042「ようこそ。生活魔法クラブへ」
「テイラー・バレンタイン卿⋯⋯」
「は、はい!」
「君は、かのスウィフト・バレンタイン卿のご子息だろ?」
「え? お、俺の⋯⋯⋯⋯いえ、私の父のことを?」
「もちろん! ああ⋯⋯あと、敬語はここでは不要だ。いつも通りに⋯⋯。ていうか、お前は本来、あたいと近い喋り方だろ?」
「えっ?! あ、いえ⋯⋯まあ⋯⋯」
「フッ⋯⋯それで構わん。場を弁えてくれれば十分だ」
「あ、ありがとうございます」
「で、だ⋯⋯。お前の親父⋯⋯スウィフト・バレンタイン子爵は、20年前のグランザード帝国との戦争のとき『魔法兵器』を作って、当時誰も食い止められなかったグランザード帝国の侵攻を食い止め、セルティア王国に大きな貢献を果たしたよな?」
「は、はい⋯⋯っ!」
「魔法⋯⋯兵器!」
20年前の戦争⋯⋯つまり『グランザード帝国』との戦いのことか。歴史的に言うと『第四次帝国侵攻』。現在、グランザード帝国が大陸の大部分を占めるようになったのは、この20年前の『第四次帝国侵攻』と、さらに、それ以前の『第一〜第三次帝国侵攻』によるものだ。
結果、グランザード帝国はこの『アガルタ大陸』の実に三分の一の領土を持つ超大国だ。
ちなみに、それまでの『第一次〜第三次帝国侵攻』までは侵攻された国々はグランザード帝国に為す術もなくやられ領土を奪われたが、しかし、この『第四次帝国侵攻』⋯⋯つまり『対セルティア王国』にてその侵攻が食い止められた。とはいえ、勝利というわけではなく『引き分け』『痛み分け』のようなものだったようだが⋯⋯。
そのグランザード帝国の侵攻を食い止めた要因はいくつかあったが、その中の1つに、この『魔法兵器』の存在があった。
「あ、あの、魔法兵器って、一体どういうものなんですか?」
私は二人のやり取りの中に、質問をぶっ込んだ。
「何だぁ? ラルフ、てめぇ〜知らねぇのかぁ〜?」
「うっ! す、すみません⋯⋯」
レイカ先輩がその質問に反応する。一応テイラーに聞いたつもりだったんだけど⋯⋯ね。
「『魔法兵器』ってのはな〜⋯⋯称号が低い奴でも威力のある魔法を出せる魔道具を兵器にしたものだ」
「ええ! そ、そんなのがあるんですか!?」
「まーな。で、それを開発したのがこのテイラーの親父さん⋯⋯スウィフト・バレンタイン子爵だ」
「テイラーのお父さんがっ!? マ、マジ⋯⋯?」
「⋯⋯マジ」
いや、マジですごい。そんな兵器が20年前にすでに開発されていたなんて⋯⋯。
家にある書物では、この『第四次帝国侵攻』の内容は知っていたし、そこに『魔法兵器』という単語は書いてあったけど、その詳細までは書いていなかったんだよね。
(ということは、20年後の現在ならその『魔法兵器』もいろいろと進化してるんだろうな⋯⋯)
まーそれも含めて、この『生活魔法クラブ』で魔道具や魔法兵器についてもいろいろと教えてもらおう。
そうして、私が一人『生活魔法クラブ』での活動を有意義にしようと考えている横で、レイカ先輩とテイラーが話を続けていた。
「さて、ここからは個人的な質問なんだが⋯⋯」
「な、何でしょう?」
「テイラー⋯⋯お前、平民出の貴族だけど六大魔法の称号を得ているよな?」
「! は、はい⋯⋯」
「その称号は⋯⋯『水魔法上級士』だろ?」
「な⋯⋯っ! どうしてそのことを⋯⋯?!」
「フフフ⋯⋯あたいはシュバイツァー家の者だよ? それくらいの情報は持っているさ。しかも上級士なら『魔法騎士科』にも入れたはず⋯⋯。どうして『魔法自由科』に?」
「べ、別に! 俺は『魔法騎士科』なんて興味ないし、卒業したら家のことは弟に任せて家を出るつもりだったから⋯⋯」
「違うね。お前は本当は父親の発明した『魔法兵器』についてもっと深く研究したかったんだろ?」
「⋯⋯!」
「もっと言おうか? お前は『魔法兵器』の更なる可能性を考えていて、そして、それは六大魔法ではなく生活魔法にあると睨んでいるんだろ?」
「⋯⋯なっ!? どうして、そのことまでっ!!!!」
テイラーがレイカ先輩の言葉に顔を真っ赤にして絶句する。
「フフ⋯⋯どうやらビンゴのようだね。あーでも大丈夫。心配しないでいいよ。お前は『知らない』を通さないと何かと都合が悪いだろうから⋯⋯。だから、肯定も否定も何もしなくていい」
「! レ、レイカ⋯⋯先輩」
テイラーはレイカ先輩の言葉に複雑の表情を浮かべている。
「テイラー⋯⋯生活魔法クラブはお前にとって、もしかしたら『理想的な場所』になるかもしれないぞ?」
「え?」
レイカ先輩がそう呟くと、テイラーが一瞬顔を呆ける。
「生活魔法の研究なんて、このクラブ以外どこもまともに取り合ってもらえないし、それに、ある意味、『生活魔法クラブ』はセルティア王国内でも1・2を争うくらいには生活魔法を研究しているところだからな」
「「ええっ!?」」
レイカ先輩の発言に、テイラーだけでなく私もつい大声を上げてしまった。
「まーいろいろと大変な面もあるが、いずれにしても、これまで培ってきた生活魔法の研究資料は豊富だぞ?」
そう言って、レイカ先輩がニカッと悪い顔して笑ってる。『悪魔の勧誘』とでも言うべきか⋯⋯。しかし、真面目な話⋯⋯これは私にとっても『当たり』のような気がする。あと、テイラーもまんざらではない様子だし⋯⋯。
「どうやら異論はないようだな?」
コク。
コクリ。
「ようこそ、生活魔法クラブへ!」
「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」
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mitsuzo




