン子爵様からの『折り入って』⋯⋯か。パッと見は信頼の証である言葉にも聞こえるが、逆の見方をすれば『折り入ってだから断らないでね?』と言っているように聞こえるのは気のせいだろうか。いや、きっと気のせいだ。気のせいであってほしい。
「何でもお前が通っているセルティア魔法学園の生活魔法クラブという部で製作した魔道具をラミング商会で販売してほしいという話なのだ」
「ええっ?! 学園のクラブ部活動で製作した魔道具の販売ですかっ?!」
魔道具ってそんな一学生が製作できるようなものだったか? いや、そんなことはないはずだ。
じゃあ、先生が製作しているってことか? いや、それならたかだか先生個人の魔道具販売を商会を通すなんてことはしないはずだ。あるとすれば、よっぽど魔道具製作の販売実績を持つ先生とか、魔道具製作で有名な先生であれば別だけど⋯⋯ウチの学園にそんな先生がいるなんて聞いたことがない。
ましてや、生活魔法クラブの顧問はフリオ先生だ。そして、僕の知る限りフリオ先生は魔道具製作で有名な先生ということではない。
てことは、やっぱり生徒が製作したものを販売するのだろうか? 意図が読めない。
「うむ。スウィフト様の話だと生徒が製作する魔道具らしいぞ」
あ、やっぱり、生徒が製作した魔道具を販売するんだ。⋯⋯マジか。
「私としては、正直学園の生徒の製作した魔道具など大したものではないだろうと思う。実際、スウィフト様もおそらく生活魔法クラブの担当顧問が部員の将来を考えて、商会筋に知り合いができるようにするための『引き合い』が本当の目的だろう⋯⋯と言っていたしな」
なるほど。魔道具販売が目的じゃなく今後の生徒の将来を考えての商会との『コネ作り』が狙いか。確かにそれは一番現実的な目的だ。
「で、だ。お前は今学園に通っているというのもあるから、今回この件はお前に任せようと思っている」
「え? 僕にですか?」
「うむ。元々お前の学園入学は貴族様や王族様方とのコネを作るためだ。覚えているな?」
「は、はい」
「うむ。そして、この表向きは魔道具販売という名のコネ作りは、お前にとっても将来的にはプラスになるのは間違いない。なんせ、この生活魔法クラブの中にはあのミーシャ・セルティア第二王女もいらっしゃるし、さらには、あのレオンハート・セルティア第二王子もこの生活魔法クラブを懇意にしていらっしゃるらしいからな」
「ええっ?! 王族様⋯⋯ですか!」
「そのとおり! ライズよ、これは王族様とお近づきになるチャンスなのだ! 頼んだぞっ!!」
「ええ〜⋯⋯」
正直、すごく嫌だ。
父やスウィフト様の話では、今回は魔道具販売ではなく生活魔法クラブの生徒たちとラミング商会とのコネ作りが一番の目的だから、平民でもそこまで無理難題は言われないだろう⋯⋯と言っていた。
たしかにその通りかもしれない。平民だからって無碍に扱われることはないだろう。
だけど⋯⋯なんか引っかかるんだよねぇ。
僕のこれまでの人生において生成された『ついていないセンサー』にさぁ⋯⋯。
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翌日——いろいろ不安はあるもののチャンスであることには変わりないと思っていた僕は、正式にラミング商会で製作した魔道具を卸すという契約書を渡しに覚悟を決めて生活魔法クラブに赴いた。すると、いきなり、
「では、早速ですがこの魔道具の販売をお願いします」
と、フリオ先生が製作した魔道具を渡してきた。
「えっと⋯⋯これは?」
「光魔法の『治癒』を生活魔法の魔力で利用できる魔道具です」
ん?
今、何つった?
光魔法の?『治癒』を? 生活魔法の魔力で利用できる魔道具?
光魔法は生活魔法じゃなく六大魔法なんですが⋯⋯?
「あ、あのフリオ先生⋯⋯すみません。私の聞き間違えかもしれないので確認しますね? 今、光魔法の『治癒』を⋯⋯生活魔法で利用できる魔道具って言いました?」
「ええ、言いましたよ。『治癒』を生活魔法で利用できる魔道具です」
「は、はぁぁぁぁぁぁ⋯⋯っ!?」
い、一体、フリオ先生は何を言っているんだ?
光魔法は六大魔法の一つだぞ? 生活魔法で動かせるなんて⋯⋯あり得ない!
「あ、あり得ません! 光魔法は六大魔法ですよ?! そんなの無理に決まっているじゃないですかぁぁぁ!!!!」
僕はついカッとなって思わずフリオ先生にそんな感情剥き出しにツッコんだ。すると、
「あ、じゃあ、こうしよう!」
そう言って、フリオ先生は私にその魔道具を渡してきた。
「ちょうど昨日、魔道具製作中に指を軽く切ってしまってですね⋯⋯なので、ライズ君がこの魔道具を使って治してもらってもいいですか?」
「え? え? え? えっ?!」
その渡された魔道具は『奇妙な形』をしていた。片手で掴める大きさでちょうど手で握れる部分がある。そこを握ると、自然に人差し指が入るような輪っかがあり、そこには指で引っ張るような部品があった。
「この部品⋯⋯『トリガー』というのだが、そのトリガーを引っ張るだけでいい。ああ、あと『銃口』⋯⋯というこの先端を私の傷のある箇所に向けて、それで人差し指でトリガーを引っ張ってみてくれ」
「わ、わかり⋯⋯ました⋯⋯」
僕はフリオ先生に言われる通りに、『銃口』という先端を先生の傷口に向け、そして、トリガーを引いた。
パン!
「うわっ!?」
トリガーを引いた瞬間、いきなり何か大きな『破裂したような乾いた音』に驚き、つい、その魔道具を落としてしまった。
「おっと」
しかし、ちょうど横にいたラルフ・ウォーカーがタイミングよく、その魔道具をキャッチしてくれた。
「な、何の音ですか⋯⋯今のは!?」
「ああ、ごめんね。ライズ君⋯⋯フリオ先生、ちゃんとトリガーを引いたら大きな音が鳴ることを伝えないとこうなりますよ」
「ああ、すまない。ライズ君。私の説明不足だったよ」
とラルフ・ウォーカーに指摘されるとフリオ先生が謝ってきた。
「だ、大丈夫です。ただちょっと驚いただけですから⋯⋯」
ふ〜、落ち着け、落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない。
「ところで、フリオ先生は大丈夫でしたか? ケガとかはないですか?」
「ふむ。むしろ、ケガがちゃんと治ったぞ?」
「え? 治った?」
「ほれ」
そう言って、フリオ先生が魔道具製作で切った傷跡があった指を見せた。
「え? あれ? き、傷が⋯⋯治ってる?」
見ると、さっきまであったはずの切り傷が完全に消えていた。
「バ、バカな⋯⋯!? ぼ、僕は、生活魔法士ですよ! 六大魔法の魔力回路なんてありません! なのに、なんで光魔法の治癒魔法『治癒』のような効果が⋯⋯」
「だから、言ったでしょう? この『治癒』の効果を持つ魔道具は⋯⋯⋯⋯生活魔法の魔力で動かせるって?」
「う⋯⋯」
「う?」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜っ!!!l」
そして、僕は気を失った。
「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」
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『毎週土曜日13時更新』です。
よろしくお願いいたします。
mitsuzo
 




