8.よりみちしたいっ!
魔法具専門店。それはあらゆる魔法具が豊富に取り揃えられている店だ。この店はリニューアルオープンしたお店で以前よりも規模が大きくなったというのは知っていた。前のお店は地上にあったのだが…
お店の看板には『魔法具 ソルセルリー↑↑』と書かれている。この↑がお店は空中にあると言うことを示しているのだろう。
さて、店内にどうやって入ろうか。
「さぁみなさん!飛行魔法陣は習いましたよね?」
シエリアがそう言ってにっこり笑った。
飛行魔法陣…?
記憶の彼方にうっすらとあるぼんやりとした知識。
あーやったような気がするなと思いながら苦笑いをする。
「ん!ボクがやるよ!」
アリィが慣れた手つきでその場に魔法陣を書き始める。6人全員が入れる大きな魔法陣だ。
アリィが書いた綺麗な魔法陣の上に全員で立つと青色の光に包まれた。すると、体がふわりと宙に浮かぶ。
この感覚はいつもテンションが上がる。魔法使いって感じで最高にカッコいい。
皆思い思いふわふわと飛び、店の入り口を目指す。
先頭を行くアリィが扉に近づくと、ガチャリと鍵が開く音がして扉が開いた。
店の中は魔法があふれていた。
ふわふわと宙を漂う飛行箒、火花を散らす魔剣、神秘的に輝く魔法石…
エルフ製、ドワーフ製など、どれも上等な魔法具ばかりだった。
ぽかんとした表情で店内を見回していると、店主のドワーフが話しかけてきた。
「ソルセルリーへようこそ!君たちはソル・レヴェンテ魔法学校の生徒だね?」
背が低く、モジャモジャの髭は足元まで伸びていて、丸眼鏡をかけ、ニコニコと笑っている。
「お久しぶりです、ベルネーゼおじさん!」
シエリアがかがんで店主に挨拶をした。どうやら知り合いのようだ。
「おや!シエちゃんじゃないか。元気そうで安心したよ。お父様も元気かね?」
「はい!今度またぜひお会いしたいと言っていましたよ!」
シエリアの父は神族の長でソル学の理事長だ。
「ぜひ、と伝えておいてくれ。
ふむふむ。君たちは初等部の遠足で来たのだね?
思う存分店内を見ていってくれ!気に入った魔法具を一つプレゼントしよう!」
ベルネーゼさんはウィンクをしてそう言った。
一方その頃。
レイナルドが付いているルメロス、クララ、モカのグループはというと…
「レイくんレイくん!見て見て!あそこにジョウロ専門店があるよ!!」
大はしゃぎのルメロス。
「おぉ〜wwwジョウロ専門店とかwwwルメちゃんジョウロ好きだよね??ルメちゃんのためみたいな店じゃんwww」
「行きたいけどこうどうけいかくしょにかいてないからだめだよね…?」
「わ、わたしもいきたい!」
ルメロスが悲しそうにしているのを見たクララがそう言った。
「えっ!?けいかくにないことしたら怒られちゃうんじゃないの?!ふ、2人がそんなにいきたいっていうならモカも行ってあげてもいいけどねっ!」
「寄り道は遠足のつきものでしょwwwお兄さん内緒にしちゃうよー!www」
なんとも能天気なレイナルドであった。
ルメロスはジョウロ専門店でジョウロを3つ買い、とても満足そうにしている。
「次はーっと!予定だと…魔法古書店てwwwまじめかwwww」
計画表を片手に笑うレイナルド。
「あっ…」
クララが小さく声をあげた。視線の先には可愛らしいテディベアのお店があった。
「あ!クララが好きなテディベアだよ〜!」
ルメロスがそう言ってお店の方を指差した。
「かわいい…」
モカも物欲しそうにお店を見つめている。
「お!みんな行きたいなら行っちゃう?!古書店より面白そうっしょwww」
レイナルドは計画書をポケットにしまい先陣を切って歩き出した。
テディベアのお店はとてもメルヘンちっくなお店だった。店内は白とピンクの可愛い装飾に棚にはさまざまな可愛いテディベアがあった。
