ふんさいっ! Konara Angle 9/20 14:05
誤字脱字等有りましたら指摘お願いします。
「私の嘘の為に死んでくれないかな?」
鞠藻は殺したつつじと、何かを殴りすぎて、凸凹になった金属バットを引きずりながら、私に一歩、一歩、詰め寄って来ます。
「どうして、わたしが、鞠藻の嘘なの?」と言おうと口を動かそうとしましたが動きませんでした。そんなことを言う前に“逃げる”という選択しを選び、走って逃げれば良かったのに、できませんでした。
何もできませんでした。
体が動かせません。恐怖で体は震えるのに、その場に座ることも、倒れることもできません。公園とかでよく見る銅像みたいに、雨ざらしのまま、逃げられずに立ち尽くしています。
これが――鞠藻の能力。魔女になった者の力。
「死んでよ」
鞠藻は、ここまで引きずっていたつつじが、邪魔になったのか、その手を離し、捨てました。つづじは重力に負け、べちゃっと水と血の上げ、アスファルトの上に落ちました。
「死んでよ。壊れてよ」
私は横目で、鬼灯さんの姿を探しました。無意識に助けを呼びたかったのでしょう。鬼灯さんは一生懸命にコントロールの利かない体を動かして駆けつけようと、顔を歪めながら、鞠藻を睨んでいました。
「粉々に砕けて、消えてよ」
ついに、鞠藻は私の目の前まで来ました。この距離でバットを振れば間違いなく、私に、当たり、粉々になります。
私は近に来た鞠藻の顔をみました。無表情、目は何も入っていないかのように虚ろで、どこを見ているのか、分からない、死んだような目でした。
鞠藻はどうして、こうなってしまったのか。私にはその鞠藻を壊れさせた原因が分かりませんでした。
いえ、本当は分かっていたのかもしれません。ただ自分はそうさせたと思いたくなかったから、そう分からないフリをしているのでしょう。鞠藻の為を思って私が行動した事が、鞠藻に対してどんな効果を産むのか、憶測でしか考えられないのです。それも、良い方向だけの、プラス思考で。
だから、訊きたかったのです。合っていたのか、間違っていたのか、ただの余計なお節介だったのかを。
最後の、言葉を。
私は知らず知らずに口を動かそうとしていたのか、
「どうしてなの?」
と、呟やけました。掠れた声でした。それくらいの小さくて、大きな疑問でした。
鞠藻は一瞬、私が話せた事に驚き、一拍置いて言いました。
「…………。全部、嘘だから。私が思っていたこと、大切だったもの、全部が、悪い、嘘だから」
「違うよ……」と今度ははっきりと言うことができました。鞠藻が私に喋ることだけ、許してくれたような、そんな気がしました。
「だって、私は、こんなにも、嘘つきで、卑怯者で、挙げ句、自分にまで嘘ついて、生きているんだ! こならちゃんとつづじがつき合うことになったって言ってくれた時も、さっき、こならちゃんが、つづじと遊ばなくちゃ、つづじに怪しまれるって思って電話してくれたときも、私は。こならちゃんを殺したい程、憎んだの! 全部嘘だって! 全部私に嘘ついているんだって、思っちゃったの! そう全部包み隠さず嘘偽りなく話してくれた、優しいこならちゃんを、私は、そう悪く考えていたんだ! これも、全部私の悪いところのせいなんだ! 嘘ついて、汚れているから、こんなことしちゃうんだ!」
だから、全部、壊して、私も死ぬの。
――と鞠藻は声を振るわしながら、言いました。
鞠藻は、自分自身の黒く嘘に染まってしまった心を、“汚くて悪だ”と思っているのでしょう。自分以外の人は、あんなにも綺麗で、誠実な心を持っているのにと、人と比べてしまうのでしょう。その白さに憧れて、黒く染まったその心をどうにかして、綺麗で誠実な心に変えようと足掻いて、壊して、また黒く染まってゆく。その悪循環の中で、自分が壊れてしまっていることに気づいていない。だから、こうやって、全部壊せば、真っ白に綺麗になると思い違いをしてるのです。
壊せば無くなります。何もかも真っ白になります。
でも、それは、綺麗で、誠実では、ないのです。
