#09 欠片
「と、言うわけで」
「何が“と言うわけで”なんだよ!」
話を遮って騒ぎ立てる狼男を睨みながら、自分の耳を押さえる。
結局、狼男は最後まで駄々を捏ねていたけど、自分の立場が悪くなると思ったのか、ヤンキー赤ずきんさんに折れたようだ。
赤ずきんによると、色んな童話の世界を旅するんだとしか言わなくて、なんで急にそんな提案をしたのかと聞いても、答えてはくれなかった。
「ケイト……あんたゴリ押しねぇ笑」
「うるせぇ!!」
「よし、アンタらに童話の世界の行き来の仕方を教えておこうかね」
歩くだけではこの童話の世界を旅することは出来ないようで、その童話の世界の"欠片"と呼ばれる物を見つける必要があるみたいだ。
おばあさんは本当に色んなことを知っているようで、この世界にも沢山の欠片が落ちているんだと話してくれた。
あ。勿論、ヤンキー赤ずきんさんや狼男はどんな童話があるのかは知らない。それは僕とおばあさんだけが知っている事だ。
ちなみにどんな所に欠片があるのか聞いてみたが、結構分かりやすくそこら辺に落ちてたり、誰かの所有物になっていたりするらしい。
「欠片は童話によって姿形を変えて現れるんだ。それも、突然ね」
「なんで婆さんはそんなに詳しいんだよ。そんなの誰でも知ってる情報じゃねぇだろ?」
「アタシは選ばれたんだよ、創造者って奴に」
『創造者……』
ヤンキー赤ずきんさんと狼男はおばあさんの話を聞きながら凄く考え込んでしまった。
それもそうだろう。急に創造者に選ばれた!なんて言われて戸惑わないやつは居ない。
それでも、嘘をついているようには見えないし、今嘘をつく理由がない。
『創造者』……作り出す人。または宇宙や万物を創り出した神なんて呼ばれていることもある。
この童話の世界で創造者と呼ばれている人なんて、あの人達しかいないだろう。
“グリム兄弟”
グリム童話として各地に伝わる民話を収集し、まとめた人達。
各物語の作者はいれど、グリム童話の創造者と言ったら、この人達だ。
そんな人達に好かれている…。
おばあさん、本当に何者なんだ。
「アンタら、どんな童話に行きたいとか希望はあるかい?」
「別に、オレら以外の童話を知らねえから希望も何もって感じだぞ?」
「そうねぇ…じゃあはじめに聞こうかしら」
急な名指しにビクッと跳ねてしまった。童話、童話……何がいいんだろう。
有名なのだとシンデレラとか白雪姫、人魚姫ら辺だよね。
でも、やっぱり子供の時夢だった…
「ヘンゼルとグレーテル…かな」
お菓子の家なんて子供の夢じゃないか?
少なくとも、僕は小さい頃お菓子の家って言葉が、凄く魅力的に見えた。
「可愛らしいのを選んだわね。よし、それじゃあ…」
「ちょっと待てっ!」
風を切るようなヤンキー赤ずきんさんの大きな声に、全員の視線が集まる。
「何も言わずに旅に出たって母さんが聞いたら、オレ……殺されるぞ?」
何をやってんだ??とすごい目力で見られ、狼狽える。
「とりあえず、一旦家に帰る。いつ出るかの話はそれからだ」