「こんにちは!」
店に入ると白いワンピースを着た金髪のエルフが話しかけてきた。
「みなさんはソル学の生徒さんね?私はリーラよ!素敵な出会いがたくさんあるわよ。見ててね!」
そう言ってウィンクすると、リーラは手を広げた。両腕から金色の光が溢れお店の中に魔法が満ちていく。
「わあああああああ…」
光に包まれたテディベアたちは一斉にダンスをはじめた。
「か…かわいい…!」
クララがテディベアを食い入るように見つめる。
「おどってる!じょうずだね〜!」
「モカこの子ほしい…」
「ちょwwww踊り出すテディベアとかwwwwインスダ映えじゃね!?!?」
皆可愛いテディベアに魅了されていた。
「ふふっ良い出会いはあったかしら?」
お店から出てきた4人はそれぞれテディベアを抱いていた。
魔法具専門店に行った6人はそれぞれ気に入った魔法具を手にお店を出た。
俺はベルネーゼさんにもらった腕輪をじーっと見つめた。特に魔力を感じない黒い腕輪に赤い装飾が施されていた。一ヶ所空洞になっている部分がある。
ベルネーゼさんから言われたことが引っかかっていた。
『その空洞を満たすことができるのは五つの光を宿すものだ。影の種族のキミなら見つけることができるかもしれない。満たされた時、その腕輪の真価が発揮される。楽しみじゃ。』
含みのある笑みを浮かべるベルネーゼさんの顔が思い浮かんだ。
デザインが気に入っただけだったのだが、何かこの腕輪にはあるのかもしれない。
そのあとも俺たちは順調に行動計画書通りに進んでいた。
お昼頃になり、海辺の広場で昼食をとることにした。
するとそこにルメロス、クララ、モカ、レイナルドのグループがやってきた。
「お!ノワールとシエリアのグループじゃんwwいっしょにお昼食べちゃう?www」
なんともテンションの高いレイナルドであった。
俺たちは買ったものや見たものを報告しあった。どうやらレイナルドのグループは寄り道ばかりしているらしい。
真面目なシエリアは怒るか?と思ったが、シエリアはニコニコと笑っていた。
「寄り道は遠足の醍醐味ですからね!みんなが楽しそうで嬉しいです!」
ルメロスはじょうろの話をとても嬉しそうに話し、可愛いテディベアをクララとモカがブランとアリィに自慢し、運命的な出会いを果たしたとかなんとか言いながらテディベアについてレイナルドが熱く語り、フェリチタは楽しそうに、八木は馬鹿にしたように話を聞いていた。
なんとものどかな遠足である。
そんなことを考えていると何か違和感を感じた。
風にかすかに魔力がこもっていたのだ。
俺がキョロキョロと周囲を見回すと、シエリアの表情が強張っていた。シエリアは海の方を見ている。
異変を感じ取ったレイナルドとシエリア、そして俺がみんなを庇うように前に出た。
初等部の子達は何もわからず不安そうにしている。
シエリアが呪文を唱え、バリアを張ったその瞬間、海から魔物が飛び出してきた。その魔物は奇声をあげていた。人型に近く、頭にはツノが生え、目は釣りあがり、口は裂け、腕の先の手は刃物のように鋭く尖っている。
「オーガ!?!?オーガはヴァイシエスタにしかいないはず…なんで…」
シエリアが困惑したように叫ぶ。
「ちょっとちょっとやばいんじゃない!?シエリアどうする!?」
「緊急マニュアル通りに!ノワくん!緊急事態の信号銃を!私とレイくんで食い止めるのでみんなを避難させてください!」
「あ、あぁ!」
渡されていた信号銃を空に向かって放った。
これを撃てばエスポワールと先生が駆けつけることになっている。
空が赤く光り、シエリアとレイナルドの背中を赤く照らした。
「早く!みんなを!」
俺は初等部の子達を連れて広場から駆け出した。
嫌なことが起き始めてる。確実になにかが始まっている。そう思った。