36、イイ性格をしている悪魔(神様)
「いやぁあああ!! なんでだめぇ!! 今度こそ、イケメンに愛されて幸せになるのに、なんでリセットするのおぉ! あんただれよ!」
ルーチェさんが幼子のように泣きわめきながら神様に向かっていくが、当然のように軽く弾かれて近寄れない。
前世の記憶とやらが完全に戻ってしまったようだ。
神様が、手から一際眩い光を放つと辺りはシン……とした後、音を取り戻してざわめき始めた。
「うわ……」
「なんで……」
「えー……」
と、さっき私を糾弾していた宰相・騎士団長・宮廷魔術師の息子たちが熱が冷めたようにルーチェさんから距離を取る。
ルーチェさんは床にうずくまって顔が涙でぐちゃぐちゃになっている。
「さあ、これで好感度はリセットされた。もうそろそろヒロインが勝つのは難しいって諦めるよ。そこのヒロインが言っていたように、悪役令嬢が最初から身分もお金も美貌も家族の愛も身分の高い婚約者も持っている状態からひっくり返すのは難しすぎる」
神様はニコニコしながら夜会会場に居る皆に語り掛けた。
そんな神様に、夜会に居る上位貴族たちは跪いたまま、
「なんと神々しい」
「ありがたい」
と口々に言って拝んでいる。
傍から見ると、悪魔を拝んでいる人たちでとても引いてしまうのだけれど、皆は違和感はないみたいだ。
確かに『神の世界の作品』はこの神様のビジュアルが時々邪悪なものとして出てきてしまうので、ますますこの世界の人たちは理解できないのだろう。
『白鳥の湖』についてはこの世界の人たちは、鳥獣人なんだか、神様が悪魔なんだか、黒鳥は神様の娘なんだから、とかとても理解しづらいと思う。
私も『割り切って一つ一つの役割を見るように』とアドバイスした事もあるのだけれども、難しいよね。
価値観が違っていると。
「もうちょっかいは出さないよ。悪役令嬢ちゃん、恐怖を与えてごめんね。お詫びに実家も裕福で遊び歩いて楽しめたでしょ? 実家のオリハルコン鉱山はしばらく鉱物が枯れないようにしておいたよ。サービスってわけ。ゲームの事に関する記憶については、この場に居る人の記憶は適当にいじってヒロインと悪役令嬢の生活に支障が出ないようにしとくから。まあ、でも、そっちの泣いてるヒロインは王太子の婚約者を殺そうとしたわけだし、ちょっと生活というか処刑は君こそが免れないよね。ははっ、かわいそー」
一方的な神様(悪魔)の所業に、私はとりあえず怖くて何も全然反論できない。
何故私を悪役令嬢に任命したのだろうか?
もっと気が強くて貴族令嬢らしくて悪役令嬢にふさわしい人はいたんじゃないんだろうか?
「ん? そこら辺ももうシミュレーションしたけど、悪役令嬢らしい気の強い人を転生させると、ヒロインをすぐにぶち殺そうとするわ、ヒロインをすぐにやっつけちゃうわ。王子を完全に自分の虜にして、王子がヒロインの方なんか見なくなっちゃうわ、散々なんだよ。そこら辺は前世色々読んだ君なら分かるんじゃない?」
神様(悪魔)が私の頭の中で考えていることを読んだのか質問に答えてくれた。
え、じゃあ、精神が弱かったから選ばれたの? 私?
それじゃあ、王太子妃なんて務まらないのでは?
マティウス殿下にご迷惑が。
「そうそう、そのぐらい考えるぐらいがちょうどいいよ。それなら王子とも話し合って、意見をすり合わせてやっていけるでしょ? もう、本当、魂入れた自分が言うのもなんなんだけれど、どいつもこいつも自信満々で困っちゃうよ。いつだったかの悪役令嬢はいきなり魔法で僕に攻撃してきてびっくりしたなぁ、もう。僕に与えられた魔法の力で僕に向かって攻撃するって酷いよね。もうその悪役令嬢は魔法使えなくしといたけれど。じゃあ、もうそろそろ質問は終わりかな? 僕が面倒くさいから終わりね。じゃーね、ばいばーい!」
そうして神様は唐突に表れて、微笑みの凄まじいまでの邪悪さの余韻を残して消えた。
正直、消えた時はホッとした。
悪魔(神様)にジッ……とその澄んだ黒い目で見られるのは怖すぎる。
消えた後に、うずくまって泣いているルーチェさんがかわいそうに思えてくる。
悲しい前世があったみたいだ。
それなら、ちょっとぐらい私をだまそうとしても仕方ないのかもしれないのではないか。
だって、やっぱり私だってそうだけれど、幸せになりたいし、そのためならマティウス殿下の気持ちだって踏みにじったのだから。
「ね、もしかして、マーキス男爵令嬢をかわいそうとか思ってないよね?」
ポン、と後ろから肩を叩かれて、首を左右に渾身の力で強く振りながら振り返る。
「思っておりません」
「そうか、多分、マーキス男爵令嬢は、僕の愛する婚約者ナタリー嬢を陥れようとした罪で処刑だね」
「……処刑ですか?」
「うん」
マティウス殿下はとても良い笑顔で返事をした。
……マティウス殿下は成長したような気がする。
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