22、私は悪役令嬢。
私はこの世界の悪役令嬢だ。
名前はナタリー・ド・オランジェ。
13歳で婚約者である王子と顔合わせした時に、私は乙女ゲーム『秘密の宝石箱~イケメンコレクション~』のヒロインのライバルもしくはお邪魔キャラの悪役令嬢だと気づいた。
(殿下の少しイラっとする上目遣いで思い出したのは、本当に良くない思い出し方だった……)
私はそんな事を思い出しながら、私の有能な侍女ターシャに頼んで木陰の木に縛り付けてもらっていた。
今日は貴族学校『アイステリア王立学院』の入学式だ。
貴族学校だから、他の乙女ゲームみたいに平民は入学してこないし、ある程度貴族の秩序が保たれている。
そんなだから、私の式場への入場はマティウス殿下と一緒だ。
私とマティウス殿下は、皆が式場で準備が整った頃に入場する。
「お嬢様、やめませんか? 何故、こんな事をなさる必要があるのですか?」
「しっ、静かにしてちょうだい。そろそろ通るからっ」
侍女のターシャとひそひそ声で話し合う。
木に縛り付けられた私からは、学校の門が見えて、あちらからは木立が邪魔で私とターシャの姿は見えないはずだ。
私のゲームに対する記憶は時々、頼りにならない時があるけれど、これは大丈夫なはず。
なんと言ってもヒロインと攻略対象であるマティウス殿下の出会いのシーンなんだから。
そして、そのゲームの出会いのシーンではヒロインの前に私も悪役令嬢として嫌味を言いに登場する。
自分を木に縛り付けているのは、万が一にもゲームの強制力が働いても、ヒロインに嫌味を言いに行かないようにだ。
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ヒロインが学校の門の所で転んで、攻略対象者の『アイステリア王国の王太子マティウス・ド・アイステリア』に、
「大丈夫?」
って声をかけてもらって、上目遣いの自信のなさそうなマティウス殿下が、
「あ、あのっ、気をつけて……」
って、ヒロインに手を貸してあげるシーン。
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完全に恋が始まる予感なシーンだ。確かに悪役令嬢なら『何で人の婚約者と良い雰囲気になっているのかしら?』って嫌味を言いたくなる。
そうやって私が思い出している間に、門の方にピンクブロンドの髪の人影が差した。
(きたっ! 私が予想していた男爵令嬢だ)
調査資料では、ヒロインの名前はゲーム中では決まっていなかったけれど、『ルーチェ・マーキス』という名前の評判の男爵令嬢。
マーキス男爵領という比較的アイステリア王国内でも長閑な御家の出身で、評判は良く言えば天真爛漫。貴族らしくなくマーキス家は子供を伸び伸びと育てたい方針だそうで、マナーや学習は貴族学校に入れる最低限だとか。
改めて、ヒロインが転んだところに、マティウス殿下がゲームの強制力なのか登場する。
というか、マティウス殿下が一緒に行こうと誘ってくださったのを、用があるからと断ってしまったから一人で護衛を連れて登校しているのね。悪いことをしたかも……。
マティウス殿下は、良く見ると本当にゲームの雰囲気そのままの、金髪に緑の目の王子様だ。
「大丈夫?」
マティウス殿下はゲーム通りの上目遣いではなくて、最近私にも皆にも見せているキラキラ王子様でヒロインに対応していた。
更にゲームと違ったのは、転んだヒロイン『ルーチェ・マーキス』を助け起こしたのはマティウス殿下ではなくて王太子付きの女騎士の方だった。
それを見てホッとする。
(そうよね。未婚の女性の手を握るのは王族・貴族の男性としていけない事よね)
「あっ、すみません。大丈夫です」
ヒロインは女騎士の手を借りて立ち上がる。
ポンポンと自分の制服をはたいて汚れを落としているらしい仕草が、なんともヒロインらしくて可愛い。
マティウス殿下はそんなヒロインに、微笑んで見せた。
私の胸がチクッと痛んだ。
マティウス殿下は私が言い出した『完璧な王子様』の演技をしているだけなのに、そんな風に他の女性に微笑みかけるなんておかしいと思ってしまう。
いつの間にか木に縛り付けられた腕に力がこもっていることに気づいた。
(なるほど、この気持ちがきっとゲームの強制力なんだわ)
「そう、良かった。気を付けてね」
微笑みながら去っていくマティウス殿下に、ヒロインは頬を染めている。
(やっぱりマティウス殿下狙いなの? なんだか、嫌。処刑されるってあきらめている私がそう思うのなんてどんな権利があるのって感じだけれど)
「は、はいっ!」
ヒロインは、そう上ずった声で返事した後、そこに立ったままマティウス殿下が去っていった方向を見詰めていた。
そして、少しキョロキョロした後、慌てて学校内に向かっていったのだった。
……そう、男爵家の人たちの入場時間はとっくに過ぎているのよね。
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