38、最後は王子とダンスを踊っても夢は覚めない。
王宮の煌びやかな広間に、流行のドレスを着た貴婦人や少女たちがそれぞれパートナーにエスコートされて、踊っている。
私もその中の一員として、エメラルド色の布地に金色の刺繍が入ったドレスを着て踊っている。
前世も含めて彼氏も居たことがない私は、マティウス殿下がしてくれる一つ一つが初めての経験で新鮮で嬉しくてたまらない。
「ナタリー、こんなに綺麗な君と結婚できるなんて夢みたいだ」
「私も、マティと結婚できることになって本当に嬉しいです」
「ナタリー……」
マティウス殿下と微笑みあうこの時間もありがたい。
そもそもマティウス殿下は踊りと音楽が好きなだけあって、ダンスもとてもうまくて踊りやすかった。
これからは生きていられるから、こうやってマティウス殿下と過ごす時間も増えるだろう。
それと生きているから、やる事や決めなければいけないこともどんどん増えてきて、そもそもの頭と体のハイスペックだけに頼っているわけにもいかず、全力で考えて対処しなければいけないことも増えた。
なんだか怒涛の仕事を見ていると、一人でガツガツ片付けたくなってくる。
でも、その度にそれはいけない、とマティウス殿下を見て思い出す。
もう処刑される運命からは解放されたのだから、何事も自分だけで解決しようとせずに、マティウス殿下と話し合ったり、周りと協調しながらやっていかなくてはならない。
当たり前のことを私はこの年で今一度確認しつつやっていく日々だった。
「大丈夫? また何か考え込んでる?」
「そうですね、改めてこういう時間を大事にしたいな、とそんな風に思っていました」
「え、そんな感じだったかな? 何か気になることがあったらどんどん言ってね。まだ、僕は至らない所いっぱいあるし、ナタリーが神の試練を受けている時にもあまり役に立てなかったし」
「そんな事はないと思います」
本当にそんな事はない。
自分の事に精一杯だった私を、政略結婚だったにも関わらず、積極的にかかわろうと努力して大切にしてくださったし、女装してまで私と一緒に居ようとしてくださった。
いつも真剣に私の言っていることに耳を傾けてくださって、私に寄り添う判断をしてくださる。
最近では、
「ナタリーってなんだかちょっとかわいい所もあって、僕が守ってあげなきゃって所もあるんだって頑張れるんだ」
と、マティウス殿下は色々な事を前よりも頑張ってくださって、最近ではマティウス殿下に批判的な大臣は本当に少なくなった。
私は悪役令嬢としてはとても不完全かもしれないけれど、マティウス殿下と助け合ってやっていけるだろう。
私は改めてマティウス殿下を見詰めた。
溶けるような金髪に深みのある緑の目。
……え、こんなかっこいい人が私の事を考えてくれて、私と一緒に居たくて女装までして、私と婚約したままでいたいって自分を捧げる契約魔法まで使ってくれて……。
「マティ…………好きです」
その事を認識すると、私は貴族らしくなく頬が熱をもってくるのを感じた。
「ナタリー……僕も、好き」
マティウス殿下が私の目を正面からしっかりと覗き込む。
いつの間にか、音楽は小さくなって、ダンスの波は止み、自然にマティウス殿下の胸に抱きしめられていた。
※一応、サブタイトルはくるみ割り人形をイメージしました。
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