#01 知らない赤ずきん
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「お前、この花畑で呑気に寝るなんて、どうかしてんじゃねぇの?」
パチッと目を開けると視界いっぱいに広がった赤い頭巾を被った少年。ポカン…と数秒固まった僕を怪しい奴を見るような視線で見てきた。失礼な奴だな…。そんなことを置いといて、目の前の奴の容姿が気になった。見覚えのある赤い頭巾に、ブラブラと揺らされているお菓子とぶどう酒の入ったバスケット。もしかして……
「赤ずきん?」
「ああ、まさしくオレが"赤ずきん"だが?てか、今どきその名前で呼ぶやつ居ねえぞ」
呼ぶやつが居ない…?確かに、僕の知ってる赤ずきんは小柄な女の子だ。でも、今 目の前にいるのは、
「男の…赤ずきん?」
「さっきから質問責めかよ…。確かに、こんなにキュートな顔なら性別が分かんなくても無理はねぇな。一応、狼一人はなぎ倒せる程の力を持った男だぜ」
小柄な見た目からは想像できないほどの口の悪さで、頭がバグりそうだ。とりあえず、目の前のヤンキー赤ずきんにここはどこなのか聞いてみよう。
「ここはどこ?」
「はあ?お前、ここで寝てたのに、どこかも知らねえのか?」
残念ながらその通りだ。僕はベッドで寝ていたつもりで、こんな花畑で寝ていたつもりは無いのだ。目を開けると目の前にはヤンキー赤ずきんがいるし、正直なんでこんなことになっているのか分からない。だから、唯一会話のできるヤンキー赤ずきんさんに話しかけているというのに罵られて、堪忍袋の緒が切れるのも時間の問題だ。
「まあ、責め立てたところ悪いが、別に何も無い村なんだけどな。母さんがばあちゃんに花積んでいけって言うから寄っただけで、普段は近づきもしねぇし」
なるほど、今は赤ずきんがおばあさんの為に花を積むはずだったシーンだ。僕というバクが起こったせいで花を積むどころじゃ無くなってしまったのだけれど…。
だけど、こんな摩訶不思議な状況でも分かったことがいくつかある。
まず1つ目、ここは童話の世界で僕はピンポイントに「赤ずきん」の世界へ来てしまったようだ。
そして2つ目、赤ずきんの世界だとしても僕の知っている赤ずきんじゃなくて、赤ずきんは男だしヤンキーだった。
そんな風に色々と考えている僕を見て、言い忘れていたとでも言うようにポンッと手を叩いてある事を伝える。それは今までの僕の考えを覆す一言だった。
「そういや、言い忘れてたわ。ここは"グリム童話"の世界、そしてオレは赤ずきん。本名は、ケイト・ディファレンス。よろしく」
そう言って、花畑に座り込んだままの僕に手を差し伸べた。