2.放課後タイム
シャルテ、ラヴィーナ、クララ、ラテルネ初登場です。
授業の終わりを告げる鐘が鳴り、先生が挨拶をして教室を出て行った。
俺はすぐに身支度を整え、教室を飛び出した。向かう先は本館だ。本館には様々な部活の部室や委員会の部屋がある。
演劇部、ガーデニング部、料理研究部、美術部、天文部、球技部、魔法スポーツ部、水泳部、手芸部、ランタン同好会、図書委員会、放送委員会、美化委員会、ルナファテ推進委員会、保健委員会などだ。
本館の2階にはエスポワール本部と会議室がある。
俺は地下1階へ向かう。
部室の扉を開けるとどうやら1番乗りのようだった。
机の上にある、大きな紙袋を持って俺は演劇部の部室へと向かった。
演劇部の部室は3階だ。
ドンッ
「いってて……」
誰かがいることに気づかず思いっきりぶつかってしまった。
「大丈夫ですか?」
手を差し伸べてくれたのはマッティーナ高等部のシャルテ・デュフォンだった。
綺麗な金髪に、淡い緑の目、片耳にはピアスをつけている。整った顔立ちでみんなに優しくて性格もいいため、王子と呼ばれている。
「シャ、シャルテさん!?すみません…」
シャルテさんにぶつかってしまうなんて…ファンの女子に殺される……
差し出された手を恐る恐る取って慌てて頭を下げた。
「謝る必要はないですよ、ノワールくん。
それで……演劇部に用があるのですか?」
「は、はい…」
「もしかして完成したのですか?」
俺は紙袋を差し出した。
シャルテさんは紙袋を受け取ると、中から煌びやかな衣装を取り出してまじまじと見つめた。
そして満足げに頷いた。
「やはりノワールくんに頼んだのは正解だったようですね。期待以上の出来です。さすが、手芸部1の腕ですね。」
シャルテさんの笑顔がとても眩しく見えた。
「では、このお礼は後日、部から正式にお渡ししますね。ありがとうございます、ノワールくん。」
「いえ、こちらこそありがとうございました。」
俺は頭を下げると、軽い足取りで部室へと戻っていった。
鼻歌を歌いながら部室の扉を開けようとすると、後ろから肩を叩かれた。
「うわぁ!」
慌てて振り返るとそこにいたのはルカだった。
「ノっくん〜すごいご機嫌だね〜?何かいいことあった〜?」
「な、なんだよ…ルカかよ……びっくりさせんなよ…」
「あ、もしかして昨日夜中まで部室で頑張ってた演劇部の衣装〜?今届けてきたとこなの〜?だから機嫌いいの〜?」
「う、うるさいなぁ……そうだよ今届けてきたんだよ…」
そう言いながら部室の扉を開けると、他の部員も何人か来ていた。
「ノワくんお疲れ様!鼻歌歌ってたのノワくんだったんだね!」
水色の長い綺麗な髪に、淡い水色の目、少しだけ赤くなった頰、フリルのついたシャツに、チェックの膝丈のスカートを身につけている。
オーブ中等部のラヴィーナ・ローゼンだ。種族は雪女。
「なっ……えっ……そっ、そんなに大きかったですか!?すみません……」
「ノワくん顔真っ赤〜〜俺に言われても赤くならなかったのに〜〜」
「ラヴィーナ先輩に聞かれるのとルカに聞かれるのじゃ天と地ほどの差があるだろ!」
俺が小声でそういうとルカはパッと笑顔になった。
「え?え?それは俺が特別ってこと〜?照れるなぁ〜」
「ノワール〜私も聞いちゃったよ!ご機嫌なんだね!ふふっ」
淡い金髪の長い髪を2つで結び、綺麗な黄色の目、長い睫毛、白と水色の綺麗なワンピースに茶色のベストを羽織っている。
笑いながら話しかけてきたのは、オーブ初等部のクララ・オルコットだ。種族はエルフ。
「ク、クララにも聞かれてたのか…うわぁ…」
「恥ずかしがることないよ!演劇部の衣装作り終わったんだよね?最近ノワくんが頑張ってたのはみんな知ってるから。」
ラヴィーナ先輩がそういって微笑んだ。
め…女神か…?思わずそういってしまいそうになったのを慌てて堪えた。
俺は少し赤くなった頰を隠すように机へと向かった。
「ノっくんは構ってくれないし〜俺料理研究部行ってこよ〜っと」
「ルナン先輩の邪魔はするなよ!」
「はいは〜い」
ルカは変なやつだ。
全ての部活、委員会に所属している。本人曰く1つに決められないそうだ。
部活の時間はいつもいろいろな部活を渡り歩いている。
「料理研究部か…」
料理研究部の部長はルナン先輩だ。ルナン先輩は無類の料理好きで、よく手料理を作ってくれる。
料理研究部で作ったお菓子やお弁当を購買で販売することもあり、いつもすぐに売り切れている。
料理研究部には食べる要員のハイネがいる。
ルカとハイネに手を焼いているルナン先輩の姿が目に浮かび、思わずクスッと笑ってしまった。
隣の机ではラヴィーナ先輩とクララが一緒に裁縫をしていた。
「ラヴィお姉ちゃん、ここはこう?」
「うん、そうよ!上手ね。」
「ありがとう!」
2人は姉妹のように仲が良い。
作っているのは春用の制服のローブだ。手芸部では趣味のものを作ったり、依頼された物を作っている。
俺は特に依頼が来ていないため、何を作ろうかと机に向き直った。アイデアノートを取り出し、羽ペンを手に持つ。
その時、部室の扉をノックする音がした。
ゆっくりと扉が開き、立っていたのはラテルネだった。少しはねているピンクの短髪に、ピンクの目、顔には模様があり、シャツの上にピンクのカーディガンを羽織り、カーディガンの胸の部分は扉になっていて開くことができる。その扉を開くとラテルネの命であるランタンの炎が見える。ラテルネは左手を胸にあて、右手でランタンを持っていた。彼はジョルナータ中等部で、ランタンの付喪神だ。
胸の炎が消えてしまうとラテルネも死んでしまうらしい。
「炎もえてる?だいじょうぶ?」
ラテルネはいつも自分の炎が燃えているか気にしている。
「ラテルネ。燃えてるよ、大丈夫だよ。」
俺がそう言うと、ラテルネはとても嬉しそうに笑った。
「あの、その、あのね、ノワールくんいまいそがしい?」
「いや、今は何も依頼がなくて暇してたところだけど…」
「ランタンカバーをつくってほしくて…このランタンなんだけどね、このランタンは500年前ソーラ・リアマのシュラゴレルのランタン職人が…」
ラテルネはランタンの話になるととても饒舌になり、嬉しそうに話している。
俺はその話を聞きながら、ランタンを受け取りサイズを測る。
「……あ、ごめんなさい…いっぱいはなしちゃって……あの…それで…つくれそう?」
「全然平気だよ、やっぱりランタン詳しくてすごいな!もちろん作れるよ。明後日には完成すると思う。」
「……!!!ありがとう…あさってとりにくるね…ありがとう…またね」
ラテルネは嬉しそうに手を振りながらランタンを持って部室から出て行った。
好きなことで頼られることほど嬉しいことはない。そう思いながら、ランタンカバーのデザインを考えるためにノートに向き直った。
ラテルネの扱いが上手いノワールです。