16、気づいたことがある。ナタリー嬢は呼ばないと来ない。(マティウス視点)
早速、ナタリー嬢に珍しい曲を弾いて見せるために、公務を今までにない速さで片付けて、倉庫に向かった。
途中、比較的(本当に比較しての相対評価だ)僕に対して嫌味のない財務大臣に捕まって、
「最近、殿下はやる気に溢れてますな。それもこれも有能な婚約者を迎えたからでしょうか。結構な事です」
とにこにこした顔で言われた。
(もちろん、裏で『今まで無能な王太子が優秀な婚約者を迎えたからと言ってちょっと張り切っても無駄』みたいな嫌味が込められているのは分かっている。比較的強烈な嫌味がない方だという事だ)
というか財務大臣も、オランジェ家の財政を王家が一部当てにしてやりやすくなったからだろう。
だから嫌味を言いつつも結構心からにこにこしている(顔色をうかがうのが得意な僕だ)。
ナタリー嬢の実家のオランジェ家は、当主が才能に溢れた娘と息子が生まれて俄然やる気になり、オリハルコン鉱山もきちんと国の許可をとって運営されている。
あの当主は化け物だ。
貴族家というのは、長い間領地を運営している。
という事は、もう領地についてはある程度研究されつくしていて、急に希少金属のオリハルコン鉱山を発見するなどありえない。
………財務大臣のホクホク顔もしょうがないのかもしれない。
でも、そんなオランジェ家とのつながりも、僕とナタリー嬢のつながりにかかっている。
こんな自信のない僕では不安だけれど、なんとかナタリー嬢を繋ぎとめるくらいはしたいものだと思う。
あれだけの才女が果たして王家の繋がりと、未来の王妃の地位で満足するのだろうか。
………あんな勉強もできてマナーもできて、最近では文化活動にも乗り出しているナタリー嬢をどうやってつなぎとめるか不安だった。
ーーー
「氷の輝き(アイスブライト)!」
倉庫について王族にしか開けられない扉を開けると、倉庫の中の光魔法の照明が輝いた。
結構明るいけれど、手元も照らしたくて、更に氷魔法の明かりを照らす。
さすがに色々出来損ないの僕でも、代々アイステリア王国の王族に伝わっている氷魔法は一折扱える。
それでも妹はもっと器用に氷魔法を使えるのだけれどね。6歳で。
綺麗に分類されている倉庫の一番端に王たちが残した文化関係の書類はあった。
楽譜、物語、詩、絵画、書道、他愛もない思索、様々な書類がある。
楽譜を誓い年代のものから見て、楽譜の通りに頭の中で音を鳴らしつつ、『神の世界の作品』により近いものを探していく。
その中で『王都』と題名が書いてある楽譜が、『神の世界の作品』に近いもので、なおかつこの世界の音楽とも混ざっていて面白いと思った。
楽譜の余白に、『城から見た街の移り変わっていく様子を絵画では難しいから、音楽に残す』と書いてあった。
………なるほど、絵画は静止画だけれど、音楽なら動きを表現できると思ったのか。
ーーー
十分に発見した楽譜を弾けるようになってから、ナタリー嬢を王宮に呼び出した。
ナタリー嬢は王太子妃教育や大臣からの国政のレクチャーや、王宮でのマナー等で頻繁に訪れるけれど、僕とは全然交流しようとしない。
常日頃、ナタリー嬢が王宮に来ていると聞いて、僕が少しでもナタリー嬢の顔を見ようと何気なく通りかかったという体で、そちらに向かっても帰った後だ。
婚約者とのお茶会も、ナタリー嬢が文化視察活動に忙しいのか全然スケジュールには入らなかった。
……本当にナタリー嬢は僕に興味がないんだなぁ、と思う。
この感じから言って、僕に誘われるのを待っているという事はない。
さすがの僕もちょっとイラっとして、ナタリー嬢に王宮の音楽ホールへ来て欲しいと、依頼した。
ナタリー嬢は急に呼びだされたにしては、とてもオシャレで隙のないドレス姿で王宮に来てくれた。
貴族なのに、
『何故呼び出されたんだろう?』
みたいな思いが隠せていない。
自分では意識していないのだろうけど、わずかに首まで傾げていた。
僕とナタリー嬢は婚約者だと思うのだけれど…………。
婚約者………交流………したいな。
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