074「キリシュタイン侯爵家当主『ヴィバルディア・キリシュタイン』」
「おや? これはこれは⋯⋯ノックもせずにどうしました、ジェリコ王太子殿下?」
「お、お前は⋯⋯⋯⋯ヴィバルディア・キリシュタイン!」
父上の書斎には、父上ともう一人⋯⋯三大侯爵家の一角であり、既得権益貴族らを束ねるキリシュタイン侯爵家当主『ヴィバルディア・キリシュタイン』がいた。
「な、なぜ、ヴィバルディアが父上の書斎に⋯⋯?」
「ん? いやいやいや、普通に外交についてのお話をしに来ただけですよ」
「おー、我が息子ジェリコではないか! ん? どうした? 何か用事でもあるのか? それとも私と語らいにでも来たのかな? ん?」
ま、まさか、ヴィバルディアが父の書斎にいるなど⋯⋯⋯⋯待てよっ!?
「ヴィバルディア! 宰相は⋯⋯ヴェントレーはどうした?」
「ん? いや、どうしたと言われましても⋯⋯」
「父と一緒ではなかったのか!」
「いえ、部屋には陛下一人だけでしたよ? ね、陛下?」
「ん? おお、そうだぞ。ヴェントレーの奴は急ぎの用事があると言って部屋を飛び出して行ったぞ〜!」
父上がのんきに答える。
ていうか、なぜヴェントレーがいないんだっ!?
ただでさえ、父上はあのような状態だから誰かと鉢合わせてボロが出ないよう常に一緒に行動すると言っていたというのに⋯⋯なのに、なぜっ!?
「ああ、そう言えば⋯⋯」
「っ!?」
すると、唐突に、ワザとらしく、突然ヴィバルディアが声を上げる。
「思い出しました。たしかヴェントレー様が『私の娘が⋯⋯』とか言って急いで部屋を出て行きました。ちょうど私とは行き違いでしたがその時一緒にいたメイドがそう言っておりました。ヴェントレー様のそのセリフからして、もしかすると娘さんのことで何かあったのではないでしょうか?」
「っ!!!!」
こ、こいつ⋯⋯まさかっ!?
ヴィバルディアの顔を見ると、うっすらと笑みを浮かべている⋯⋯ように見えた。
「いや、ジェリコ王太子殿下はヴェントレー様とは深い仲であらせられるから心配もまた一塩でございましょう。そうだ! それであれば、ヴェントレー様のお屋敷に急ぎ行かれてはどうですか! 何、陛下には私がついておりますし、王城内は安全ですから。どうぞ、お父上のことはお気になさらず。ね?」
「⋯⋯!」
ヴィバルディアの奴⋯⋯陛下と接触するために何か仕組んだというのか。ヴェントレーのことは気になるが、しかし、父上から離れるのは悪手だ。
「い、いや、何かあればヴェントレーから連絡がある。それよりも私は父上⋯⋯陛下に用があるのでヴィバルディア、申し訳ないがお引き取り願おうか」
そう言って、私はヴィバルディアを睨む。
「⋯⋯フッ」
「な、何が可笑しい?!」
「いえ、殿下が何か誤解をされている気がしまして⋯⋯まーでもいいでしょう。それでは私は下がらせていただきます。陛下、ではおやすみなさいませ」
「うむ」
「では、失礼いたします」
そう言って、ヴィバルディアはあっさりとすぐに引き下がった。
「ヴィバルディア⋯⋯目的は一体? それに、ヴェントレーの家族に何かあったのだろうか⋯⋯?」
それから1時間ほど経った後、ヴェントレーが父上の書斎のところにやってきて事情を聞いた。話ではどうやら『娘を誘拐した』という旨の脅迫文が屋敷に届き、その直後、娘が部屋にいなかったことで大騒ぎになったらしい。
一応、娘は誘拐されたわけではなく、離れの小屋で見つかりはしたのだが⋯⋯。しかし、娘が言うには「気づいたらこの小屋で寝ていた」とのことだった。
「あ、あれは、恐らく『警告』だったのかと思います。娘くらい誘拐しようと思えばいつでもできるぞという⋯⋯」
そう言って、ヴェントレーは怒りと不安が入り混じった表情を浮かべていた。
「⋯⋯やはり、ヴィバルディアの仕業なのか?」
「わかりません。ですが、その可能性は高いでしょう⋯⋯。むしろ、今回のタイミングを見れば恐らく間違いないかと」
「そうか」
ヴェントレーはいまだ苦々しい表情をしながら呟く。
「ヴィバルディアがいずれ動くことはわかっていたことですが、しかし、想像以上に容赦ない感じでした」
「どういうことだ?」
「⋯⋯も、もしかすると、前に懸念していた王家の転覆⋯⋯クーデターを本気で目論んでいるのかもしれません」
「何っ!?」
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——キリシュタイン侯爵家
「今回のヴェントレーの件、ごくろうだった」
「⋯⋯ありがとうございます」
「ふっふっふ⋯⋯ヴェントレーのあのような焦った顔を見るのは久しぶりだったよ。いや〜仕事が早いね、『影』は。」
「恐れ入ります」
カラン⋯⋯。
現在、ヴィバルディアは書斎にてウィスキーを飲みながら『影』と呼ばれる者と話をしていた。その『影』という者はその名の通り全身を黒装束に身を包み、部屋の隅のほうで待機をしながら話をしていた。
「それにしても、やはりヴェントレーが陛下を傀儡化していたのは間違いなかったようだね。まージェリコ王太子もそこに噛んでいるようだけど⋯⋯。さて、どうしたものかな?」
そう言って、グラスに一度口をつけ喉を潤す。
「彼らはこのまま政権を維持するつもりでいるようだから、そのままでもいいと言えばいいのだが⋯⋯しかし、少し遊びたいかな〜」
と呟くヴィバルディアに、
「楽しそうでございますね」
ふいに『影』という者が声をかけた。
「ああ、最近はずっと退屈だったからね。だから、もう少しヴェントレーやジェリコをいじってみるのもいいかと思うんだけど、ただ、それだけじゃなく他のキャストも用意しようかと思ってね⋯⋯」
「他のキャスト? それは、まさか⋯⋯」
「ああ。レオンハート第二王子やミーシャ第一王女もお声がけしてあげないと失礼だろ?」
「はぁ〜⋯⋯ヴィバルディア様。ほどほどにしてくださいね、王太子殿下とヴェントレーを刺激しすぎるのは⋯⋯」
「ふふ、わかっているよ。相変わらず心配性だな、『影』は」
ヴィバルディアが笑いながら『影』に返事すると、
「あ⋯⋯!」
「! どうされました?」
「良いこと⋯⋯思いついちゃったぁ〜」
ニチャァ。
そんなヴィバルディアの顔を見た『影』は、「絶対よろしくないことだろうな」と半ば諦めまじりの大きなため息を吐いた。
このヴィバルディアの『思いつき』は、ジェリコやヴェントレーたちだけでなく、レオンハートやミーシャたち、さらには魔法学園の生徒らも巻き込むこととなるのだが、その騒動のおかげで図らずも『ラルフ・ウォーカー』の名が世に知らされるのであった。
第二章<セルティア魔法学園/入学編> 完
「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」
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mitsuzo




