051「ラルフ式生活魔法①」
——絶叫から2分後
「お、おい、ラルフ⋯⋯ラルフ・ウォーカー⋯⋯っ!!」
「は、はい!」
放心状態のレイカ先輩が突然強い口調で私の名前を呼んだ。私は少し驚きながらもしっかりと返事をする。
「このことは誰かに言ったか? あ、いや、誰が知っている?」
「家族しか知らないですね」
「家族⋯⋯。つまり、お前の父親であるヘミング・ウォーカーも、その妻であるあのステラ・ウォーカーも知っているのだな?」
「はい。⋯⋯⋯⋯ん? あのって、レイカ先輩、私の母上のこと知ってるんですか?」
「えっ?! あ、いや⋯⋯⋯⋯そ、そりゃ、東のウォーカー辺境伯の奥方であれば誰だって知ってるだろ!」
「は、はぁ⋯⋯?」
ふと、レイカ先輩の返事に違和感を感じた。何か『ごまかされた』ような。何でごまかす必要があるんだろう? いや、気のせいか?
「そ、そんなことよりも⋯⋯ラルフ! お前、この生活魔法⋯⋯『ラルフ式生活魔法』と言ったか?」
「はい。妹が名付けてくれました」
「妹?」
「はい。あ! ちなみに『ラルフ式生活魔法』はその二つ下の妹も、あと一つ下の弟もすでに使えます」
「「「え⋯⋯?」」」
「まーその中でも、妹が私に次いで『ラルフ式生活魔法』を使いこなせています。いや〜うちの妹は可愛いだけじゃなく、魔法のセンスもすごいので⋯⋯でへへへへ」
ちょっと、妹自慢しました。
「ちょ、ちょっと待て! お前の妹も弟も確か『六大魔法士』だったよな?」
と、テイラー。
「うん、そうだよ」
「確か生活魔法って、称号が『生活魔法士』なら問題なく使えるが、『六大魔法士』が使うとなると難しいと思うんだが⋯⋯」
「そうだよ、ラルフ君。テイラーの言う通りだ。『六大魔法の魔力回路』と『生活魔法の魔力回路』は全く異なる。そして、六大魔法士は普段の生活ではほとんどが自身の属性魔法を使っているし、生活魔法を使う時は『属性魔法の下級魔法』で補っているから『生活魔法の魔力回路』を使うことなどほとんどない。皆無だ!」
と、フリオ先生がテイラーに乗っかるようにさらに具体的な六大魔法士が生活魔法を使う困難さを説明してくれた。
「あー、まあ確かにその通りですね」
「し、しかも、六大魔法士が生活魔法の魔力回路を使うとなると扱いが相当難しいから、現在、六大魔法士で生活魔法の魔力回路を使える人はほとんどいないんですよね?」
「ああ、テイラー君のその見解は正しい。まーだからこそ、そういう意味では生活魔法の魔力回路を使いこなせるのは『生活魔法士』の称号を持つ平民や獣人、亜人となるんだけどね⋯⋯ははは」
フリオ先生がテイラーの質問に答えつつ、皮肉を入れてくる。
「⋯⋯で、そうなると、ラルフは『生活魔法っぽい称号』らしいからラルフが生活魔法を使えるのはわかるが、どうして六大魔法士の弟や妹が使えるんだ?」
「ああ⋯⋯そういうことか。いや、答えは単純だよ。単に二人に魔力制御を練習させたんだよ」
「そ、それって、『生活魔法の魔力回路』を魔力制御の練習ってことっ?!」
「そうそう。あ、ちなみに、私からもちょっと質問だけど⋯⋯」
「「「⋯⋯!」」」
私が質問しようとするとなぜか三人が身構えた。⋯⋯解せぬ。
「『六大魔法の魔力回路』と『生活魔法の魔力回路』の制御の大きな違いってわかりますか?」
「「え? どゆこと?」」
どうやらレイカ先輩とテイラーはよくわかっていないようだった。しかし、
「ラ、ラルフ君⋯⋯もしかして『自動制御』と『手動制御』のことを言ってる?」
「そうです。さすが、フリオ先生!」
「ありがとう。しかし⋯⋯でも、それがどうしたって言うんだい?」
「はい。えーと、六大魔法は自動制御なので魔法発動が簡単ですよね。でも、生活魔法は手動制御なので自分で魔法を発現するイメージと魔力コントロールがとても重要になってきます。そして、その発現させる魔法を強くイメージできれば、あとは体内魔力の流れをコントロールして魔法を発現させたい場所(手とか足とか)へ導く⋯⋯この手動制御を練習して感覚が身につければ、さっき私が見せた『ラルフ式生活魔法』のように生活魔法の威力を跳ね上げることができるのです」
「「「っ!!!!」」」
三人とも『ラルフ式生活魔法』のタネを聞いて体を硬直させ唖然としていた。まー無理もない。
確かに、この世界の常識であれば貴族が『生活魔法の魔力回路』を使うことなんてほとんどないだろうからね。なぜなら『六大魔法の下級魔法』に『生活魔法』と同じ『光源』『着火』といった魔法があるから。
実際、学園に来て貴族の生徒たちや先生たちを見ると普段から使っている魔法は六大魔法ばかりだし、授業の内容も六大魔法の内容に偏っている。だから、貴族や王族が生活魔法を使おうなんてそもそも思うことはないわけで。
結果、誰も「生活魔法を伸ばそう」なんて考えもしないのがこの世界の常識なのだろう。
また、称号がほとんど『生活魔法士』である平民や獣人・亜人たちでさえも、彼らは彼らで『生活魔法は日常生活程度でしか使えないクズ魔法』と自分たちでそう思っているため、結果、貴族と同じように「生活魔法を伸ばそう」なんて考える人は皆無だ。
しかし、そんな中でこの『生活魔法クラブ』は理由はわからないけど『生活魔法に可能性を見出している人たち』なので、この世界の人たちの中では生活魔法への理解があるほうだと思う。実際、今私がこんな話をしてもすぐに否定せずちゃんと聞いてくれた。
だが、そんな生活魔法に理解ある三人でも話を聞く限りでは『生活魔法の魔力回路』の制御技術を伸ばすことはしていなかった。一応、フリオ先生は何度か挑戦したとは言っていたけど、でも、少しやると、すぐに「こんなことをやったところで意味などない」と凝り固まった常識が邪魔をしたと言っていた。
正直、ここまで来ると、この世界の『魔法の常識=六大魔法絶対主義』というのはもはや『呪い』のようにさえ感じる——⋯⋯いや『洗脳』のほうが近いか?
ただ、今回私が『ラルフ式生活魔法』というこの世界の常識を覆した生活魔法を見せたことにより、三人に大きな変化をもたらしてくれるのではないかと期待している。
実際、このタイミングで『告白』したのは、そういう期待が込められている。
願わくは、この『告白』が良い方向に運んで欲しいのだが⋯⋯⋯⋯果たして。
「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」
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『毎週土曜日13時更新』です。
よろしくお願いいたします。
mitsuzo




