エルフっ娘たちはいつまでも
「ねえラルちゃん、今日なんの日か知ってる?」
「んー、デザートの日か?」
「違うよっ!」
今日は私にとって大切な日、私が産まれた日だ。それだってのにラルちゃんは…そんなことも忘れちゃったのかな。
私はラルちゃんや、ミントちゃん、ロアちゃんの誕生日、一度たりだって忘れたことないのに。
私はなにも覚えてなさそうなラルちゃんの表情を見ると、本当に覚えてないのかなと頬を膨らませてみたり、舌を出してみたり、周りをくるくると回ったりしてラルちゃんの反応を待った。
「急にどうしたんだよラクア…」
まあ当然こんな反応だよね…。
苦笑いをしながら私を見てくるラルちゃんを見て私ははぁ…とため息を吐くと、みんながいるであろうリアムの部屋へと向かった。
ラルちゃんもそのあとを首をかしげながら追ってくる。
「リアムも今日が何の日かわからない?」
「あぁ?デザートの日だろ?」
デザートの日か…。そうか、デザートの日…ねぇ。
いやいやいやいや、私の誕生日でしょ!!デザートの日なんて一度も聞いたことないよ!!初耳だよ!!そんな日あったんだね…何度でも言うけど初耳だよ!!
笑顔、そして無言でリアムを見つめる。だが、リアムから発せられる信号は(?)の信号だけだ。
こりゃもうだめだ。リアムのために用意したものもあったけど…、もう怒ったよ。
「おいラクアっ…」
呼び止めようとするラルちゃんを無視して外へ飛び出す。
外は雨が降っていて、まるで私の今の心情をそのまま写しているようだった。いや、そんなこと全く思ってないけどね、濡れるの嫌だから早く止んでほしいのが本音だよ。
「お、ラクア。今日はデザートの日なんだってさ!ボクもうデザートのことで頭いっぱいで…ってどしたの?」
「な、なんでもない…。ロアちゃん、デザートの日…楽しんで」
ロアちゃんにまで…。
くそうデザートの日め…私を貶めようとしたって、そう簡単に負けはしないんだから。
デザートの侵略に負けるほど私の精神はガラスじゃないんだよっ!!
私はぬぐぐ…と声を出しながら頭を悩ませる。
「やっぱラクア変だって。何と葛藤してるのさ」
「ロアちゃんにはわからない…強大な何かと…だよ」
「きょ…強大な何かだって…!?」
私の本気の目を見たロアちゃんは驚きを隠せない様子だ。
だってそうだろう、私が本気な表情をすることなど滅多にないしね。超レア。激レアだしね。
うろたえたロアちゃんを置いて、私はロアちゃんに背を向ける。
「もしかしたら、今日が私の最後の日になるかもしれない」
「ラク…ア…?」
いや、死ぬつもりなんて全くないんだけどね。こう言ったほうが感じでるからさっ!!
正直話が壮大になりすぎてちょっと焦ってるのは内緒で。
「そういえばロアちゃん、ミントちゃんと一緒にいるの珍しいね」
話を逸らすため私は話題を変える。
「んー?そうかな?リアムの家に行く途中でばったりあったんだよ」
「あ、あっただけ…です〜」
んん?ミントちゃんの様子がおかしいのが気になる。
思えばずっと無言だったのも変だよね。いつものです〜です〜が隣から聞こえてなかったんだよ。
「ミントちゃん…、何か隠してるよね?」
「あー、えぇーと、ボクたち急いでるからさ、じゃーねラクア!」
ロアちゃんが邪魔をするように間に入り、そのまま逃げるようにしてその場から去って行った。
それはあっという間の出来事で、ロアちゃんとミントちゃんはあっという間に私のいる場所から離れていく。
それにしても…、ミントちゃんといいロアちゃんといいあの反応…。
まさかサプライズハッピーバースデー!?
