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上陸

 本土から太平洋よりに数百キロ離れた絶海の孤島「鬼哭おになき島」で事件が発生していた。

 ここでこの島の所有者であり、豊三重工の名誉会長である豊三隆源(とよみつ・りゅうげん)が島にある隠居先の館で死体となって発見された、と衛星電話で連絡を受けた会社から警察に通報がありBCSIに出動命令が下った。事件に魔法が絡んでいる可能性があったからだ。

 しかしこの島は今強力な低気圧の下にあり船、航空機で向かうことは不可能だった。

 だが運良く魔法陣を利用した転送ゲートが館の隣にある温室内で発見され、二人はそれを利用して島に向かうことになった。島の方にも魔法使いがいるらしく双方からの魔力誘導で転送が可能であると確認されたからだった。しかし、魔法は周囲の森羅万象の影響を受けやすく、今回も低気圧の影響でゲート使用は一回のみ、しかもその二人を送り込む時間程度しかゲートを維持できないらしい。

 二人のみで否応なく事件現場に送り込まれる事になったのは、ここで華々しい実績を上げておきたいとの上層部の意向があった。

 魔方陣による転送魔法は成功し、二人は一瞬で嵐の渦中にあるこの島にやって来た。

 美しい花々に取り囲まれた魔方陣の真ん中に二人は立っていた。

 そして目の前にはシルバーグレイの髪をオールバックにした鷹のような鋭い目の執事が待っていた。

「お待ちしておりました」

 執事は静かに一礼して二人を迎えた。

 元々ここも花壇だったらしい。つい三日前、魔法使いであるメイドが主人の命令オーダーにより隠された魔方陣を見つけ出し復活させたのだ。

「静かね。外はあれほど雨風が荒れ狂っているのに」紅夏は温室のガラス越しに嵐を見ながら言った。館の庭に植えられている木々の枝が今にも引きちぎれそうなほど風雨に振り回されていた。しかしここには小さくヒューヒューと風切り音が小さく聞こえるのみであった。

「ここは台風の通り道なので、ベースの鉄骨構造は通常のものよりも強固なものになっております。ガラスも対物ライフルの直撃すら耐える防弾ガラスを使用しておりますから、アメリカのタイフーン級の台風でも大丈夫だと聞いております」

「おれの家よりも頑丈に出来ているというわけね」時郎は小さくため息を付いた。

「ところでこの魔方陣はなぜ花壇の下になっていたのですか?」と紅夏が尋ねる。

「さあ、分かりかねます。私はこの事については先任者から何も聞いておりませんので。私は十五年前からお仕えしている二代目なのです」

「ではなぜ今になって掘り出したのでしょうか?」

「私見ですが、ご主人様はこうなる事を予見されていたのかもしれません」

「自分が殺されることをですか?」

「それ以後に起こることに関しても、です」

「だとしたら、御大は大預言者だな。でなければ恐るべきゲームプレイヤーだよ」と時郎が独り言のように言った。

「え?」紅夏は時郎の言葉を理解できず首を傾けた。「それはどういう事?」

「ではご案内しますので、従いて来て頂けますか」執事の耳には時郎の言葉が聞こえていなかったらしく先導するため歩き出し、時郎もそれに従って歩き出してしまったので紅夏も答えを聞く間もなくそれに従った。

 執事に先導され温室から本館に向かっていた。その間執事が二人に簡単に事件前後の事柄について説明を始めた。

「二日後。つまり事件があった昨日の午後ですがその修復が完了したのです。その時ご主人はそのメイドを自室に呼びつけて今後の指示を与えていたようです。その事をいくら問い詰めても一切答えないのです。全てはご主人様の意志のままに、との一点張りで」