私は鞠藻にいいました。
「違うよ。誰だって、そうやって嘘ついて、騙して生きているんだよ。わたしだって、鞠藻みたいに、正論を言っているのに、こいつ嫌だなーって、そう思うときだってあるよ」
間違っていることを教えてあげなくちゃ、
「確かに、わたしだって、鞠藻に嘘ついたことだって、沢山あった。自分に嘘つくことだって何回もあった。逆に、わたしは、今まで、鞠藻が嘘ついているなんて、正直、可能性としては、思ったことはあったけど、疑ってはいなかった。そんなことを思うわけないって、鞠藻がそんなに性格が悪くはないって」
このままだと、絶対に、私たちは、
「みんな、清く正しく生きているように見えて、実は真っ黒なんだよね」
すれ違って、
「誰だって嘘ついて、生きているんだよ。そうしないと、生きていけないんだって、壊れちゃうんだって」
友達でいられなくなる。
「みんな、すんごく、汚いんだよ! うまく化粧して綺麗に隠して、正しいって事にして、騙し騙し生きているだよ! そうしないと、そうしないとっ!」
鞠藻は俯いていました。
私はゆっくりと近づいて、雨に濡れてさらに冷たくなった鞠藻をそっと抱きしめました。
「自分に嘘つかなきゃ、こんな世界、誰だって、生きてなんていけないないんだよ」
それを原因にしちゃ、駄目だよ。
鞠藻は、声に出して、泣き始めました。雨よりも重い粒が、ポタポタと落ちていきました。
カラランっとバットが鞠藻の手から離れて、アスファルトに落ちたおとがしました。その離れた手は、私の背中の方へ動き、両腕で、ぎゅっと抱きしめられます。
「こんな嘘つきでも、生きていていいのかなぁ? いっぱい悪いことして、いっぱい壊して、傷つけた私でも、こんなに汚れた私でも、生きていていいのかなぁ?」
私は、優しくいいます。
「いいんだって、生きていて、償えば」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」と鞠藻は泣きながら、私にいいました。
「それは、わたしに言うんじゃないよ」
そう鞠藻をなだします。
急に雨がやみました。ふと横を見ると鬼灯さんが落とした傘を拾ってを差しててくれてたようです。「ありがとうございます」と鬼灯さんにお礼をいうと、「もう少しだけ、待っててやる」と返してきました。鬼灯さんは魔女の鞠藻を捕まえるのを少しだけ待っててくれるみたいでした。
「鞠藻は、本当は助けて欲しかったんじゃなくて、許して欲しかったんだよね」
この嘘つきで汚い、汚れが落ちることがない自分を、助けて欲しいのではなく、そのままの姿で、受け入れて欲しかった。
鞠藻はわんわんと泣きました。ごめんねと何度も何度も言いながら。
別に、そんな事を心配しなくても、良かったのに。
†
「さあ、お待ちかねの破滅の時限爆弾が、爆発するわよ」
†
ぐうぅ〜。
誰かのお腹がなる音がしました。
「……お腹、すいた」
「え?」
泣いていた鞠藻が鷹揚のない声で言います。ぞっとするくらい冷たく、聞こえました。
「っ!?」
近くで傘を差していた鬼灯さんは、私に抱きついて泣いていた鞠藻を私から引き離して、アスファルトに押し倒しました。
その奇行に対して、私は鬼灯さんに怒鳴りました。
「鞠藻に何するんですかっ!?」
「やばいからだっ! さっさとこいつから逃げるぞっ! 早くしないと――」
支離滅裂になりながら、差していた傘を捨て、私の手を掴んで一刻も早くこの場から、鬼灯さんは逃げようと走り出しました。私は振り返って倒れている鞠藻の顔をみました。
急に鬼灯さんが止まりました。私もその場でぴたっと止まりました。また動けません。
鞠藻が笑っています。それはどこかで、見たような、満面の笑み。
あ、そうだ、思い出した。さっきの私を襲おうとした魔女が笑っている時と同じだ。つまり――。
鞠藻は徐々に私に近づいて来ました。つづじと落としたバットには脇目もくれず、私の前まで来ました。
そして、躊躇うことなく、“魔女”は、私の首に手を掛けました。