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1章11話 怠惰な少年




 ダチュラは大きく分けて四つの区画によって成り立っている。

 貧困層が集う南側、どちらかというと女性向けの店の集う東側、男性向けの西側、中央のダリアの住処を含む、裕福な人々の集う北側。ロベリアとベロニカの二人は、パーティを離れ街の南側へと訪れていた。

「人々が愛し合う目的で作られたこの街でしたら、ときめきの呪いをなんとかする方法も見つかるかと思っていたのですが、そう甘くは無いですか」

 ベロニカはロベリアの言葉に黙って頷く。そんな二人の前に突然男が立ちふさがる。ロベリアを庇うように前へ出たベロニカを見ながら男は言う。

「あぶねえよう、お嬢さん方、ここから先は今朝死体が見つかったって言って、なんかみんな騒がしいんだよう。街の警備団も来てるから、用がないなら近づかない方が良いんだよう」

「死体だと?」

 ベロニカの問におうと答え、男は続ける。

「何でもこの街の北側の男がよう、石で頭を割られているのが見つかったって話なんだよう」

「それは、まあ」

「まだ犯人は見つかってないからよう、ここは止めて他の道通れよ。東側に行く道なんて、南側を通らなくてもいくらでもあるからよう」

「御忠告、感謝する。ロベリア様」

「そうですね、これ以上ここで何か情報が手に入るとも思えませんし」

 頷き、二人は男に礼をして東側へと歩き出す。暇になってしまいましたね、とロベリアは微笑む。

「今からでも彼らと合流いたしますか?」

「どこに居るのかもわかりませんし、とりあえずこの街を見て回りましょうか。待ち合わせ場所もわかっていることですので」

「それでは、御手をどうぞ、ロベリア様」

「あらあら」

 ロベリアが、エスコートしようと言うベロニカの手を握る。ベロニカは一度悲しそうな目でその手をちらりと見てから歩き出した。



「私がキクリ・マツバ様の侍女に御座います。ご案内いたしますので、どうぞ後をついて来てください」

 そう言ったメイドの後をついて行った三人は、案内された扉を開き室内へと入る。室内には布団が敷かれ、そこに一人の少年が仰向けに寝ている。

「キクリ様」

「――――」

 メイドの声に、少年が反応し何かもぞもぞと口を動かす。はいと頷いたメイドは、そのまま三人の方に一礼して言う。

「久しぶり、元気そうで何よりだよ。とキクリ様は申されております」

 その様子に面食らったような顔をするエーデルワイスの横でギリアが苦笑する。

「お前も相変わらずじゃないか。未だにここで働いてるのか?」

「――――」

「寝っ転がっているだけで相手が勝手に満足して帰っていくから、楽な仕事なんだよ。とキクリ様は申されております」

「伝わってるの!?」

 エーデルワイスの驚愕の声にメイドは一礼する。

「もちろんに御座います。私にはキクリ様が何と仰られたいのかを理解する事が出来ます。なになに。何を当たり前なことを言うんだそこののっぽは、男のシンボル引っこ抜くぞ、と申されております」