「そして事件が発生したと」時郎が会話を誘導する。

「はい」執事は冷静に答えた。

 本館に入ると一階の廊下に出た。左右に扉があるが応接間と大小の食堂が一部屋づつ。バーとビリヤード台や遊戯具を置くを置く娯楽室があるらしい。そしてこの廊下を反対側にまで行くと厨房と洗濯室、地下のワイン貯蔵庫へと降りる扉がある。その間を分割するように玄関と裏の庭園に出るための扉へ継る廊下と直角に交わっていた。直交する場所はホールになっていて二階ヘ続く階段がある。階段はアールデコ調の鉄製のそれが緩やかな螺旋を描いて上へと伸びていた。

「二階が客間になっております。そして三階が主の書斎と図書室、そして寝室となっております。そして脚のお悪かった主人専用のエレベーターがございます。

 もうお使いになる主人もおりませんので、エレベーターで参りましょう」

 一階のエレベーター扉はホールにあった。

 三人がエレベーターに乗り込むと執事は二階のボタンを押した。

「二階?三階ではないのか?」時郎は不審に思い口にした。

「主は客間の一室で殺されております。しかもそこは扉の鍵を数年前に無くしたまま施錠の出来ない部屋として放置されていたのです」

「それで不可解だと思われる点とはなんでしょうか?」今度は紅夏が執事に尋ねた。

「閉じられない部屋が閉じられているのです」

「扉が閉ざされていると。内側から施錠されたとか」と紅夏。

「いいえ。客間は内側からロックできないのです。主の命でそう作られています」

「ここにはプライバシーがないのか」ふたたび時郎はため息を付いた。

「誰かが鍵を見つけたとか。それで…」紅夏がそう言いかけて執事に遮られた。

「誰かが主を殺して外から施錠したと。何のためにでしょうか?」

「逃げるための時間稼ぎ、とか」

「紅夏それはない」と時郎。

「どうして?」

「この島自体が今天候のせいで密室化して犯人すら逃げられない。僅かな時間を稼いだ所でどうなるものでもないだろ」

「ああ。そうかも」

 エレベーターが二階に到着し両開きの扉が開くと、数人の男女が待っていた。

「この人達は?」紅夏は執事の顔を見て答えを求めた。

「豊三家の一族の方々です」執事は外の人々に軽く一礼してエレベーターから出た。二人はその後に続く。

「この二人が刑事さん?」扉の一番近くにいたアラサー世代の派手な色柄のドレスを着た女性が、二人を見定めるように足から順に上へと舐め回すように観察している。彼女は次女である。二年前に離婚してシングルマザーになり七歳の娘を一人で育てていた。

「へえ。どっちが魔法使いなの?」

 やる気のない濁った目をした小太りの二十代前半の青年が三男。国立大学の受験に五回失敗してもまだ浪人中である。

「ふん。公僕ごときに何が解決できる。こいつらも所詮税金泥棒の仲間さ」

 辛辣な言葉と視線で威嚇しているのは次男。三十代後半の無職。数年前にIT企業を立ち上げたが株のインサイダー取引が発覚して逮捕されて以来、警察に逆切れ的な憎しみを抱いていた。服役後帰宅してみると、婦人がかつての会社の部下と不倫していた事を知り離婚したためさらなる憎しみを抱いていた。

 よって現在独身。高校生と中学生の二人の子どもは夫人に押し付けた。

「お三人様のみですか?ご長男様とご長女様は?」執事が誰に聞くとなく尋ねた。

「あの二人は居間にいるわ」と次女。「扉を開けても死体があるだけだし、死体を問い詰めても黄金の在り処は分からないから検死が済むまで今で待つそうよ」

「そうで御座いますか。お父様の死よりも黄金に目がくらむとは嘆かわしい」

「そうかなー」と三男。「やっぱりお金は欲しいでしょ。僕も別に親父の死体になんて興味ないし。けど警察の魔法使いが来るっていうから興味津々だから見に来ただけだし」

「私も同意だ。元々この島に来た理由もそれが目的なんだからな」

 次男も腕を組みながら鼻を鳴らしながら言った。

「やれやれ。ひどい子供達ばかりでで御大もあの世で嘆いているだろうな」時郎は三回目のため息を吐いた。

次回の書きため分がありません。次回分は少し時間がかかると思うますが、ご容赦ください。

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