私の中で1つの可能性が芽生える。
もしそうだったとしたら、今までのみんなの反応全てに説明がつく。
いやー、どうしてそんなありきたりなドッキリにきづかなかったんだろーなぁー。ちょっと恥ずかしくて鼻水でそう。
ミントちゃんが嘘つくの苦手だから、喋らないよう言い聞かせていたのかもしれないことくらい、考えればすぐにわかることだったのに。
「そうと決まればもう一度リアム宅へ帰らなければ…、私のハッピーバースデーももうすぐだっ…!」
私は心ウキウキワクワクになりながらミントちゃんとロアちゃんのあとを追う。
追うと行っても行き場所は同じだし、見失ってもいいんだけどね。
ロアちゃんとミントちゃんが家の中は入って行ったのを確認して、私もあとから家の中へ入る。
どうやら2人ともまだ気づいていないようだ。
「こうなったら逆に驚かせて…あげちゃおうかなっ!」
みんながリアムの部屋に入っているかどうか確認するため、一応周りをキョロキョロと見渡す。
よし、辺りには誰もいない。
私は驚かすことを決心すると、ゆっくり…ゆっくりと、リアムの部屋へ向かって移動して行った。
何やら話し声が聞こえる。どうせ作戦の確認か何かだろう…。全くもう…手の込んだサプライズしてくれちゃってさぁ…、私がその程度で嬉しがるに決まってるでしょバカやろー!
さあ、主役の登場ですよっ…!!
私はドアに手をかけ、勢いよく開いた。
「「誕生日おめでとうリアム!!」」
「ありがとーみんなぁ!!…ってあ…れ…」
その場にしんとした空気が流れる…。
もしかしてこれ、本当に忘れ去られてた…のかな…。
みんなと目が合い…恥ずかしさと悔しさが混ざり合って…、何とも言葉にできない気持ちが湧き上がってくる。
それに耐えきれなくなった私はその場から飛び出し、乱暴に扉を開け、外へ駆け出した。
もうみんななんて嫌いだ。初めてそう思った瞬間だった。
「まって!!まてラクアぁ!!」
ふと、リアムの声が耳に届き、私は脚を止める。
「リアム…」
「何勝手に入ってきてんだよ…サプライズ…失敗しちゃったじゃねえか…」
空から大きな音が聞こえる。
何事かと空を見上げると…そこには沢山の花火があがっていた。
色鮮やかな様々な光が地面を照らす。炎、水、風、様々な魔素が混ざり合い、ぶつかり合ってできたこの現象は、芸術的…その一言だった。
私は、考えていたこと全てを投げ出し、空を見上げる。
綺麗だ…心からそう思った。
「本当は夜見せたかったんだが…、昼間から見る花火だと物足りないしな…」
家の中から出てきたラルちゃんは、そう言いながら少し申し訳なさそうな顔をしていた。
「綺麗…綺麗だよ。ありがとう…ラルちゃん、みんな…」
「な、何本気で喜んでるのラクア…。ラクアらしくないよ…?」
ラルちゃんに続くようにして出てきたロアちゃんがそう言い、私の頭を撫でた。
花火ももう尽きてきたのか、最初の勢いがなくなり、だんだんと数が少なくなってくる。
「私やっぱりみんなが好きだ。会えてほんとに良かったって今心から思ってるよ…」
最後に大きな花火が上がり、【空に誕生日おめでとうラクア!】と巨大な文字が現れた。
こんな盛大な誕生日プレゼント、この村じゃなかったらきっとできなかった。魔法の使い方もそうだけど、この村じゃなかったら花火の許可なんて出ないだろうし。
この村に産まれて本当によかった。
「魔法の使えない落ちこぼれエルフだけどさ…、こんなに…幸せに暮らせるなんて。今思えばありえない話だよね」
「何言ってんだ…、魔法が全てみたいなこと言うんじゃねーよ」
リアムがいつもより強い口調で言い、私の後ろに立つ。
「みんなが仲良くなれたのも全部ラクアちゃんのおかげです〜」
いつのまにか隣に座っていたミントちゃんの言葉に、少しの間なんて返せばいいのかわからなくなった。
「これからも…これからもずっと友達…だよね?」
ふと口に出た言葉がこれだった。
「当たり前だ」
「もちろんだ」
「ボクも、もちろんだよ」
「です〜!」
みんなの返事にフフっと笑みが零れる。
それと同時に少し、涙もこぼれた気がした。
気づいてないかな?気づいてないよね。恥ずかしいから気づいてたも気づかなかったふりしてくれたら嬉しいかな。
私は再び空を見上げる。
花火が終わり、いつもの青空が空いっぱいに広がっている。
…私はこの村が好きだ。村の人たちも好きだ。
この村にあるもの全てが好きだ。
これからもここで暮らしていく。特に変わらない日々が続いていくだろうけど、それでいい。
みんなと遊んで…新しいこと思いついて…沢山遊んで…遊んで遊んで…
そんな毎日が、幸せなのだから。
ありがとうございましたm(_ _)m