#40 罪の詳細
ばあちゃんが、そんなすごい人に気に入られていたなんて。
正直、ばあちゃんが罪を犯していたということより、こっちの方がびっくりしてしまった。だって、ばあちゃんは口が悪くて、凶暴で、優しいところもあるけど厳しい。そんなばあちゃんが、神である創造者に気に入られているなんて、全く思えなかった。
「というか、ばあちゃんが犯した罪、何一つわかんねぇんだけど。てか、聞いたことない」
「そりゃそうですよ。この罪を犯した人は片手で数えられるほど、そして世に公開される前に“居なかったこと”にされてるんですから!」
「それは……殺されてるってことでいいのか?」
メイベルは周りに花を散らせたままで、否定も肯定もしなかった。
「簡単におばあさんの罪を説明すると、まず“童話破片窃盗罪”。あなた方なら、破片と呼ばれるものが何かは分かりますよね?」
「……欠片か」
「ご名答」
ここに来るために一番必要だったものだ。ばあちゃんが何故か持っていて、製造元もその正体さえ分からない。童話の世界にいける魔法のようなものだ。
「破片と呼ばれたり、欠片と呼ばれたり、またはチケット、なんて呼ばれ方もしています。
童話の世界に行けるチケット。そんなものが簡単に手に入るものになってしまったら、事件の火種になることは間違いなし。そのため、全ての破片をこちらが管理していたんです」
「それをばあちゃんが盗んだのか……。でも、一体なんのために?」
そう俺が聞くと、メイベルは顔を下げ、言いにくそうに口を開いた。
「それが……こちらもよく分かっていないのです。おばあさんは破片の存在こそ知っていたし、破片が危険なものとも知っていたはず。そして、ワタクシたちにとっては使い道のないもの、とも。
それこそ、次におばあさんが犯した“童話介入”さえ、行動の意味が分かっていないのですが……」
電球の光を暗くさえ、メイベルは落ち込んでいるようだった。
そんな時。ふと、俺はすごく恐ろしいことに気がついた。
「も、もしかしてだが……俺らが使った欠片って、ばあちゃんが盗んできた……」
「いえ、おばあさんが盗んだ分はもう使い切っているはずです。各童話の世界でいくつもの破片を見つけていたんでしょう。あなた方が使ったのは、その分です」
青ざめていた顔に血色感が戻っていく感覚。本当に焦った。友達が人から借りたものを勝手に使ったのと同じってことだろ?そんな事してたら、罰を与えられても文句は言えまい。
「……って、お前何してんだよ!」
「ご存知ないですか?これ、魔法陣って言うんですよ。これを貴方の周りに書くことによって、転移魔法が使えるんです☆」
「…は?転移魔法って……」
俺の言葉には耳をかさず、メイベルは魔法陣を書き終えたのか、立ち上がって満足気な雰囲気を醸し出している。
次の瞬間、俺の周りに風が吹き始め、パチパチとキラキラしたものが光っている。嫌な予感がして、俺はその場から逃げようとした。
……が、もう遅く、視界が暗転する。
「……覗き見するくらいなら、話しかければ良かったじゃないですか。“レト”」
メイベルが誰もいない部屋で、ぽつりと呟く。すると、上のダクトからスタッと誰かが降りてきた。
「はあ?何言ってんだよ、メイベル。覗き見じゃねェ、偵察ってやつだ」
黒く癖っ毛の髪を揺らしながら、レトと呼ばれた人物は壁に寄りかかる。腕を組んで、低身長からは考えられないほど威圧感を感じる。
「ふぅん、まあいいですけど。どう思います?あの赤ずきん」
「さあな、興味ねぇ。まず、前提から俺はアイツらの罰則に納得いっていない。犯罪は犯罪だ。同じように罰さなければ、また新たな因縁が生まれる」
「それじゃあ、読者が死んでも良いと?」
「別に、管理館の奴らが面倒見ればいいだろ。なんであいつらに任せるんだ」
レトの言うことは正しい。その正しさゆえ、この変異対応部でも浮いていることが多いのも、また事実。けれど、メイベルはそんなレトの性格が特段嫌いという訳でもないので、一緒にいることが多い。
「あ、そこまで言うなら、いつも通り、あなたの望みの結末にすればいいじゃないですか!ここは童話管理館。正しい結末にするためには、現在の物語を変える必要がある。あなたの得意分野でしょう?
“結末改変”は」
「……まあな。今回はどこまで変えていいんだよ」
「部長からは、“好きにしろ”とのご命令が」
頭に浮かぶのは、あの仏頂面の女。いつも女王のように椅子に鎮座して、こちらを見下しているあの目。
考えているだけでイライラしてきたレトは、息を荒くして、メイベルに八つ当たりをし始める。
「はあ?なんだよ、“好きにしていい”って!ちょっと館長からいい評価貰ってるだけのニートだぞ!?くっ……考えただけであいつのイラつく声が頭に響いて……」
「今日も荒れてますねぇ」
このふたりの中が悪いのは日常茶飯事。今更、どうこう言おうなんて考えはメイベルに残っておらず、一歩離れたところから眺めているのが日課となっていた。
「いつか絶対、あいつを部長の座から引きずり下ろしてやる…!」
今日も今日とて、レトの中での決意は固くなっていた。




