夢の中
「ギル、」
そう呼び掛ければ微笑んでくれる。
彼はとびきり甘い笑顔で私を覗きこんでキスしてくれる。
ふわふわとした世界。
それはとても幸せなのに、時々切なくなる。
それは決まって頭を撫でられる時。
嫌だ、と何度も抵抗した……気がする。
その時の記憶はひどく曖昧で、でもひたすら彼の手から逃げ出そうとするのは覚えていて。
最近シア、という女性がやってきた。
私は一瞬彼があの女性を連れてきたのだと思ったけれどーーあの女性?…私の言うあの女性とは誰だったかしら。
ふと首を傾げて記憶を遡ろうとした。
けれど頭の中は霞がかかったように何もはっきりしない。
むしろ頭の中には何もないように思えた。
そんな私も時々そのふわふわとした空間から転げ落ちてしまう。
そんな時は必ず目の前に男性がいる。
ギルそっくりの、人。
でも私にはその人が何を言っているか全く聞こえない。
私はその人を前にすると何もできなかった。
でも、私は構わなかった。
しばらくすると私は再びふわふわとした温かな世界で、彼とーー時々シアと、幸せに過ごすのだから。
「ギル、おかえりなさい」
そう笑うと彼はいつも私を抱き寄せて、心底愛しそうに言う。
「愛してるよ、ミリア」
私はとても幸福な気持ちでそれを聞くのだ。