#03 童話の世界
ヤンキー赤ずきんさんのおばあさんの家へと足を進めていると、どんどん赤ずきんの話が頭に浮かんできた。次のシーンは確か、赤ずきんとおばあさんに成りすましている狼が会話をするシーンだ。小さいながらに、こんな分かりやすい変装に気づかない赤ずきんは馬鹿なのでは無いかと思ったことがある。けれど、今回の赤ずきんはひと味もふた味も違う。ヤンキーだし、男だ。狼の変装に気づいてくれる事だろう。そんなことを冷静に考えていると、僕はある大切なことを忘れていた。
「おばあさん、食べられるじゃん…」
「あ?なんか言ったか?」
「何も…」
狼の変装の前に、おばあさんが食べられる事を忘れていた。どうしよう、今から走れば間に合うだろうか。でも、ヤンキー赤ずきんはここが童話の世界で「赤ずきん」という話の中だとも知っていた。ならば、おばあさんの事も承知の上なのだろうか。
「ね、ねえ。なんで、ヤンキー赤ずきんさんはここが童話の世界だって知ってたの?」
「その言い方だと、お前も知ってる奴みたいだな。オレはばあちゃんに言われただけだ。ここは童話の世界で、幕が下りるまで演じ続けなきゃいけないって」
そっか、おばあさんも知っていたんだ。でも、演じ続けなきゃいけない……なら、おばあさんは食べられるという結末を受け入れているのかもしれない。それでいいのかな、そうは思っても僕に出来ることなんて、何も、、
「でも、こうも言われたな。誰にも見られてないなら、演じなくてもいい。自分の好きなようにしろ。と」
「ワイルドなおばあさんなんだね」
「だろ?オレの母さんもばあちゃんに似て、すげえ凶暴なんだよ」
そんなお母さん達を思い浮かべたのか、顔を青くして赤ずきんさんは身震いをした。けど、今の話を聞いて少しの可能性も見えてきた。もしかしたら、誰にも見られていないという事を上手く使って、逆に狼をなぎ倒して赤ずきんを待っているかもしれない。
「おばあさんの耳はなんでそんなに大きいの?」
「お前の声をよく聞くためさ」
という名シーンが無くなってしまうが、人の命には変えられないだろう。
「おい、そろそろ着くぞ。気合い入れろ」
「え、気合い……?」
なんでおばあさんの家に行くだけで気合いがいるのだろう。普通のおばあさんなんだよね?ボディビルダーみたいにムキムキのおばあさんが迎え入れてくれる、なんてことないよね?そんな風に考えていた僕は後々後悔をすることになる。おばあさんの心配をしていた自分が馬鹿馬鹿しくなる程に。