「嘘だよねそれ!? っていうか僕は女!」

「――――」

「ッハ! 貧乳かよ。貧しいなあ。と申されております」

「ぐっ……」

「この後のキクリ様のご予定は埋まっているのかしら?」

 ベルギアの問に肯定の意味としてメイドは頷く。

「はい。当分の先までご予約で満杯です。……僕のお腹も当分は満杯かな、と申されております」

「貴女はこの人をどういうキャラにしたいの!?」

 エーデルワイスのツッコミに笑った後、ギリアはキクリに向けて言う。

「オレは明日までこの街に居るけど、なんかオレに言っておくこととか無いか?」

「――――」

「街道先のお城がゆっくりとだけど移動している。嫌な気配を感じてるから、一応注意して、と申されております」

「相変わらずお前は敏感なんだな。了解。おい、これからどうする? オレはこのまま適当に街をぶらつくけど」

「私も一人で遊びに行こうかしらぁ」

 二人の意見にエーデルワイスは考え、そして言う。

「僕は出来れば、もう少しキクリ様と話しがしたいかも」

「――――」

「まあ、次の予約までなら付き合わないことも無い。と申されております」

「あら! じゃあこの貧乳じゃなくて私と遊びませんかあ? キクリさm」

「ほら行くぞベルギア」

 ちょっと首を掴まないでよう、と言いながらフェードアウトしていく二人を見送った後、エーデルワイスは布団に並ぶ二人に視線を向ける。

「さて、もしもご存知でしたらどうか、大罪人『憤怒』について教えていただきたいのですが」



「さてと、すっかり日が沈み込んじまったけど、どうするかな」

 ギリアは人ごみの中、一人呟く。この街は夜になってからが本番なのだ。これから今までよりも一層賑やかになっていくであろう街並みを眺めると、妙な少女を発見した。真っ白い装束に身を包んだ黒い髪の少女が不安定な足取りで杖を突きながらこちらの方向へと向かってくる。行き違う人々に当たりそうになっている。

「危ねえなあ」

 人ごみに押されバランスを崩した彼女を見て、とっさに手を伸ばして腕を掴んでいた。近くで顔を見てみると良くわかる。大きく目隠しをされたその少女は、ゆっくりとした動作でこちらを見上げると、見えている口元で笑みの形を作った。

「ありがとうございます」

「おう、気を付けろよ」

 そう言うと、彼女は何か変な物でも見てしまったかのように首を傾げて、ギリアに向かって言う。

「あなたは、男性ではないのですか?」

 その一言にギリアの心臓が跳ね上がる。つい力強く少女の両肩を掴んでしまい、少女は痛みに顔を歪ませる。

「あ、すまん。けど、今のどういう意味だ!」

「ええと、どういう意味も何も、そのままなのですが」

「どうして、オレは女の体なのに」

「ッ!? そうなのですか? どうしましょう、見誤ったのなんて初めてです」

 そう言って少女は目隠しされた自分の両目に手を当てる。

「私はその人の魂の形でその人を判断できるのですが……性転換の宝具でも使われたのですか?」

「いや、生まれた時からこの体だ」

「……なるほど……。そういえば、自己紹介がまだでしたね。あなたに興味が出来てきました。どうでしょう、そこらへんのお店で食事でも。私は周りの者に『麗しの君』と呼ばれています。あなた方のように名前は持ちませんので、どうぞそう呼んでください」

 ……麗しの君って人の呼称だったのかよ。

 昼間見た青年に謝りながら、ギリアは心の中で一人ツッコんだ。




ダチュラから伸びる街道の上を低速で進む城の中。玉座の間に一人の少女が座っている。彼女は自分の持つ盃を傾けると、中に入っていた液体を床に転がす。

「さあ、時は満ちたわね。傲慢の男が動き出した今、わたくしもうかうかしていられないもの。出なさい、色欲部隊」

 はい、と少女の声に返事をした人間たちは一様に跪く。

「あの街は歓楽街なのだし、貴方達にぴったりの舞台でしょう。わたくしたちの城の到着は明日頃になるわ、だから先行して、思い切り暴れておいでなさい」

 そのまま彼女は、玉座の間の窓から見えている街道の向こう側に手を向ける。

「わたくしは『強欲』。此度欲するは大罪人『怠惰』が持つ大罪宝具『怠惰のベルフェゴール』こと『ベルフェゴールの便座』。……フフフ、すごい名前よね、便座って」

 お腹を抱えてひとしきり笑った後、少女が続ける。

「形状は円形のメダルの様なものらしいわ。まあついでに怠惰の大罪人も連れてきなさい。あとは貴方達の自由とするわ!」

「ハッ!」

 了承の声が部屋中に木霊する。その声を聞きながら、少女は杯の中身を大きく仰いだ。




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